麻生 孝介
世の中には馬鹿ばっかりだ。つくづくそう思う。
103号室の住人が殺人で捕まったらしい。
馬鹿だ。
殺人を犯したことを言っているのではない。
隠し通せずに捕まったことが、だ。
計画性も無ければ、臨機応変な対応もできない。
捕まった時には
「真上に住んでいる男が通報したのか?」
と、捜査員に対して喚き散らしていた。冷静さを持ち合わせていない。
俺が住んでいるのは201号室だから、そこまで声が届いたということは、相当取り乱していたのだろう。隣の部屋は空室だから分からないが、恐らく、他の住人も気付いたことだろう。朝早くにあれだけ騒がれると迷惑だ。
事件発覚後はマスコミがアパート周りに居座っているのも迷惑だ。
このアパートにも住み辛くなってしまった。引っ越しを考えなくてはいけなくなった。他の住人もそう思っていることだろう。周りの人間に迷惑をかける殺人犯。
馬鹿だ。
俺を見習え。
俺のやり方はこうだ。
まず、街でカモを見つける。若い女がターゲットだ。一人でいる大人しそうな奴が良い。狙いを付けた女には、こちらから偶然を装って近づく。
営業で鍛えた観察眼と相手の懐に入る営業トークで、食事と飲みに誘えれば成功したも同然だ。
あとは、酒で酔い潰すか、酒にドラッグを混ぜて潰す。
ドラッグは意外と簡単に手に入る。街にいる外国人から買えば良い。相手の外国人は誰だかわからないが、相手も俺の事はわからない。そこから、足がつく可能性は極めて低い。取引現場には金で雇った馬鹿そうな若造に行かせる。俺は物陰からその様子を見ていれば良い。その若造が取引中に警察に捕まるようなら、俺は、その場から消え失せれば良い。
後は、酩酊状態の女をホテルに連れ込み、裸の写真や映像を撮影する。
後日、画像を添えて、脅迫文と振込先を明記して本人に連絡する。
振込先の口座も裏ルートから入手可能。当然、口座名は俺の名前ではない。定期的に口座を替えていれば、仮に通報されても足はつきにくい。大金が必要になることは少ないから口座からの金の引き落としは極力しない。リスクは最小限にする。
振り込み要求は一回きりにする。回数が増えれば、被害者が通報するリスクが高まる。
要求金額も支払い能力のギリギリより少なめに設定する。厳しい要求をすれば、こちらも通報されるリスクが高まる。
入金が確認されれば、画像や映像は一切処分してしまう。犯罪とはいえ、俺にとって被害者は取引相手だ。信用を失っては自分の身に危険が及ぶ。
欲深い奴は、その強請りネタだけで、被害者を追い詰めてしまうから、耐えかねた被害者に通報されたり、殺されたりしてしまう。
馬鹿だ。
馬鹿といえば、最近、もう一人馬鹿がいるようだ。
どこの誰かは解らないが、どうやら俺を標的に詐欺をはたらこうとしている奴がいる。
狙われているのは、俺の通常使っている口座だ。
俺が使った記憶の無い用途で、振り込みがされそうになっていた。早速、そのクレジット会社に問い合わせてみると、
「当社の手違いでした。大変、申し訳ございませんでした」
と、結構、上の役職の人間が電話応対をして、平謝りされた。
これだけなら、ただの手違いで終わるのだが、他にも俺が持っているクレジットカードの明細を調べてみると、用途不明の購入履歴が出てきた。
明らかに俺を狙ったネット犯罪を仕掛けてきてやがる。
馬鹿だ。
俺様を狙おうなんて、犯罪経験の浅い奴だ。こんな分かりやすい手口でうまくいくと思っているのか。俺が通報するまでもない。クレジット会社にクレームを入れておいたから、そこから捜査が進んで、勝手に捕まる事だろう。
世の中、馬鹿ばっかりだ。




