信じるか否か
すぐに応答しないディンセントに代わり、レイブリックが口を挟む。
「ちょっと待ってくれ。城に行くって、そのソラニルも連れていく気か?」
「ええ」
「それは許可できない。コハントルタでは、島内でソラニルを無許可に連れ歩くのは禁止されている。しかも、そのソラニルが広場を破壊していないとも言い切れない」
「クゥムーはそんなことしないわ!」
「それはキミの意見だ。それだけでは我々は判断できない。現場の状況や目撃者から得られる情報など、事実関係を調査しなければならない」
「ごめんな。キミには悪いけど、そのソラニルは預からせて貰わなきゃ」
騎士の志で眼鏡を光らせるレイブリックの話に、どこか済まなそうに肩を竦めたフェクサーが割り入った。
「そんな……」
思わず、ロカは一歩下がる。クゥムーは自分の置かれている立場を察しているらしく、ロカの背に隠れるようにくっついている。ぐ、と拳を握ったロカは、一歩引いた足をすぐに前に出した。
「ディンセントは、信じてくれないの? お城に連れていってくれるんでしょ? ねぇ、クゥムーは悪いことなんかしないのよ」
「……」
ロカの切望に、ディンセントは返答に窮した。判断できる確実な材料が見つからず、考えがまとまらない。ただ、現時点でのレイブリックの判断は正しいように見える。では、どうして答えが出ないのか。
ハイエフのエンジン音が、疑念に苛まれた唸り声にさえ聞こえてくる。
往ったままの自分の声にロカは俯き、ぎゅっと唇を噛んだ。
「……もういい」
彼女の低い一声は、ディンセントの心臓をピリッと痺れさせる。
ロカは別の空を向いて呼びかけた。
「リザレオ!」
どうやってこの場に介入しようかと計っていたリザレオは、これ幸いにと自分の名を呼ぶ者の所へと急いで駆けつけた。エアロハイカーの着陸で、石畳の表面に砂塵が渦をなぞる。
「ロカ」
「呼びつけてごめんなさい、リザレ、」
「ムー!!」
ロカの言葉を弾き飛ばす勢いで、クゥムーはロカとリザレオの間に割り入るように飛び出す。
「えっ」
「クゥムー?」
リザレオと正面で対峙し、その甲殻でロカを守るように身構えている。尾はしなやかな鞭のように上下に強く振られ、臨戦体勢に入っているようだ。
「ど、どうしたの、クゥムー、何を怒っているのっ?」
クゥムーはロカの言葉にも反応しないようで、威嚇のような低い唸り声を響かせている。リザレオは、何か、クゥムーの気に障るようなことをしたのだろうか。人だかりはざわつき、緊張が走る騎士たちもすぐに行動ができるよう身構えた。
「あっ、えっ、ご、ごめんねっ?」
動揺する彼は慌てて謝るが、自身が意味を解さずの謝罪では通じるはずもなく。
「プルルル!」
「クゥムーっ」
見かねたロカはクゥムーの頭を抱え込むように抱き付く。クゥムーの意識を自分へと向けさせた後、甲殻の下の弾力のある顔を両手で挟み、正面からにらめっこする。人だかりはさらにざわついた。
「もう、どうしてか言ってくれないと分からないでしょっ?」
「ミュミュ!」
ロカに頬をむにっと押されていたクゥムーはいやいやと頭を振ると、ロカの手をするりと抜けて少し高い空中から二人を見下ろす。ロカは困った表情で見上げる。
「ごめんなさい、リザレオ。何だかよく分からないけど、機嫌が悪いみたい」
「いやっ、うん、大丈夫だよ」
「ムルルっ」
眼下の二人がやり取りをしているのを見るや否や、クゥムーはすぐにロカの傍に舞い降りると、やはりリザレオから彼女を守るようにくっつく。
「ごめんごめん、ロカに近付かないから」
リザレオは苦笑いすると、二、三歩後退した。クゥムーはリザレオへ焼きもちでも焼いているのだろうか。
勝手に盛り上がっている二人と一匹の周囲は別次元のようにそこだけ明るく際立つようで、構えていた騎士たちの緊張感をみるみるうちに削いでいった。
アオハルかよと思われてます。