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メイさんは金銭感覚がおかしい

「メイさんもエロクーも格闘家の基礎くらいは知っているよな?」

「まあ、少しは。一に呼吸、二に呼吸、三に呼吸、四にも呼吸、五になってやっぱり呼吸、六、七、八、九になっても呼吸、そして十になってやっと技術とか」

「ワタシもそれは聞いた事がある」

「そうだな。言ってしまえば、どれだけ空気を体内に取り込んで、どれだけそれを爆発的に使えるか、それをとにかく追求していく。

 だから、まずは水中で10分間は息を止められるように頑張れっていうのが基本だな。後は高山に行ってそこで体を慣らすのもかなり有名な修行だが、ここらにはそんな高い山ないからな。

 そこでこれだ」


 ウトはマスクを一つ取り出した。ミノタウロスの鼻も口もすっぽりと包み隠してしまう大きさの。


「あ、それ」

「使っていたらしいよな? これ。ユーリさんから、更に吸い込める呼吸を半分にしたとか言って渡されていた」

「相変わらずサブマスターは容赦がない……。

 まあ、やるかぁ」


 メイはそれを受け取ると、少しだけ躊躇したものの、手慣れた手つきで身につけた。


「……きっついなあ」

「それで、ワタシには何かないのか?」

「……あんた、確か街を歩いている時は嘴にマスク付けてなかったか? それに布でも巻けばいいだろう」

「なるほど。背の荷物に入っているから取り出して付けてくれ」

「……はいはい」


 その後。それぞれがっちりとしたマスクを付けたのを見て。


 ……なんか、俺が犯罪者二人を引き連れているみたいになってねえか?


 そう思っていたのは黙っていようと思ったが。


「ウトは着けないの?」

「……俺のは、もう慣れ切った薄さのしかなくてな」

「ワタシみたいに布でも巻けばいいだろう」

「……」


 農作業をしている人達とかから変な目で見られない事がなかった。


*


 1日目の宿に着いたのは、すっかり夜になってからだった。

 東の港町との繋がりもあって、安全な道も用意されている。安全でない近道もあるが、数日は人里が続く。


 マスクを外して、空いている部屋を聞き。


「どれになさいますか?」

「一番良いのでお願いします」

「えっ、ちょっと待った!? 俺、そんな金持ってないぞ??」


 メイがさも当然のように言ったのを、ウトが止める。


「いや、私出せるから」

「ワタシも金は持っているぞ? メイと比べたら甘いにも程があるダンジョンだが、それでも上層のフロアボスを務めていたのだからな」

「えっ、いやっ、そ、そうだ、海を渡るんだぞ? 特にグリフォンなんて乗せるんじゃ3倍の金は必要だし、そこまであるのか?」

「えっと、どのくらい?」


 ウトが概算を伝えると。


「ワタシはそんなに残らないな? もう少し持ってくれば良かった」

「……あれ? 私も。使いすぎちゃったかな」

「……そりゃそうだろう。メイさん、あの街でどれだけ金を使った?」

「……とってもたくさん」


 質の良い宿に泊まるところから、毎日のように露店の食べ物を買い漁り。そして金をばら撒いて自分をダンジョンの予約に捩じ込み、武具屋を貸し切って自分の調子を整える為に大量の防具を破壊した。

 具体的には、メイ自身も把握してないのだろう。


「最上級以外となると、グリフォン様が泊まれるのは厩舎だけになりますが……」

「んー、私もそれで良いかな。藁も結構好きだし」


 んな極端な……。


「じゃあ、俺もそれで良いやもう……」




 夜飯を食べた後、エロクーが一番疲れたのか、厩舎で座ってゆっくりとし始めた。

 それを傍目に、ウトが外に出ようとしたのを、メイが呼び止める。


「修行?」

「どちらかといえば小銭稼ぎ。薪割りだとかあれば良いんだが、掃除とか別に修行にならない事の方が多いな。

 俺はメイさんやエロクーと違って貧乏だから。ユーリさんから金も貰ったけど、メイさんと戦いたくて俺を捩じ込むのに借金を作ってたし、それで大体埋まっちゃったからな」

「んー……。それなら最初に言ってくれれば良いのに。もうちょっと丁寧に戦ったよ」

「いや、別にあれでも十分に壁は感じられたから……」


 ……雑に殺されたのに憤りがなかった訳ではないが、何にせよ雑に殺される程度だったのだ、俺は。

 ただ、メイにはそんな裏の気持ちまでは伝わらなかったようで。


「そう? なら良いけど。

 それと、私も僧侶の方も鍛えないといけないからなあ。怪我人とか居るかな?」

「他人を治す事で僧侶の能力も上がるのか?」

「僧侶の治癒って、言っちゃえば人体の構造なんて分からなくても治せるんだよね。

 でも、分かっている方が治せるのは当たり前で。色々勉強も受けたよ。……自分の体でね」

「……」


 ……ユーリさんには教えを受けたくないな。


「まあ、とにかく。自分の体を治すより他人の体を治す方が大変だし、そういう事続けていれば、より少ない魔力で治せるようにもなるし。

 本当に、なんで戦うのに長けた性質と、治すのに長けた性質を併せ持ってるのか私自身分からないけど、そういうのに愛されてるなら、回数こなしている間にもうちょっと近付けるみたいだから」

「ま、今日も結構客は入ってるみたいだし、金も稼げるだろ」

「お金、ねえ」


 どうせ大した金なんて持ってないでしょというような、余りにも期待しない声だった。


「端金でも、金は貰っておいた方が良いぞ。

 タダで治すと却ってタチが悪くなる人ってのは意外と多いんだ」

「……良く分からないけど、そうしておく」


 ……いや、メイさんにそんな事言う人は居ないか。

 居たら見てみたいもんだ。

 ただ……メイさんって、若干そうじゃないかと思ってた部分はあるけど、やっぱり世間知らずなんだな。

 お嬢様……いやいや、似合わないにも程がある。


「……何か変な事考えてない?」

「い、いや。と、とにかくさっさと行こう。ゆっくりしてたら皆寝ちまう」

「まあ、良いけど」

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