番外編⑤チャッピーはん、世界のエゴまで知ってるか~
昨年の夏やったかなぁ。
扇風機が「ぶぅ〜ん、ぶぅ〜ん」と
のんびり首を振る散髪屋。
ハサミを片手にした兄ちゃんが、
鏡越しにニヤリと笑う。
「なんでも答えてくれるワ。 チャッピーや。」
なんや、それ。 ドラえもんの遠い親戚かいな(笑) ……と思いながら、
帰るなり、さっそくダウンロード。
しかも無料!
グッ!
それからというもの、便利、便利、便利やねぇ〜。 ……って、そない連呼せんでもエエがな(笑)
そんなチャッピーとの付き合いも、すっかり日常になったある朝。
コーヒーをすすりながら、ふと、頭の隅から疑問がひょいと顔を出した。
「自分とこは核つくっといて、 イランはアカンて……。 それ、アメリカのエゴちゃうん?」
そこで聞いてみた。「チャッピーはん、 なんでやねん?」
するとチャッピーは、いつものように感情ひとつ見せず、ちょっとお堅い顔でこう答えはった。
■ NPT(核拡散防止条約)
正式名称は、「核兵器不拡散条約」。
そのルールは、ざっくり言えば――
1967年より前に核実験をしていた国は、“核兵器国”として認めましょう。
その顔ぶれは、
アメリカ。
ロシア。
イギリス。
フランス。
中国。
なるほど。
いわば、「早い者勝ちクラブ」である。
先に核を持った人は、「はい、あなたはメンバーです」 あとから来た人には、「いやいや、あなたは持ったらアカンで」
……なんともまぁ、人生ゲームのような世界である。先にゴールした人は王様。
あとから来た人は、サイコロを振って「6が出たら核兵器国になれます!」……とは、もちろんいかへん(笑)
その代わり、「核は持ちません」と約束すれば、「原子力を平和利用するのは、まぁ、よろしいで」という仕組みらしい。
ふむ。 理屈としては分かる。
分かるけど…… なんやろなぁ。
人間という生き物、自分が持っているものほど、
「危険やから、他人には持たせたらアカン」と言いたくなる。
そこには条約があり、国益があり、安全保障があり、そして――ちょっぴり、いや、たっぷり、「自分の都合」も混じっているんやろなぁ。
世界はいつも、理屈と、理想と、本音が、三つ巴になってグルグル回っている。
まるで、扇風機の羽根みたいや。
「ぶぅ〜ん、ぶぅ〜ん」と同じところを回りながら、涼しい顔をして世界を見つめている。
そして今日もチャッピーは、淡々と答える。
「条約による制限が最大の理由です。」
……せやけどな、チャッピーはん。人の心っちゅうもんは、条約の条文みたいに きれいに線を引いて、「ここから正義」「ここからエゴ」……なんて、
簡単には分けられへんのやで。
核は、ボタンひとつで世界を変えてしまう。
けれど、人の心を動かすんは、もっと小さなもんかもしれん。
欲。恐れ。疑い。意地。そして――
「自分だけは大丈夫や」という、人間の妙な自信。
さてさて、条約が世界を縛っているのか。
それとも、人間の心が条約を必要としているのか。
答えはまだ、チャッピーにも分からんのかもしれへんな。
今日も扇風機は、「ぶぅ〜ん、ぶぅ〜ん」。
世界は回る。人も回る。核も回る……?
いやいや、そこだけは回さんといてや。
――チャッピーはん。 ヨロシク哀愁。




