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61 動き出す挑戦

「…確かに…その通りなら…うまくいくかもしれないのね…。でも…」


「…そうだな…。『あいつら』にとっては知られたくない事実になる…。それに…レイヴォルトも『彼女』を信じることができるかどうか…」


「…賭けなのね…」


「そゆこと…だな…」


 あれから…俺たちは一日中をかけてこれからの脱獄計画を練りに練ることにした…。まぁ…俺のある『推測』をティナに伝えて、どうするべきかのアドバイスを受けた上での脱獄計画なわけだが…。


 だが…自信はある。なんたって…俺はこのゲームをやり尽くしたゲーマーだからな!…理由になってねぇけど…。


「…ふぅ…こうなったら善は急げ…なのね!」


「そうだな…。とりあえず…レイヴォルトとの接触からだが…」


「それは問題ないのね。この『写真』を返すから戻ってこい…とか、大事な話があるから…とか伝えればいいのね」


「なるほどな…。看守の目はどうする?」


「そこは…頼み込むしかないのね…。こればっかりはどうすることも…。レイヴォルトがどう応じるか…」


「…後戻りなしの一発勝負ってやつか…」


 …上等だ…。こっちはもう腹は決まっている…。これでうまくいかなかったらいかなかったで諦めもつくもんだ…。…いや!諦めねぇけどな!


 「よし…そんじゃま…さっそく行動に移してみますか!」


 こうして…難攻不落の監獄からの脱獄作戦が始まることになったのだった…。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 コツコツコツコツ…



「…なぜ今になって急に…」


「わかりません…レイヴォルト様と話がしたいと…。それと…渡したいものもあるようでして…」


「私に?…相手は魔王軍に所属していたものだ…気を引きしめなくてはな…」


 参ったな…。これからハルア教との対策をしなくてはいけないのに…。まぁ…上の連中は何も行動する気配もなさそうだが…。


 …なぜこの国を動かす者達は危機意識が薄いのか…。…これでは私の行ったことも無駄になる…。


 …もっとも…生きる目的…彼女がいなくなった私にはどうでもいいことか…。


 それより…突然連絡を寄越すにしては早いな…。何か伝えたいことでもあったのか?…あまり期待はできないが…。


「…レイヴォルト様…こちらです」


「…すまないね…案内させて…」


「いえいえ…。ヴォヴォル看守長もバルコス副看守長も忙しいみたいで…。私なんかで申し訳ありません…」


「いや…そんなに頭を下げなくとも…」


「とりあえず私も同伴いたしますのでご安心を。それでは…」


「そうだな…」



 ガチャッ…



 さて…一体どうなることやら…。




 …



「…おっ!お早い到着で…」


「…少年…私に用があるとのことだが…」


「あぁ…まぁ…座ってくれよ」


 部屋に入って一瞬…目の前で座る少年の雰囲気に違和感が…。あのときのようなふざけた態度ではなく…何かを決心したような覚悟を感じた。


 それが一体なにを意味するのか…これからの会話でわかるのだろうか…。


 そんなことを思いながら椅子に座ると、少年が断りをいれてくることに…。


「おっと!わりぃけどそばにいるあんた!あんたは外にいってくれないか?」


「…!貴様っ!何を考えている!ふざけるなよ!」


「いやぁ…企業秘密で…。それとも…レイヴォルト一人でも心配?」


「このっ!」


 少年の言葉に憤る看守の男…。顔を真っ赤にさせながら拳を握りしめている…。ここは冷静にさせなければ…。


「…君!少年の言葉に無理して反応することはない」


「しかし…」


「相手は一人…。私だけでも十分に対応できる。すまないが…外で待機してほしい…」


「…わかりました…。レイヴォルト様がそう言うなら…」


 ここで少年の要求に折れるのも複雑な気分だが、こうでもしないと話を進めてくれないかもしれん…。果たして…何を語るのか…。





 …ガチャン…



「さて…ここにいるのは私と少年の二人だけだ。用件だけを聞こう…」


 看守の男が退席したあと…私はすぐに尋ねることにした。あまり時間をかけたくないのもあるが、話の先が気になった…というのもある。


「…そーだな…。そんじゃま…まずは…」


 少年はそう口にすると、ポケットの中から何やら光るものを取り出した…。金色に光るそれは机の上に置かれると…



 …コトッ…



「…これ…お前のもんだろ?落ちてたから拾ったんよ」


「…!…そうか…」


 …参ったな…。どおりで探しても見つからなかったわけだ…。まさか少年に見つけられていたとは…。あの一瞬の時にでも落としたのだろうか…。


 そうなると…


「…中は見たのか?」


「…んまぁ…見ちまったのは不可抗力で…」


「…なるほど…これは弱味を握られたな…」


 …どうやって話を進めればいいのか…。私としても、自分の大事な人を赤の他人に見られる…と言うのは変な気分だ…。別にそれが悪いことだとは思わないが…。


 …馬鹿だな…私は…。そんなことは今考えるべきではない!目の前のことに集中しよう…。


「…それより…他に用件があるのではないのか?まさか…これを渡すためだけに呼んだわけではないだろう?」


「…おぅ…。とりあえず…ちょっとした取引がしたくてな…」


「何?取引だと?」


 …何を考えている?この状況で…取引も何も…。私はその場の空気に…少年からの雰囲気に一瞬身構えそうになった…。下手をすると、何かが起きるのではないか…。そう思わずにはいられない…。


 そう思案していると…


「…今だ!ティナ!」


「…!!?何を…!」


 少年が叫んだ瞬間…その場ですぐに立ち上がろうとするが…



 ビシッ…!…ググッ…



「なっ…!これは…体が…!?」


 くっ!不覚…!いつの間にか、私の体が何かに縛られたように動かなくなってしまった…。口は動かせるものの、これでは何もできない!


「わりぃ…こうでもしねぇと話がうまくできない感じがしてよ…」


「…貴様…!」


 ここには少年が一人と私だけ…。おそらく…『拘束(リストレイン)スキル』を使用したんだろうが…体に触れられていない…。一体どうやって…!


 そんな私の疑問に答えるかのように…足元から声が聞こえてきた…。









「…お初にお目にかかるのね!剣聖レイヴォルト…。私の名前はティナ…。魔王軍…三大幹部の一人なのね!」









 …!?どういうことだ…!唯一自由に動く顔を下に向けると…そこには十代に満たない少女が…。


 桃色に光る頭髪…金色の瞳…。身に付けている衣服は、この国ではあまり見かけないもの…。


 その少女が、四つん這いになりながら私の足を掴んでいる…。まさか…


「体が動かないのは…やはり…!」


「…ふん!ティナには朝飯前なのね!こんな状態でスキルを使うのは疲れるけど…」


 …やられた…!私としてはてっきり一対一を想定していたというのに…。どうやってこの監獄に入ってきたんだ…。


 そんな私の焦りに追い討ちをかけるかのように…目の前の少年は落ち着いた様子で口を開いていく…。


「…さっそく始めようぜ!レイヴォルト!有意義な取引ってやつをよ!」

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