Ⅻ.運命の夜、君を選ぶ
無事に三曲のレコーディングを終えて、「Last Chronicle」のMV撮影に向けた打ち合わせの日が来た。
怒涛のスケジュールの中、レコーディングを終え、12月のライブ本番とリリースに向けて11月の頭にはMVの撮影だ。
セットの最終チェックと出来上がった衣装の調整をし、完成した音源とシーン割を確認した。
長い時間の打ち合わせが終わり解散する直前のことだった。
「みんなにお願いがあるんだけど…。」
と、Suiさんが口を開いた。
「実は10月25日に、うちのレコード会社の60周年記念パーティがあって。来られたら是非来てほしいんだけど。」
「25日っすか…次の日ツアーで仙台なんですよね…。」
「Mayくんも多忙やなあ!さすが売れっ子やなあ〜!」
「Ruiはこられる?」
「大丈夫ですよ。」
「柳くんと剣斗くんは?」
「えーっと、テレビ番組の収録があって…」
柳がスマホのスケジュールアプリを見て答えた。
「それに、剣斗その日あれじゃねえか?」
柳はわかっていた。この前事務所で亜紀の誕生日のことについて相談していた。
「え、ああ。うん。予定があって…。あ、でも1時間くらいなら…。」
「じゃあ少しでも来てくれると嬉しいよ!」
【賢】
亜紀、誕生日の日なんだけど、
イベント主催のバンドの関係で、
パーティーに出なきゃいけなくなった。
すぐ迎えに行くから、家で待っててくれる?
【亜紀】
お疲れさま!
大丈夫だよ!家で待ってるね。
【賢】
ごめんな。誕生日なのに。
【亜紀】
大丈夫。会えるだけで嬉しいよ!
お仕事、がんばって!
応援してるからね♪
10月25日。
亜紀への誕生日プレゼントを車に載せ、柳とSuiさんが所属するレコード会社、LUNE Entertainmentの50周年記念パーティーの会場へと向かった。
「剣斗様。柳様。本日はお越しいただき、ありがとうございます。」
受付を済ませると、既にRuiくんが来ていた。
「剣斗さん、柳さん、お疲れっす!」
「お疲れ様。」
「いやー、それにしてもすごい顔ぶれだな。」
「さすが大手のレコード会社だな。」
「大御所の演歌歌手も居ますね。アイドルもいっぱい。」
乾杯のグラスが配られ、レコード会社社長の挨拶でパーティーが始まった。
「Suiさんはどこっすかね。」
「確かに。」
「ま、後でステージにでてくるだろ。」
3人でいつもの控室のように話をしていると、一人の女性が近づいてきた。
「おい。あれ女優の星川ゆずだろ?」
「なんかこっちに向かってないか?」
「はじめまして。星川です。」
「どうも。Ruiです。」
「Sui見てないかしら?」
「えーっと、俺らもまだ見てないんすよね〜。」
「そうなんですね…困ったなあ…。」
「どうかしたんですか?」
「さっき、メイクルームでスマホ取り違えたみたいで。」
「なるほど。マネージャーさんとかいるといいのですが…。」
「一緒に探してくれませんか?」
「大丈夫ですよ!」
「剣斗さん、会場の出入り口を見てもらっていいですか?」
「了解。」
「僕は、控室付近に行ってみます!柳さんは星川さんと一緒に会場内を探してください。見つかったら柳さんに連絡しましょう。」
「オッケー。」
Ruiくんと俺は会場の外に急いで出た。
「あれ?Ruiと剣斗くん?どうしたんだ?」
「Suiさん〜!探しましたよ!」
楽屋の前で、ピンマイクをつけたSuiさんを見つけた。
これから舞台に上がるようだ。
「探してた?ごめんごめん。」
「星川ゆずさんがスマホを取り違えたと…。」
「じゃあ、俺が届けてきますね!」
「剣斗くん、ありがとう。」
テーブルに戻ると、星川さんはシャンパンを片手に柳を話していた。
「星川さん!」
「あ、剣斗さん。」
「これ、自分のか確認してもらえますか?」
「あ、はい!…ちゃんとロック解除できました!」
「よかった〜!」
その直後会場が暗くなった。
「みなさん、お待たせいたしました。本日は、LUNE Entertainmentの50周年記念パーティーにお越しいただきありがとうございます。
50周年のこの一年、LUNE Entertainmentの新しい一歩を発表いたします。」
大きなスクリーンに、ティザーが流れ始めた。
