Ⅺ. Last Chronicle
夕方、いきなりスマホが鳴った。
相手は、賢からだ。
「賢、どうしたの?!」
「いや、いきなり電話してごめん。」
「仕事、忙しいんでしょ?体調崩してない?」
「うん。大丈夫。亜紀に伝えたいことがあってさ。」
「え、なに?嬉しい報告?」
「うん。まだ詳しいことは言えないんだけど、テレビのアニメの主題歌に俺の作曲した曲が選ばれたんだ。」
「えー!すごいじゃん!本当に!?」
「うん。まあ、DIM-TAMとしてではないんだけども、俺の名前がクレジットに載るって思ったらテンション上がって。亜紀に電話しちゃった。」
「教えてくれてありがとう。本当に嬉しい。」
「それで…当分はデートとかなかなか行けないと思うんだけど、時間がある時は顔出すから。」
「無理しないでね。賢の好きなものたくさん作って待ってるから。」
「ありがとう。これで頑張れそう。」
「わたしも卒論頑張らないと!」
「亜紀も無理するなよ。」
「うん。」
「じゃ、また連絡する。」
「うん。またね。待ってるね。」
賢がとっても嬉しそうに報告してくれた。
DIM-TAMのメジャーデビューももちろんすごいことだけれど、作った曲がテレビ番組の主題歌に流れるなんて。
でも、少し賢が遠い場所に行ってしまう気がした。
【亜紀】
さっきは賢の声が聞けて嬉しかったよ。
忙しくても、ちゃんとご飯は食べてね!
ファイトー!
【賢】
ありがとう。
25日、亜紀の誕生日だよな。
スケジュール空けてるから、お祝いしよう。
亜紀が行きたいって言ってたところ予約しておくよ。
【亜紀】
うん!
楽しみにしてるね!
ちゃんと誕生日覚えていてくれたんだ。
賢と過ごす二度目の誕生日。楽しみで仕方がないな。
「それじゃ、【Last Chronicle】のレコーディング始めまーす!」
Last ChronicleはMVを作ることになっているため、早めにミキシングを行わなければならない。
レコーディング前に何度か5人で確認し、それを踏まえてのレコーディング。
1曲にだいたい10時間はかかるので、一日中スタジオに缶詰だ。
「じゃあ、まずはRuiさんから。」
基本的には、ドラム、ベース、ギター、キーボード、ボーカル、コーラスという順でレコーディングをする。
Suiさんは一番最後なのだが、ドラムの録音からずっとSuiさんは真剣な顔で見守っていた。
その姿に、Z∅REQUIEMにかける想いが伝わってきた。
ただのコピーバンドではなく、期間限定ユニットをオリジナル曲で挑むのは並大抵の覚悟ではできない。
この企画は、Suiさんがいないと成立しないんだと感じた。
柳のレコーディングが終わり、俺とMayくんの番になった。
「二人でレコーディングするの初めてだな。」
「DIM-TAMのギターは、剣斗くん一人だもんね。」
「Mayくんの足を引っ張らないように頑張ります!」
「それは僕のセリフです!リードギターは剣斗くんなんですから!」
「まずはMayさん、始めまーす。」
「はい、よろしくお願いします。」
セッションではツインギターの経験はあるが、レコーディングでは初体験だった。
暦月ノ幻影は朔くんとMayくんのツインギターがとても評判がいい。
なぜ、リードギターとして俺が選ばれたのかがわからないくらいだ。
レコーディングは着々と進んでいった。
「さて、やっと僕の出番だね。」
ついに、ヴォーカルレコーディングが始まった。
4人の楽器が合わさって、Suiさんの歌声が最後に交わる。
Last Chronicle
作詞:Sui 作曲:剣斗
静寂の夜に 揺れる光
遠くの記憶が 今、蘇る
手を伸ばすほど 霞む景色
けれど心は まだ君を探してる
時の砂を 零すように
儚く、でも確かに
刻まれた想いは 消えはしない
This is the Last Chronicle
終わりの旋律が 空に響く
星屑の海で 君と僕は
一瞬だけ 交わる光
夢の欠片を 集めながら
揺れる影は 夜を駆ける
言葉にならぬ 想いの海
胸の奥で 静かに燃えてる
時の扉を 閉じるように
切なく、でも美しく
残された記憶は 永遠に輝く
This is the Last Chronicle
最後の約束が 風に舞う
月明かりの下で 君と僕は
淡く光る 夢の残像
手を取り合えば 消えてしまう
でもその瞬間こそが 真実
光の渦に 溶ける僕ら
名前も知らぬ未来へと
This is the Last Chronicle
運命のページが 閉じるその時
君の笑顔だけを 抱きしめて
僕らは光となり 永遠へと消える
光の残像 揺れる空
Last Chronicle…
あのデモ曲が、Suiさんの手によって詞が書かれてより世界観が深くなってきた。
Suiさんの感情のこもった歌声。表情。
やっぱり魅了されるものがある。
Suiさんが書き綴った歌詞は、きっと妹さんへの想いが詰まっていて、あの眼差しの先にはきっと…亡くなった妹さんがいるのだろう。
そう、自然と感じられた。
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