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メイちゃんは自分の大切なものを踏み躙った人達をボコボコのボコにする 3

「きったない……」


 体に飛び散り、手に盛大にこびりついた、頭の中身。

 いつもだったら、そもそもこんな派手には殺さない。甚振らないし、手加減出来る相手なら蘇生し易いようにと、一発で仕留めるようにすらしている。

 顔を腕で拭い、せめてと手を壁に擦り付けていると、その死体がぶるぶると震え始めた。


「?」


 身構えるも、次の瞬間には死体が光の粒となってぱっと消えていくだけだった。

 体に飛散したものも、手に付いたものも、壁に擦り付けたものも、等しく。

 それどころか、エルフの肉体だけではなく、身につけていたものの全てまで。


「確実な蘇生、って…………」


 思わず呆気に取られる程の、転移陣すらも霞んでしまう高度な魔術。

 そのようなものが使えるダンジョンの方が難易度が低いというのは、どうにも皮肉なように見えた。

 すぐにそのエルフが居た痕跡は、メイがダンジョンそのものに傷を付けただけになる。だが、投擲した手斧を拾いに戻ると、地面に突き刺さっていたはずの手斧がからりと倒れている。

 注意深く見てみれば、地面に傷はもうなかった。斧槍を突き刺したはずの場所も見てみれば、そちらも同じく。


 ……まるで、ダンジョンそのものが生き物みたいだ。


「まあ、別に何だって良いや」


 手斧を腰に戻して、2階へと向かう。


*


 2階への階段を登り切ったその瞬間。


『眠れっ!』


 大楯持ちに守られた魔術師の詠唱、眠りを催す霧がメイの体を包んできた。

 即座にその霧から飛び退けば、反対側に居た戦士の攻撃を合わせようとしてくる。

 斧槍を地面に当てての体捌きで更に避けた。

 受けていては次の対応が遅くなる。多対一ではそれが致命的になるのを、まず最初に叩き込まれた。

 そしてメイにはそれが出来た。


『眠れっ!!』


 霧が更に濃くなって、戦士もろともメイの全身を包み始める。

 戦士は背後に控える僧侶の加護を受けているようで、霧に包まれる事を気にしていない。

 ただ、その奇襲にもメイは焦ったような顔を見せなかった。

 そもそも、奇襲が失敗したら一対多になる。

 盤石に整ってしまった体制を一人で崩していく事など日常茶飯事。

 そして更に、メイには僧侶の素質がある。この霧に包まれて眠るよりも前に、自分の体に加護を与える事など朝飯前。

 どちらかと言えばこの霧によって視界が遮られる事の方が困るが、眠りの霧は、そういう視界を遮る為の霧より薄く、すぐに晴れる事も知っている。

 そして……だからこそか、その霧に紛れて奇襲を仕掛けて来る事が多い事も。


「うおっ!?」


 斧槍を身を軸にして回転させて、奇襲してきた盗賊を阻む。

 きっと大楯持ちの背中に身を隠していたのだろう。

 切り捨ては出来なかったが飛び退かせて、同時に避けた戦士を突きで崩し、包囲から逃れつつ僧侶へと迫る。


『かっ、壁よ、堅牢な壁よっ、何者をも通さぬ城壁よっっ!!』


 僧侶も盾を構え、その上で魔法による障壁を瞬時に幾多に揃えてみせた。

 けれども、斧槍を掲げたメイには、纏めて破られる予感しかしなかった。


「させるかぁっ!!」


 向かってきた戦士。更に短剣を投擲してきた盗賊と、後ろで強い魔術を唱えつつある魔術師。

 改めてメイは足捌きだけで、戦士と盗賊の攻撃を避けつつ、深くまで踏み込んできた戦士に向き直る。


「あ……」


 避けられない事を察した、呆然とした顔。

 振り下ろした。


*


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!!!

 あ、ああ、ああああ……? ああ……」


 ダンジョンの外で、悪夢を見ていたような叫び声を上げながら目を覚ましたそのエルフの男。


「……うぁ、なんで俺が……こんな…………」


 死ぬ直前までの記憶もきっちりとある。足を切り飛ばされ、壁へ押し付けられて、顔へと拳が飛んでくるその直前までの記憶が。

 最初から最後まで、淡々としていた。怒りを込めながらも、まるで仕事のように処理された。

 アレからしたら木っ端でしかない事を改めて思い知らされた。


「クソッ、クソクソクソクソッ! 雌の癖してっ!!」


 矢を弾き落とされ、脚力でも追いつかれ、斧槍の一振りで両足を切り飛ばされ、片腕で持ち上げられて、拳の一発で絶命させられた。

 ミノタウロスはこの街にも少し居る。このダンジョンに挑戦している人だって知り合いにも居たりする。

 でも、あれは……。


「イカレてる」


 鈍重。技術よりも力任せ。それがミノタウロスのはずだ。身軽なエルフが逃げたらまず追いつけない。

 しかし、それに全く当てはまらない。

 やや小さいからこそか、あの体躯で身のこなしは軽やかですらある。技術も鍛え上げられている。

 小耳に挟んだ噂。アレがああなるまでにきちんと鍛え上げた期間は一年にも満たないとか。


「なんで……」


 俺はああいう風に成れない? 俺はもう何十年も腕を磨いてきたはずだ。短命族の倍は生きている。

 それなのに、あんな成人すらしていないようなミノタウロスに、僅かに鍛えたばかりのミノタウロスに、路傍の石の如くに扱われる?

 盗賊として、とかではなく、単純に絶対的な能力の高さが違い過ぎる。

 生まれ持った才能としか言いようがない。どれだけ頭を振っても脳裏から離れない殺された過程が、否定する要因を片っ端から潰してしまう。それを認めてしまう。


「う、うあ、うう、うううう……うう、うああああああああ」


 どうにかなってしまいそうだった。

 体が自然と蹲る。現実を受け入れたくない。

 そうして何にもならない敗者な呻き声をあげていると、程なくしてまた光の粒が別の場所に集まり始めて……。


「うわあああああああっ!!??」


 2階に配置されたはずの人達も次々と戻って来始めた。


「やっ、やめてくれ……やめてくれよっ、やめてくれよっ!!」


 パーティ単位でも、待ち構える側になっても勝てないだなんて、本当に信じたくない!

 ましてや、連戦でも全く問題ないなんて言ったら……、本当に俺の精神がどうにかなってしまう!!!!




 そう願ったものの、結局、今回メイにちょっかいを掛けようとしていた全ての人達は、再戦となれど、待ち構えていたとしても、連戦での消耗があろうとも、全てが等しく殺されて戻ってきた。

 そして、当のメイは6階にて。


「あれ? 君って私に変なちょっかい掛けてないよね?」

「そうだな。ここから先は全て、あんたに純粋に戦いを挑みたい人の集まりだ」

「えー……帰る事ってダメ?」


 もう全員叩き潰したなら、それ以上踏破しようとも思わないのだけれど。


「それは凄く悲しい」


 この街に来て迎えた最初の朝、窓から見かけたワータイガーは、本当に懇願するかのような目で、無手の拳を構えてきた。

 見た時から何となくそうだろうな、と思っていたけれど、素早い動きを得意とする武闘家のようだ。


「はぁ……まあ、こういう場所を用意してくれたなら、少しは応えないとダメか」


 溜息を吐きながら斧槍を短く構える。

 多少手荷物こそ消費したものの、その体に疲労の色は見えておらず、装備も失っていない。


「では」


 嬉々とした目になって、ワータイガーは襲い掛かってきた。

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