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メイちゃんはお供と一緒に旅に出る

 格闘家は、基本的に攻撃は受けるのではなく避ける事を主とする為、元々そんな重量のある、直接的な防御力に長けたものはない。

 魔術に対する防御や搦手への対策に重きを置いたものが主だ。

 その夜、大量の服を買ってきたユーリと一緒に宿に戻って。


「ひらひらとした服は、掴まれたり引っかかったりしそうでヤだなあ。

 ぴっちりとした服も、窮屈な感じがしてちょっとヤだ。胸が揺れないようにするのは良いんだけど」

「先に聞いておけば良かったなー……」


 その2点でユーリが買ってきた服の半分くらいが必要ないものになった。


「結局、このグローブのゴツさを少しでも和らげられれば良いと思うんだけどねぇ。

 鋲を目立たなくするとか、腕周りを同じ色とかで揃えてみるとか」

「じゃあ、そういう腕のカバー……それって手甲と足甲で良いんじゃ?」


 メイは早速身につけてみる。


「……あれ、うん、ちょっと和らいだ、かな? このままだとグローブのベルトと合わさって違和感あるけど、加工して貰ってもう一体化しちゃえばそんな気にならないかも」

「え、じゃあ、僕の買ってきた服全部意味なかったりする?」

「あ、でも格闘家って殴るだけじゃないでしょ? 蹴ったりとか、肘打ちとか、膝蹴りとか、もしかしたら頭突きとかもする?

 まあ、私は素足でも鎧付けてない人は大体殺せるけど」

「……うん、そうだね、鎧を蹴っても良いような感じにしようか」


 ユーリは蹴り上げられようとした時の事を少し思い出してしまった。

 対応したとは言え、判断が僅かでも遅れていたらこっちが殺されていた。そのまま頭がぽんと首から離れていきそうなあの蹴りは、苦し紛れな斧槍の一振りよりよっぽど恐ろしかった。


