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寺崎 里奈

「あのクソ社長、マジでむかつく!」


 金曜日。

会社からの帰り道。

毛先をカールさせた栗色のロングヘアーを振り乱しながら、オフィス街を高めのヒールの音を立てて歩く。

そのくらいで、この怒りが収まるわけもなく、歩道沿いのショップの看板を蹴り飛ばしてやろうかと思うが止めておく。

すれ違う人は自然と道を開けていく。


「あのエロ社長、いつか、殺す!」


怒りに震えながら、今日の獲物を探す。




私は、イラついた事があった時には、やることがある。

今から、それをやりに行く。


少し前方に、おしゃれなブティックが見えてきた。

この店には以前に一度だけシャツを買いに来たことがある。その時のシャツは、肩から下げたトートバッグに入っている。袖口の糸が少しほつれているこのシャツは、私が糸をほつれさせたものだ。

ストレスが溜まった時に利用するために、いつでも持ち歩いている。


店に入り、入り口近くで店内に向けて声を掛ける。セミロングの小柄な女店員が、


「いらっしゃいませー」


と、にこやかな笑顔を見せて近寄ってくる。こういう男受けしそうな女は、決まって女には嫌われているものだ。

この女に決めた。


 トートバッグから糸のほつれたシャツを取り出し、


「ちょっと、これ。どういう事よ!」


と、いきなりキレてかかる。

女店員は、呆気にとられている。さらに畳み掛ける。


「こんな物売りつけて、私に恥を掻かせるつもり?」


糸のほつれたシャツを女店員に突きつける。女店員は、そのシャツの糸のほつれに気付き、


「申し訳ございません。新しい物と交換いたします」


と、震える声で言い、頭を下げる。


「そういう事を言っているんじゃないのよ!」


少し声を荒げ、腕組みをして足を小刻みに動かし、イライラしているというのを見せつける。女店員は、どうしていいのか解らなくなっている。後はもう、この女にストレスをぶつけるだけだ。声は徐々に大きくしていく。言う文句も、


「あんたに責任が取れるの!」


とか、


「謝って済む問題じゃないでしょ!」


というような、この女には反論できない様なものを立て続けに並べていく。

ひたすら謝る事しかできない状態の女を、いたぶり続けるのが、私のストレス解消法だ。


しばらく女店員をイジメてると、店長らしき大人の女性が出てきて、私の相手を引き継いだ。女店員は奥に引っ込ませられたみたいだ。


 こうなってしまうと、これ以上揉めると警察を呼ばれてしまう恐れが出てくるから、引き揚げた方が良さそうだ。この辺の引き際も心得ている。闇雲に当たり散らせば良いってものではない。早々と店を後にする。




ただ、あの女店員にストレスをぶつけたけど、まだイライラが残っている気がする。


 そういう時には、他の手段を使う。

 私は昼間の秘書の仕事の他にやっていることがある。週末、金、土、日の三日間だけ夜の九時から働いている。そこでも、ストレス解消は出来る。その仕事までに、まだ、時間があるから一度自宅に帰ることにする。怒りの炎は消さないままに。


『メゾン・ド・コント・ド・フェ』。


私が住んでいるアパートの名前。

この名前も長くて嫌。住所を記入する時とか、書くスペースが狭いと本当に書きづらい。ああ、思い出したら、またイライラしてきた。


 夕食を取っていると、姉の玲奈から電話が掛かってきた。


「私、脅されているの」


って、泣きながら事情を話してくれた。


 イケメンサラリーマンと飲みに行ったら、途中から記憶が無くなって、気付いたら裸の写真や映像を撮られていて、後日、


「バラまかれたくなかったら、金をよこせ」


って、連絡が来たらしい。貯金を下ろして振り込まないといけないって。


 それを聞いたら、さっきまでのクソ社長への怒りにプラスして、イラついた。


 夜の仕事の時間が迫ってきたので、シャワーを済ませ、昼の仕事とは違うメイクに切り替え、私服で向かう。

仕事着には現場で着替える。

あまり目立ちたくはないから、服装はモノトーンを基調とした地味なものにしている。

いつものように高いヒールではなく、低いヒールのパンプスを履いている。


 週末の仕事場は、とあるマンションの一室。九階建て、最上階の角部屋。


 部屋の前に立ち、インターフォンを押す。天井についている監視カメラに、私の顔を見せる。しばらくすると、内側から鍵が開く音がする。中に入り、先に来ている人たちに挨拶をしながらロッカールームに向かう。


 白のワイシャツに黒いベスト。黒のパンツスーツという仕事着に着替えると、ブラックジャックのテーブルにつく。私の持ち場だ。


 ここは、闇カジノだ。世の中の金持ちたちが、週末の夜に集まる。


昼間、社長秘書という仕事をしていると、いろいろな経営者に会う機会が多い。その中には、闇社会に通じている人もいる。その中の一人が、ここのカジノを経営していて、ディーラーを探していて、私はスカウトされた。


 カジノもブラックジャックもディーラーも、経験の無かった私だけど、持ち前の要領の良さで、すぐに身に着けた。

経験を積むうちに、客の扱い方も分かってきた。


本当の金持ちで、カジノで楽しむだけを目的に来ている人には、勝ったり負けたりを繰り返させて、最終的に少しくらいの負けに抑えてあげる。少しといっても百万単位なんだけどね。


逆に、金も無いのに一獲千金を狙ってくるような奴は、格好のカモだ。


今日は、そんな奴が来た。先輩風な奴に連れられて、キョロキョロと辺りを見渡している。如何にも素人だ。こういう奴に限って、自分には隠れたギャンブルの才能があると思い込んでいたりする。こいつに決めた。


 最初は、少額しか賭けてこないから、勝たせて気分を良くさせる。ただ、勝たせてばかりだと怪しまれるから、適度に負けを挟む。そうしているうちに、より儲けたくなり掛け金が上がってくる。さらに勝たせてやる。すると、無謀にも借金をして、全財産を賭けるような最後の大勝負に出てくる。


 そこで、クソ社長への怒りと、姉を脅しているバカ男への怒りを込めて、この素人を叩き潰す。


 もちろん、私は勝ち負けを自在にコントロールすることが出来る。普段は使わないが、ここぞという時にはイカサマを使う。素人には見破られない自信がある。


 大儲けした後の事ばかりを考えて、負ける事なんて微塵も考えていない奴が、負けてへこむところを見ると、気分がスカッとする。そのへこみ方が大きければ大きいほど、ストレスの解消度合いが増す。


 こいつのへこみ方は見事だった。


人生終わった、みたいな感じで灰になっていた。あそこまでのへこみ方は初めて見た。良いものを見せてもらった。

 とりあえず、一時のストレス解消にはなった。


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