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その三

ある日、健太は一人旅に出ることにした。

行先は北海道である。

一人旅をする中で自分を見直す、そんな事を考えていた。


旅は事前にたてた旅程表の通りに進んだ。

これも健太の特徴である。

健太は気ままな旅ということが出来ない。

必ず事前に下調べをし、電車やバスの時刻表を調べ、無駄のないような旅程表を作成する。

それは一人のときも、友達と一緒のときも同じだ。


北海道では、電車の本数が少ない。

乗り継ぎの際に一時間以上待たされるのもざらである。

そんな時健太は決まって読書をして時間をやり過ごすのであるが、その日は読書に集中できなかった。


しかたなく、健太は駅近くを散策し始めた。

特急が停車するターミナル駅ではあるが、街はそう大きくはない。

二十分も歩くと住宅街と畑が広がる田舎になってしまう。

そろそろ駅の方へ戻ろうかと思ったその時、健太の視界に興味深いものが飛び込んで来た。


それは乗馬クラブの看板だった。

何故かこの看板が健太の心を掴んで離さなかった。

健太は何かに誘い込まれるように、乗馬クラブの入口へと向かって行った。


そこは正に健太の知らない世界であった。

最近始めたばかりの小さなクラブであったが、立派に競技会へも参加している。

何より健太は一頭の馬に目を引かれた。

それは栗毛が陽ざしに輝いている立派な牡馬であった。


健太は時間も忘れ、馬と戯れた。

特急は既に発車してしまったが、そんなことはどうでもよくなっていた。

それよりも、こうして馬と戯れることが何より楽しかったのだ。


そして、健太はある決心をした。

この乗馬クラブで働きたいと思ったのだ。

オーナーは最初難しい顔をしていたが、健太の熱心さに負け、クラブで雇うことを決めた。

健太は会社を辞め、北海道へと移り住んだ。


それから十数年後、健太は一人前の調教師となっていた。

今年初めて、調教した馬が競技会で入賞したりもした。

健太の新しい人生はとても満ち足りたものだった。


健太はふと思う。

この乗馬クラブと出会わなかったら、自分は幸せな人生がおくれたであろうか?

この出会いこそ運命の出会いだったと。

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