*


*


 防具の加工や試運転、旅の為の道具の調達も含めて、三日後。

 街のすぐ外。

 メイの新しい旅に同伴する人達と、僅かな見送りする人達が集まっていた。

 メイが街のダンジョンの中で殺したワータイガーと、それからグリフォン。


 そのメイの外見はこれからの格闘家としての装いに整えられていた。

 黒く染め上げられ、鋲が目立たなくなったグローブと一体化した手甲。要所を守る防具と爪先を保護し、蹴りの威力を更に倍増させる靴。

 胸当てはそのまま。腰鎧や肩当ては全身をより自由に動かせるように、身軽な衣類などに置き換えられた。

 また、腰には鏡の役割も果たす磨かれた手斧が一本だけ。肩や腰に備えられた収納には鉄球が幾つか収められていた。

 大きい鉄球と、投げた瞬間にバラバラに解け、散弾のように襲いかかる小さい鉄球の纏まりの二種類。

 どちらも手斧より技術を必要としない分、投擲そのものに集中を必要としなくなり、他の動作との流れがよりスムーズになるだろう。


 ……結局、恐ろしく破壊的な見た目には変わりないな……。


 合流したそのワータイガーはメイを見てそんな感想を抱く。

 斧槍で真っ二つにされて死ぬか、手斧で胴体を貫かれて死ぬかだったのが、殴られて死ぬか、蹴られて死ぬか、鉄球で胴体を砕かれて死ぬか。

 似合ってるだとか、格好良いだとか、そんなよりもまず死を想起させてしまうような、恐ろしい印象。

 殺されたからだというのもあるだろうが……。

 いきなりそんな相手に格闘家としての先輩となってくれと依頼された時は心底驚いたものだった。

 しかもその依頼してきた相手はそのメイの上司で、世にも珍しいドラゴニュートで、メイを無傷で殺せる実力まで持ってると来た。

 けれど、そんなメイはワータイガーよりも先にグリフォンに目を付けた。


「あれ、そっちは予想してたけど、グリフォンも?」

「ダンジョンで働くのも丁度飽きてきたしな、荷物持ちとして使ってくれて構わない。

 それと東の海の先は、流石に飛んでいくには厳しくてな、ワタシも少し興味があるんだ。

 名前はエロクー。よろしくな」

「よろしく」


 メイの斧槍と残りの手斧、それに関連する装備はもう既にエロクーの背に括り付けられていた。

 もし何か、全力で戦わなければいけないような時があれば、不慣れな格闘家を貫くよりいつでも使えるように。

 それから後回しにされたワータイガーも声を掛けた。


「……俺はウト。格闘家って言っても、別にそのグリフォンに挑んで負けるくらいだけどな。

 加えて肉食の獣人と草食の獣人じゃあ戦い方もかなり変わってくるはずだが、基礎くらいは教えられるはずだ」

「1人で挑んでたんでしょ? 5階までの奴達よりは強かったよ」

「……まあ、あんたに抜かれないように頑張るよ」

「そう言えば、二人ともサブマスターからの勧誘?」

「そうだな。俺は後一年もしたらに西のダンジョンに行くだろうって目を付けられていたらしくてな。

 それに俺の故郷は東のその港町だからな。案内役としても、指南役としてもぴったりだという事でな」

「ワタシは元々あそこで働いていたのがユーリさんの紹介だったのでな。今回も紹介という訳だ」


 メイはユーリの方を見た。

 なんて事のないいつもの顔をしているが、メイの為に同伴者を、きっと少なくないお金を払って揃えた。


 ……私、愛されているんだなあ。


 改めて頭を下げた。

 顔を上げると、いいよいいよと言うように手を振っていた。

 それから、ミノタウロスの女の子が声を掛けてきた。


「おねーちゃん、またこっちにくる?」


 腕輪は今も上腕に付けていた。輪の大きさを調整出来る形なのが幸いしていた。

 メイはしゃがんで女の子の頭を撫でる。


「うん、多分何年か後になると思うけれど、絶対来るね」

「待ってるね! ……それと、ゴールできなくてざんねんだったね」

「後ちょっとだったと思うんだけどねー。でも16階まで辿り着けたのも、君のおかげだったよ」


 腕輪をポンポンと叩いて改めてお礼を言う。


「それから、これ、あげる。遊んでくれたお礼。不恰好かもしれないけど……」


 メイはダンジョンに挑んだ日から、ジュアンに教わりながら作った花の冠を渡した。


「わぁ……ありがとう! ぜんぜんぶかっこうじゃないよ!」


 そう言って、それを頭に乗せると近くに居る親にくるくると見せていた。

 でも、それが終わると、何故かまたメイに対してもじもじと、何か言いたげな事があるようにした。


「何かあるの?」

「う、うん……ワガママだけど、聞いてくれる?」

「うん、なぁに?」

「その……手斧、一つ、欲しいなって。それがあれば、ダンジョンに入っていく格好いいお姉ちゃんのことをいつまでも思い出せると思うから。ダメだったらぜんぜんいいから!」

「えっと……」


 メイは改めてユーリの方を見た。

 言ってしまえば、メイの装備は全部ダンジョンのものだ。メイの為に作られた特注のものだとは言え、メイのものではない。

 けれどユーリは快く頷いた。


「良いみたい」

「やったぁ!」


 メイはグリフォンの背中から手斧を一本取り出した。

 諸刃の、投げるのに最適化された形の手斧。闇にも馴染むような真っ黒な手斧の一本。

 それを、取手の方を向けて渡した。


「ええと、まあ、危ないから気をつけてね?」

「うん! ありがとー! 私もいつかダンジョンに挑むんだ!」


 そう言いつつ無邪気にブンブン振り回す。

 危ないからと抑えつつ少し親の方を向けば、親も複雑な顔をしていた。その父親が先日メイの殺した相手じゃない事は、幸いなのかどうなのか……。


「ええと、うん、頑張ってね?」

「頑張る!」

「それじゃあ、そろそろ……」


 メイは振り返って、もう一度、ぺこりと頭を下げる。


「私、行ってきます」

「行ってらっしゃいー」

「行ってらっしゃい!」

「元気でねー!!」


 メイはもう一度頭を下げると、東の方を向いて、グリフォンのエロクーとワータイガーのウトを両隣に連れて、歩いて行った。




 ……それらが地平線の先まで消えていくのを眺めながら。


「今更なんですけど、殆ど親しくもない男二人と旅に出させるって、どうなんです?」

「メイちゃんを無理に襲うなんて、僕でも命知らずになるからね!?!?」

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