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メイちゃんは確実に生き返れるとしても死にたくはないので頑張る

「……なんでこんな頑張ってるんだろう……」


 11階からは、メイにも負傷が増えてきた。

 毒矢が刺さって一気に体が崩れ落ちそうになったり。僧侶の素質がなければ、解毒も能わずそこで殺されていただろう。

 罠に嵌って足に棘が突き刺さって思わずかん高い悲鳴が出た事も。「本当に女なんだな」と小さく聞こえたのは正直納得がいってない。男よりよっぽど強いとは言え顔は女だし、体も男みたいにごつくないし、何より胸だってあるのに。

 斧槍を捌ける技量まである人も居た。返しの剣戟を手甲で受け止めて殴り飛ばすという余りにもスマートでない殺し方をしてしまった。

 魔術による攻撃も何度も受けた。僧侶らしく障壁を張って防ぐにも、属性付与した斧槍で切り裂くにしても、どちらにせよ魔力は消費してしまう。

 僧侶としての素質を理解されると、封印の魔術まできちんと使ってくる。逆に解除の為の道具を持っていないと思わせて返り討ちに出来たが。


「うー、きったない」


 今は13階のリザードマン達を倒したところ。姿を背景と同化させたりだとか、毒を吐いてきたりだとかの上に、単純に武器の技量が高かったり、更に走る速さから瞬発力までメイより優っていて、かなり消耗させられた。

 勝てたのは、僧侶の素質をアテにした、若干捨て身な戦法にまでは付いて来れなかったから。

 だから、リザードマンの吐いた毒などは等しく光となって綺麗さっぱりになっても、自分の体から出た血はそのまま体や防具にこびりついていた。

 胸当ては今でさえプラプラと心許ない揺れ方をしている。多分次に何かを受けたら完全に紐が千切れる。

 もう、手荷物も殆どない。魔力を回復する薬も残り1個だけ。

 宝箱は道中何個かあったけれど、どうせ罠が仕掛けられているし、それを避けて解錠する技術もないしと、試しに手斧を投げて蓋を壊してみたのだが、すると宝箱そのものが爆発した。

 手斧もろともダメにしてしまい、それから開けていない。

 16階まで到達出来たとして、きっともうその時はボロボロで僧侶としての力も発揮出来ない程に魔力もすっからかんだろう。

 でも。


「帰り道ないなぁ」


 通ってきた道には転移陣は相変わらず無い。罠も殺意が強いものになってきたから探索なんぞする余裕もない。

 14階への階段が目の前にはある。


「疲れたなぁ」


 休んだところで、食べ物も空腹を紛らわせる程度にしか持ってきていない。メイの莫大な運動量の前には、疲れが取れるより前に、空腹に耐えられなく方が先になってしまうかもしれない。


「ヤだなぁ……」


 これから先に更に進むのも。

 かと言って確実に生き返るとは言え極力殺されたくもないし、自死して終わらせるなんて事はそれ以上に嫌だった。


「うー……」


 メイは嫌な顔を隠さずに、手荷物の底の方から一つの薬を取り出した。

 ほんの少量の、如何にも不味そうな色をした液体の入っている小瓶。

 体の疲れを忘れさせ、気分を高揚させるもの。そして、体の限界すら忘れさせるもの。

 言ってしまえば麻薬みたいなもの。

 当然、反動は酷い。体を酷使した激痛は僧侶としての治癒でどうにでもなるとしても、横になったまま指一本すら動かしたくなくなる程の疲労も、激しい空腹も襲ってくる。

 でも、16階まで踏破するならもう、これをどこかで使わないといけないだろう。


「頑張るしか、ないかぁ」


 その薬をいつでもすぐに飲めるようにして。14階へと足を運んだ。


*


 ……15階。

 10階と同じような、開けたフロア。

 そこには一度メイを打ち倒したパーティが居た。

 奇襲を仕掛けたメイに対応し、大楯も鎧も真っ二つにする斧槍の一撃を捌いて直撃は避け、その素早い身のこなしにも追随して逃す事なく、攻防共に強化する僧侶の力を打ち消し、最終的にその胸に刃を突き立てた。

 高い水準でバランスの取れた、一糸乱れぬ連携をそつなくこなすパーティだった。

 その時メイは順当に追い詰められ、その薬を使うような余裕もなく殺された。


 どっ、どっ、どっ、どっ。


「とうとう来るか。かなり厳しい道のりだったろうに」

「随分と急いでいるようだな?」

「あれから強くなってるのかしら?」

「だろうな。もしかしたらコレまで駆け抜けてくる程に余裕だったのかもしれん。油断するなよ……?」

「ぁぁァぁあアああ゛!!」


 しかし、階段を駆け抜けてきたのは、体から湯気を出す程に膨れ上がった肉体の、胸すら露わにしたミノタウロス。

 鼻息荒く、首をぐわんぐわんと動かし、涎を口からびちゃびちゃと垂らし、血走った目をしている、正気を失ったようにしか思えないそれ。


 ……14階の、メイの縦切りさえ受け止めた、階段の目の前に立ちはだかって動かない、超硬度なゴーレム。

 それを薬を使って真っ二つにし、そのまま駆け上がってきた。

 その異質な様子に、何も言う事なく大楯持ちは前へと動いた。メイの斧槍すら受け流して見せる技量を持った大楯持ち。あれから更に上質な金属を手に入れた今では、受け止める事もきっと可能だと信じている。

 だが。


「あ゛アはぁ゛っ!!」

「い゛っ!?!?」


 悲鳴のような咆哮を上げて駆ける勢いのまま突き出された斧槍は、受け流そうと体が動くよりも前に、大楯ごと腕を貫いた。

 戦士が助けに行こうとするも、しかし。


 ずんっ!!!!


 メイは地鳴らしをする勢いで足を地面へと叩きつけ、腰を落として斧槍を両腕で掴み、大楯持ちごとそれを持ち上げていく。

 自身の体重と同等以上にある重厚な鎧を身につけているはずの、その大楯持ちが、空高く浮かんでいく。

 それは、余りにも現実離れしていた。


「ああ゛あ゛ア゛あ゛イ゛い゛イ゛イッ!!!!」


 体を震わせる、狂った獣そのものな咆哮。

 空いた口が塞がらない。

 これから訪れる破壊に、誰しも等しく体が勝手に備えてしまう。


「たっ、たすけっ」

「ああ゛っ!!」


 ごぢゃっっっっ!!


 振り下ろされた一撃は、戦士の体とないまぜになった上で、体の部分部分が弾け飛ぶ。

 魔術師の頭からがつんと音が鳴り、膝から崩れ落ちるのを隣の僧侶はつい見てしまい。


「あっ?」

「あ゛あ゛ああ゛」


 前を向き直したら、ひしゃげた腕と盾がくっついたままの斧槍を自分に向けてフルスイングしようとする、イカれたミノタウロスの姿が見えた。

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