その二
しかし、その期待が大きくなると、健太には応えることが出来なくなっていた。
元々そんな能力はないからだ。
だから、鬱病という病気へ逃げ込んだのかもしれない。
健太には趣味らしい趣味がない。
このことも鬱病になったことに関連している。
ストレスを発散する手段を持っていなかったのだ。
仕事を始めてしばらくは、バレーボールがストレス発散になっていた。
しかし最近では、そのバレーボールも年数回しかやらなくなり、他にこれといった趣味のない健太は、休みの日を家で過ごすことが多くなった。
唯一、仲の良い友達と飲みに行ったり、旅行に行ったりしたがストレス発散とまではならなかった。
健太が独身であることも、鬱病になった理由になるだろう。
四十を超えた健太は結婚をしたことがないし、これからもすることはないだろう。
何故なら健太はゲイであるからだ。
女性を愛することが出来ない健太は、独り身で頑張るしかなかった。
健太はゲイであるが、これまでに心の底から人を愛したことはない。
恋人と呼べる相手は何人かいたが、どれも健太の一方的な思いであった。
そして、相手に合わせることによって、相手の機嫌を取っていたのだ。
それは性的行為を求めた結果であり、決して相手のことを考えた行為ではなかった。
そして、これからも健太は人を愛することはないだろうと思っている。
そんな健太は今人生の岐路に立たされている。
後半戦に入った人生をどうやって過ごしていくかだ。
今の会社を辞めて、次はどんな職業に就こうか?
鬱病を克服した後、何に向かって進めばいいのか?
せっかくこの世に生を受けたのであるから、悔いのない人生を歩んでいきたい。
没頭できることに身を任せていきたい。
健太はそう考えていた。
では、どうやって没頭できる『何か』を探すのか?
健太はまず手当たり次第に様々なことをやってみた。
それは読書やプラモデル製作に始まり、小説の執筆、旅行、映画鑑賞、そして縫製等々。
しかし、どれも学生時代のバレーボールほど没頭できるものではなかった。
特に小説の執筆は、自分にはそこまでの才能がないことを改めて思い知らされた。
それでも健太は、没頭できる何かを探すことを止めなかった。
いつかはきっと見つかる。
そう思い探し続けた。
しかし、その『何か』は簡単には見つからなかった。
そして薬療法と療養により、健太の鬱病は回復に向かっていた。
そうなると、次は仕事のことが気になる。
辞めるしかないと分かっていても二の足を踏む思いだ。
もう少しこの会社にしがみついておこうか。
そんな考えも浮かんでしまう。




