朽木! 執念の正論パンチ!!
「予想通りではいるけど……やっぱり人数差おかしい よな」
僕の目の前に広がるのは丸木村のほぼ全人口。丸太を手に取った歴戦の勇士達だ。
「樹、頼んだぜ」
僕は【ペンドラゴン】を強く握り花粉を放出させる。やがて花粉は収束し――一本の黄金の丸太が顕現する。
「二人の道は僕が切り拓く――ッッ !!」
それは決戦の火蓋。天を貫く極光。その大いなる名前を僕は大音量で叫ぶ !!
「――エクス……ッッ」
「やっちゃって下さい !! 樹さぁぁぁぁぁぁんッ !!」
枯葉の声に応えるように振りかざす。
「マルタァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!」
黄金の暴風は自由と雌花を求めて一直線に丸木人達の元に迫り、炸裂する。
「今だ!! 朽木、枯葉!!」
エクスマルターによって拓けた道を二人が疾駆する。 村長の待つ祭具殿に一直線に。
「まずは一歩前進だ。後は残りの人を【マルタナティブ】すれば――」
「樹、悪いけど思い通りにはさせないぞ」
いや、一箇所。一箇所だけエクスマルターが効いていない箇所が存在した。そこは全方位を丸太で囲んだ異様な、けれど余りにも堅牢な守り。
「知ってたか樹。ヒノキってファランクスみたいな陣形にすると強いんだぞ」
「……初耳だよ。松山心葉ッ!!」
その正体は松山率いるヒノキ愛好者の集いだった。二人の行く手を阻む一団に向かって肉薄する。一度花粉を全力噴出した【ペンドラゴン】は賢者タイムなのか丸太の体こそ保っているが再度【エクスマルター】を放てそうに無い。しかし、それが丸太であるならば――ッ!!
「はぁぁぁぁぁッ !!」
ペンドラゴンで丸太を構える男子生徒を全力で殴り抜く。
丸太、それはこの村に於いてのみ最強の汎用性を誇る凶悪兵器。
重力を利用すれば最強の槌に。数本束ねれば最強の盾に変貌を遂げる。その様は正に千変万化。頭のおかしい汎用性を誇る。
「二人の邪魔は……させないッ」
殴打、殴打、殴打!! 丸太による殴打の嵐ッ!!
「木本……樹ィィィッ !!」
「松山ァァァァァッ!!」
数多の生徒達を殴り飛ばしながら僕は絶叫する。
何故だろう。何故こんなにも気分が昂ぶる。何故ここまで――熱いッ!!
しかし、攻勢は長くは続かない。
「ヒノキの心材から抽出したオイルを喰らいなッ!!」
松山が懐から小瓶を取り出すとそれを【ペンドラゴン】に向かって投擲する。
中から零れ出たヒノキオイルは綺麗な弧を描きながら手元に着弾すると、場違いに良い匂いを放ち始めた。
不味い。ヒノキにはリラックス効果がある。こんなものを嗅いでしまえば戦意が確実に削がれる。 匂いを嗅がないように注意しながら丸太を握る手に力を込めるも、そこは流石にオイル。ツルツルと滑って力が入り難い。
「恐れ入ったか樹! これがヒノキの真の力だッ!!」
侮っていたわけでは無い。けれども、こんなにも苦戦を強いられるとは思いもしなかった。
「おい松山、朽木達が逃げるぞ!! 追わなくて良いの かよ!!」
しかし、僕が苦戦している間にも朽木達は先に進めたらしい。
「どうせその先には委員長がいる。どっちにしろ通行止めだ。だから今は目の前の樹に集中しろッ!!」
松山のその声に応える様にヒノキが僕を圧殺せんと迫る。対応しようにもオイルで手が滑って【ペンドラゴン】を掴み続けるのが非常に難しい。
「コレが……丸木人の魂」
丸太を信ずる心。丸太を愛する心。
ああ、成る程。やはり僕は少しだけ間違えていたようだ。
「取った!! この勝負我々の勝利だ!!」
――その戦場には、爽やかな風が吹いていた。
♪♪♪
その頃、二人は祭具殿の方へと向かって走っていた。
……筈だった。
「アイツ、どさくさに紛れて何処行きやがった……」
朽木は空いた手で髪をガシガシと掻きながらそう呟く。
枯葉とはつい数分前までは併走していたのでそう遠くには行っていない筈だと周囲を見回すも小柄な背丈のせいで中々見つからない。
その代わりに目に映るのは枯葉とは正反対なスラリとした長身の女生徒。朽木はその女生徒をよく知っていた。
「随分と遅かったな、朽木」
「待たせたみてぇだな委員長。いや柊梢ッ!!」
【フォリウム】を強く握り込みながら柊梢を睥睨する。
制服を身に纏い、この村の象徴である丸木杉を大地に突き立てながら仁王立ちする柊梢の姿は正に戦女神のようだ。
「……この村に逆賊は不要だ。【丸太至上主義】の前に脆くも砕け散れ。朽ちた木にはその末路がお似合いだ」
「朽ちるのは……テメェだッ!!」
怒りを示すかのようにギャリギャリと【フォリウム】が低い唸り声を上げる。
「砕け散れッ!!」
チェーンソーと丸太がぶつかり合う。しかし神樹には傷一つ付かない。いや、寧ろ【フォリウム】の刃が軋む異音すら聞こえてくる。
「クソがッ!」
タラリと一筋の汗が頬を伝う。
【フォリウム】は【アスガルド】が朽木の為に用意した特注の品。その刃はコンクリートすら容易く剪断し、単体でも強力な兵器足り得るスペックを有している。
なのに、丸木杉の前では悲しい程に脆い。しかしそれも当然のこと。丸木杉は自己防衛の本能か ら花粉を放出し、宿主のリミッターを外し続けているのだ。常人である朽木は生粋の丸木人である柊梢に決して届かない。
「あまりにも弱い」
それは【フォリウム】を用いる朽木を示した言葉だっ た。
「テメェが強過ぎんだよ」
肩で息をしながら朽木は尚も【フォリウム】を構え続ける。しかし、不意に全身から力が抜けてその場で膝を着く。動け、動けと再三念じるが【フォリウム】握る腕も、何もかもが鉛になってしまったかのようでロクに動きはしない。
「……花粉が効き始めたか」
絶望の二文字が脳内を埋め尽くす。
動けない。動けてもこの刃は決して届くことはない。
「俺は……まだッ!!」
吼える。それが意味のない事だと知っている。勝てない事も分かり切っている。しかし、ほんの少しの、吹けば消えてしまいそうな意地と闘志、それだけが今の朽木を駆り立てていた。
「何故【丸太至上主義】を否定する。お前だって丸木村の一員だ。お前も丸太を受容すればこんなに苦しむ必要も無かった筈だ。……肩を並べて共に戦う事だって出来 ただろう」
少し悲しげに柊梢は言う。
「かもしれねぇ。けど、そんなのは思考停止と変わらねぇじゃねぇか。確かに【丸太至上主義】は居場所を、家族を、繋がりを、人にとって大切なものを全部与えたかもしれねぇ。けどよ、それをただ受け取るだけの人生に何の意味があるってんだよ。それに、ウゼェんだよ。口を開けば丸太丸太丸太! 丸太がねぇとテメェ達は何 も出来ねぇのかよッ! その挙句、その思想を俺にも押し付けて来やがる。勝手なイメージを俺に押し付けるなッ!!」
「……言い残すことは、それだけか」
丸太が、迫る。無慈悲に、残酷に。
その瞬間――閃光が爆ぜた。




