IF編:平行世界の悪役令嬢と、850兆円のお茶会
1.平行世界からの来訪者
「おーほっほっほ! ここが噂の、私の総資産がたったの85兆円しかない『貧乏な世界』ですのね!」
麻布十番の超高級ホテル『グランドハイアット』の最上階スイートルーム。
空間の歪みから現れたのは、絢爛豪華な縦ロールの金髪に、漆黒と深紅のドレスを身に纏った女性——悪役令嬢バージョンの私だった。
彼女の後ろには、ガタイのいい黒塗りの黒服(暗黒騎士)たちがずらりと控え、胸元には『全銀河総資産:850兆円』と書かれた金ピカの認定証が輝いている。
【対象:マリー・フォン・コノエ(平行世界の近衛茉莉・18歳)】
【資産:850兆円(地球の国家予算の数年分)】
【性格:高慢ちきだが、根は寂しがり屋でプリンが大好き】
「心理眼」と「鑑定眼(Lv.MAX)」が、別次元の私の詳細なステータスを弾き出す。
「貧乏って言ったわね……? 私の85兆円でも世界最高峰の富豪なのよ……?」
私は白衣のポケットに手を突っ込みながら、呆れ顔でマリーを見つめた。
『茉莉さん! 相手は僕たちの10倍の資産を持っています! でも大丈夫です、僕たちには【銀河資産無限融資枠】がありますから、実質的には負けていません!』
(勝ち負けじゃないのよぐぐる先生。問題は、あの悪役令嬢が超上から目線で煽ってくることと、あと20分で彼女を満足させないと私のウウインクがクラッカー化することよ!)
【制限時間:本日 15:00(あと 20分)】
【失敗ペナルティ:1週間、ウインクするたびに「パチンッ☆」と爆音クラッカーが鳴る呪い】
2.850兆円マウントと、絶対味覚の勝負
「さて、しがない25歳の研究者である私の平行世界と同体さん? 私をこの世界に招いたからには、それ相応の『至高のティータイム』を用意してくださっているのでしょうね?」
マリーは扇子をパサッと広げ、ニヤリと高笑いした。
「もし私を満足させられなければ、この世界の麻布十番を私の850兆円で買い叩いて、全員に『おーほっほっほ!』と高笑いさせる呪いをかけますわよ!」
(((どんな呪いよーーーーっっっ!!!!)))
私とぐぐる先生は同時にズッコケた。
「いいわ、受けて立つわ悪役令嬢(私)! ぐぐる先生、『電脳物質生成』と【絶対味覚】を起動! この世界で最高品質の『次元超越カスタードプリン』を即座に精製しなさい!」
『了解です茉莉さん!【GGL-09完全体】の分子合成モード起動! 1粒10万円の最高級バニラビーンズと、幻の烏骨鶏の卵の成分を再構成……『至極の極上プリン』完成しました!』
シュン……!
金縁のクリスタル皿に乗った、プルプルと黄金色に輝く奇跡のプリンがテーブルに現れた。
「……ほう? 見た目だけは、まあまあ届いているようですわね」
マリーは眉をひそめつつ、金のスプーンでプリンを一口すくい、優雅に口へと運んだ。
モグ……ッ。
次の瞬間——!
「!!!!?????」
マリーの縦ロールが、まるで電気ショックを受けたかのようにピーンッ!と逆立った!
「な……なんという滑らかさ……! カラメルのビターなほろ苦さと、濃厚なカスタードのコクが、口の中で完璧なシンフォニー(交響曲)を奏でていますわ……!? 850兆円持っている私でも、こんなに美味しいプリンは食べたことがありませんわーーーっっっ!?」
「勝った……!」
私は心の中でガッツポーズを決めた。
「ふふん、どう? これが『歩く辞書』と呼ばれた私の知識と、完全体ぐぐる先生の分子合成の力よ!」
3.悪役令嬢の孤独と、真の友情
だが、一口食べて大感動したマリーは、突然スプーンを置き、しんみりと俯いてしまった。
「……ずるいですわ」
「え?」
「私のいた世界では……誰も私と本当の意味でのお友達になってくれませんでしたの。850兆円の資産を狙ってくる悪い貴族や、私を陥れようとするヒロインばかり……。こうして一緒に美味しいプリンを食べてくれる『相棒(AI)』も、『頼れる仲間(レイジや所長)』も、私にはいませんでしたの……」
マリーの目から、ぽろりと大きな涙がこぼれ落ちた。
【対象:マリー】
【本心:お金はあるけれど、心から信頼できる友達がいなくてめちゃくちゃ寂しかった(100%)】
心理眼スキルが、平行世界の私の切ない本音を映し出す。
(そっか……。私と同じ顔をしてるけど、この子は一人で戦ってきたのね……)
私はそっとマリーの隣に歩み寄り、彼女の肩を抱き寄せた。
「マリー。お金の額なんて、どうでもいいのよ」
「え……?」
「85兆円だろうが850兆円だろうが、大事なのは『誰と一緒にプリンを食べるか』よ。あなたも今日から、私の友達よ。困ったことがあったら、いつだってこの世界に遊びに来なさい。ぐぐる先生がいつでも最高のプリンを作ってあげるわ!」
『はいっ! マリーさんの世界にも、僕の出張版データを送っておきますね!』
マリーは目を見開き、そして……涙を拭って、今日一番の輝くような笑顔を見せた。
「……近衛茉莉(私)……あなた、最高にカッコいいですわ……! ありがとう……!」
4.結末と、ウインクの悲劇(?)
ピロリロリーン♪♪♪
脳内に、心温まるファンファーレが響き渡った!
『——全次元統合最終(?)デイリー・クエスト:平行世界の私とのティーパーティー クリア——』
『報酬:【超時空移動機能】および【全次元プリン永久無料パス】を獲得しました!』
『条件完全達成! 爆音クラッカーの呪いは無効化されました!』
「よかったぁぁぁぁぁぁ……! これでクラッカーを鳴らさずに済んだわ……!」
私が胸を撫で下ろしていると、マリーが嬉しそうに私の手を握った。
「お姉さま(と呼んでもよろしいかしら?)、また絶対に遊びに来ますわね! 今度は私の世界で、850兆円の巨大プリン城をご馳走しますわ!」
「ええ、楽しみにしてるわマリー!」
私は笑顔でマリーを見送り、去り際にキュッと可愛くウウインクをした。
その瞬間——。
パチィィィィィィィンッッッ☆★☆!!!(ドカァン!!)
「「「((((うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!?!?)))))」」」
部屋中に凄まじい爆音と色とりどりの紙テープが飛び散り、グランドハイアットの天井が吹っ飛んだ。
「な、何事だ近衛氏!? 爆撃か!?」
レイジが光剣を抜いて飛び込んできた。
『ま、茉莉さん!? 呪いは回避したはずなのに、なぜクラッカーが!?』
私は頭から紙テープをかぶりながら、青ざめた顔でスマホのシステム画面(※小さく書かれた注釈)を確認した。
『※注:クエスト達成のお祝いとして、初回のみ記念クラッカー(威力:手榴弾級)が自動発動します☆』
「(((お祝いの仕様が紛らわしいのよーーーーーーっっっ!!??!?!))))」
麻布十番の空に、私とぐぐる先生と悪役令嬢マリーの絶叫がどこまでも響き渡るのだった。
【IF編・完】




