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鳥獣戯詩  作者: 妻戸裕次


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第50話「万年亀の午後」

春の池で、亀がポカポカ浮いていた。ただの昼下がりの景色――のはずだった。


ふと、岸のコンクリートで甲羅干ししている一匹と目が合った。その目が、やけに古い。

古いというより、時間そのものみたいに静かだった。


歴史の眼??


「ずいぶん昔やけどな」


亀は、独り言みたいに言った。


「この池のほとりで、聖徳太子が休んではった」


冗談を言う顔ではない。何百年も日向(ひなた)を見てきた者の、のんびりした確信だけがある。


考えてみれば不思議なことだ。

人はせいぜい百年で、世界を分かった気になる。


けれど池の亀は、千年も万年も、ただ浮かび、ただ日を浴び、ただ見ている。


亀は万年生きるという……

ホンマかいな!!


歴史も伝説も、この池ではただの昼寝の続きなのかもしれない。


亀は目を細め、ゆっくり甲羅を乾かしながら言った。


「太子か。ええ人やったで。」


太子が、法隆寺から飛鳥の橘寺へいく途中の休憩場所がこの池だったと言う。


春の光のなかで、その言葉だけが、妙にほんまに聞こえた。


ホンマにホンマかいな(笑)

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