「LUNE Entertainmentが贈る新プロジェクト――
先鋭のメンバーを結集したバンド
Z∅REQUIEM。」
「メンバーは、
Shooting★Star(流星) Sui 」
この前撮ったアーティスト写真がスクリーンに映る
「現在、爆発的人気を誇るバンド、
DIM-TAMから、
剣斗・柳
続いて、
暦月ノ幻影 から、
May
Poker♤Faceから、
Rui
デビューシングル
『Last Chronicle』
テレ日系アニメ『名探偵 ユ・ナン』新エンディングテーマに決定!」
大きな歓声と、同時に配信されている動画サイトのコメントが会場のスクリーンに並ぶ。
「続きまして、
LUNE Entertainmentが贈る新プロジェクト――…。」
プロジェクトがどんどん発表されていく中、Suiさんのソロデビューも発表され、Suiさんは舞台に上がり、柳が楽曲提供したソロデビュー曲を熱唱した。
「すげえな。この短期間でよくここまで…」
「柳さんもお疲れさまでした!」
「ああ。そういや、剣斗そろそろ時間じゃねえのか?」
「そうだな。そろそろ出るわ。」
亜紀との待ち合わせまで時間がなかった。
「じゃ、先に失礼するよ。」
「剣斗くん、また!」
「亜紀さんによろしくな。」
「おう。」
ホテルの駐車場に停めていた車に乗り込んで、亜紀に電話をかける。
「もしもし?亜紀?」
「賢人?もう終わったの?」
「いや、途中で抜けてきた。今から向かう。待たせてごめんな。」
「大丈夫だよ。気をつけてきてね。」
電話を切ると、運転席の窓を誰かが覗き込んでいた。
「星川さん…?」
窓を開けると、
「剣斗さん、先ほどはありがとうございました。」
と。お礼を言いに来たみたいだ。
「いえ。無事に見つかってよかったです。」
「あの…。」
顔をいきなり近づけ、
「今度、一緒にご飯行きませんか?」
と、耳元で囁いた。
不覚にも、ドキッとした。
「あ、いや、ごめんなさい。ご期待には応えられないです。それでは。」
と言って、運転席の窓を閉めた。
「なんなんだ、さっきのは…。」
普段、女優なんかと絡むことはない。
イタズラっぽい笑顔に少し胸騒ぎを覚えた。
待っている亜紀の元へ、車を急がせる。
「亜紀、待たせてごめんな。」
「忙しいのに、誕生日に会いに来てくれてありがとう。」
「ほんとだよ〜、こんなに待たせて。」
「おい、なんでここにお前らが?」
亜紀の後ろには玲架(翼)と魅波がいた。
「翼のお母さんがわたしの誕生日覚えていてくれて。」
「今日、剣斗は期間限定バンドのパーティーに行ってるって話したら、剣斗が戻ってくるまでお祝いしようってなって、魅波も。」
「魅波も翼もありがとな。」
「亜紀ちゃんのこと蔑ろにしてたら、俺がもらっちゃうからな。」
「何言ってんだよ。」
少し余裕のない笑顔で返した。
「魅波、俺の家で飲み直そうぜ。」
「あとは若いお二人で、どうぞ。」
二人は翼の家へ戻って行った。
「シンデレラ、どうぞお乗りください。」
「賢ってば、どうしたの?笑」
助手席に亜紀を乗せて、横浜の方へ車を走らせた。
「こんなに遅くなってごめんな。」
「大丈夫。それより、途中で抜けてきたって言ってたけど大丈夫?」
「気にしなくていいよ。」
久しぶりに会った亜紀は、いつものような優しい声で包んでくれた。
「到着。」
「え、今日はここに?」
「そうだよ。お祝いなんだから。」
横浜を一望できるホテルの最上階の部屋に案内され、
「わぁ〜!きれい!ねえ、見て!賢!」
素直に喜ぶ亜紀の姿に、嬉しくなる。
ゆっくり亜紀を後ろから抱きしめた。
「亜紀。お誕生日おめでとう。」
そう言って、プレゼントを亜紀の目の前に差し出した。
「賢?これって?」
受け取った亜紀は俺の目を見つめた。
潤んだ目がとても愛おしい。
「亜紀、結婚しよう。」
もう、君しか見えないんだ。
君以上にときめく人なんて、いないと思う。
たくさんの運命の悪戯に
たくさん振り回されたけれど、
それでも隣にいたいのは、亜紀だけだ。
「はい。よろしくお願いします。」
亜紀の潤んだ瞳から、雫がこぼれ落ちた。
それを親指で拭って、唇を重ねた。
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