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宮田 ユウスケ(みやた ゆうすけ)

大きく息を吸い込む。

肺一杯に入った空気を、ゆっくりと鼻から吐き出す。

それを全部で三回繰り返す。

二回目、三回目と進むにつれて、そのスピードを落としていく。

最後の空気は肺の中身を少しも残さないように全て吐き出す。

そして、精神が安定したところで、イメージを膨らませる。


ここは、どういう場所か。

俺は、どういう人間か。

今は、どういう状況か。

そのイメージを全身に浸透させていく。

頭のテッペンからつま先まで。

毛細血管から細胞の一つ一つまで。

これが、役に入りきる為の俺のルーティンだ。


ここはコンビニ。

俺は俳優を目指している。小さいながらも劇団に所属している。

今は、バイト中。

夜勤シフトでレジを前に店内を見回している。

客は誰もいない。


 今日はどんな役になりきろうか。


昨日、なりきった役柄は、真面目、がり勉、人見知り浪人生。その役柄のままバイトをやりきった。心なしか俺を見る客の目が冷たかったが気にしない。


そうだな。今日はチャラ男でいくか。

昨日の俺を見ている客は俺の豹変ぶりに驚くだろうな。

双子か別人かと思われるかも知れない。それぐらい、なりきれれば成功だ。


 さあ、役になりきるルーティンを始めようか。


「ピンッポーン」


店内に間延びした電子音が響き渡った。店に客が入ってきた時に鳴る音だ。

反射的に入り口に目を向け、かろうじて聞き取れるくらいの大きさで、


「いらっしゃいませー」


と、声を掛ける。

チャラ男になるタイミングを失ってしまった。

まあ、いいか。今日は、素のままでいくか。


客は男女二人組。男の方は、背は高め。二十代後半といったところか。

すらっとした体形で、二枚目だ。服装はシンプルなものだが、モデルのように着こなしている。センスが良いのが滲み出ている。


俺は、こういうタイプの役をやるのは苦手だ。

正直なところ、俺は二枚目ではない。いや、顔はそんなに悪くないとは思う。

けど、やはり持って生まれたものには敵わない。

主人公タイプでもない。どちらかというと、主人公の友達だったり、悪役の手下だったり、その辺の役の方が似合うと思う。


女の方は、どうやら酔いつぶれているみたいだ。

男に寄り添ったまま、足取りがフラフラしている。こちらは二十代前半か。化粧が濃いから断定は出来ないが。

背丈は、高めのヒールを履いているのを差し引いても、女にしては高い方か。

体形は、やせ型。しかし、不健康そうには見えない。余程、普段から体調管理に気を付けていないと、こうはならない様に思う。

髪は黒髪のロングで、ストレート。束ねているわけでもなく、自然に任せているが、悪い印象は受けない。

服装は、雑誌モデルが着ていそうな両肩丸出しの白のニットに薄いピンクのロングスカート。

勝負を賭けてきたと、すぐに分かる。


二人は、店内をぐるっと一周し、女の方が、


「れなねぇ、缶チューハイがいいなぁ」


というのが聞こえて、男の方が缶ビールと缶チューハイを買って帰って行った。


「まだ、飲むのかっ」


って、ツッコんでやりたかったけど。


コンビニの店員って仕事は、今の俺には丁度良い仕事だ。いろいろな客がやってくるのを見られるからだ。しかも、金を貰って。


田舎から出てきたばかりっていう感じの大学生みたいな奴。

自分磨きを徹底しているような女子力高め女子。

凄腕キャリアウーマンっていう感じの正統派美人。

立ち居振る舞いで、育ちの良さがすぐに分かるお嬢様系女子。

俺が勝手に「インテリクールビューティ」ってあだ名をつけた理系女子。

たまに来て、お菓子とカップ麺を大量に買っていく引きこもりメガネデブ。


とにかく、次から次へと個性的な人間が現れる。人間観察をするには、もってこいの場所だ。ほんと、役作りには役立たせてもらっている。


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