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騎士の俺がお妃様!?  作者: 現野翔子
ヴェルート王国編

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粛清と婚姻

 俺に危害を加えようとしたことを理由に殺害したことも伝えられたというのに王からの処罰は優しいものとなった。俺達への処罰は表立ってなし。俺に危害を加えようとしたセルペンテ侯爵家については何故かミールウス様の進言により、大々的な処罰はなく、降格もなし。これはその場でミールウス様が断罪したから、という建前だ。第二王子を支援していた点に関しても、俺達の対応の拙さを隠すように代替わりで許された。他の家に関しても当主だけがその方向に向かっていただけとして代替わりで許された家が多い。その代替わり理由も処罰ではなく穏便な理由を付けてのものにされた者もおり、表向き厳しい処罰を受けた者は処刑となった第二王子のみだ。魔王国に攻撃するなという威嚇目的ならそれで十分なのだろうか。一部貴族に関してはセルペンテ侯爵同様ミールウス様が当主を殺害したせいで、十分脅しができている。その手法に疑問もあるが、王家も自分たちの手を汚さず、民への被害なく収めてもらえるならと支持してくれた。これもミールウス様の思惑通りなのだろうか。

 一度魔王国に帰還し、ヴェルート王国での粛清は終わったと報告する。一部貴族からは魔王国が恐ろしく映ったことだろう。せっかくファルクス殿下がヴェルート王国と仲良くしようとしていたのに無駄にしてしまった。

「無駄にはならないさ。終戦の証としての盛大に結婚式ができる。国境付近で行えば王や王妃は参列してくださるだろう。俺とフラウの婚姻だ。」

 フラウ・フィブラとしての婚約発表だった。しかし本当は男の体で、令嬢に期待されるもののうち、一部は応えることが不可能だ。それでも良いのだろうか。

「魔王は魔王として生まれる。俺の子は必要ない。今の仕事も別の誰かが引き継ぐだけだ。それも数百年先、もしかしたら千年以上先のこと。その間にゆっくりと考えれば良い。ヴェルート王国にはフラウ・フィブラとの結婚とするが、魔王国内では女装する必要もない。フラールと名乗り、好きな格好で過ごしてくれ。」

 子が必要ないから伴侶が女性である必要もない。今俺を妻として迎える理由がある。令嬢として問題のない礼儀作法は身に着けた。魔王国における決まり事も少しずつ学んでいる。フラウとして嫁ぐつもりの準備はあるのだ。フラウもフィブラ家の子ということになっているため、結婚を隠すことなく真正面から両親も祝福してくれる。俺としては可愛い女の子との結婚を祝福してほしかったが、仕方のないことか。相手が見つかっていないのにファルクス殿下に当たることもできない。仲を引き裂かれたなら怒ることもできたが、上手くお付き合いできたこともない。もっと渋い大人の男になれれば小柄でも可愛い女性の相手が見つかるのだろうか。

「お前の兄や弟には恋人がいたこともあるのだろう?それなら問題は外見だけじゃない。俺にとっては魅力的だが。」

 性格が問題と言われたほうが傷付く。兄は将来家を継ぐためまだ良いが、弟は俺と同等の条件、もしくは俺よりも悪い条件になるはずだ。それなのに恋人ができたことがあるなんて納得できない。一体何が違ったのだろう。俺よりも自分の魅せ方が上手いからだろうか。それでも騎士団長や国境砦の逞しい男性達と比べると貧弱だ。

「女性から異性としての人気が低いことは俺にとって歓迎できる事実だな。友人や人間としての評価が高いのなら、魔王子の妻として最適だ。」

 嫌われているわけではない。異性としてのお付き合いは断られても、友人付き合いは続けられている。ファルクス殿下との結婚があってもなくても俺の付き合いに大きな変化はない。いや、ヴェルート王国での交流は減るか。それでも禍根を残さないためにこの婚姻は必要だ。既にドレスにも慣れた。必要なら着るくらいは許容しようか。屋敷の中では女装させずにいてくれた上、これから魔王国内ではそのように過ごして良いと言ってくれている。日頃の不便や不快感は避けられる。衣食住も保証され、お給料も貰え、自分の時間もある。恋人を作れないことに目を瞑れば良い就職先だ。ファルクス殿下なら体調が悪い時にはゆっくり休ませてもくれるだろう。

 ミールウス様への警戒も伝えよう。女性関係の問題を起こしている。だからファルクス殿下も俺が女性と異性の仲になりにくいことを歓迎するのだろうか。今回はミールウス様の女性関係の問題のせいで殺人まで起こしている。そのセルペンテ侯爵と行方不明の夫人についての話も伝えた。

「一度彼女と話してみると良い。息子に会いたいのかどうかもな。」

 先にミールウス様から話を聞いていたのだろうか。いるという裏庭に向かえば、そこには何度も着替えの手伝いをしてくれたラパーチェがいた。四本脚の鹿のような獣を捌いている最中だ。確かにこれは侯爵夫人ができることではない。片付け終わるのを待とうとすれば、捌いた肉だけ他の使用人に預け、自分は血の付いた服のまま話に応じてくれる。まずは事実の確認だ。ミールウス様の元恋人なのか、彼に付いて魔王国に来たのか、今はどうしているのか。

「ヴェルート王国にいる間はそうでした。話を聞いてくださって、望むなら魔王国に連れ帰れると仰って。こちらに来たら旅もでき、日々の密度は上がりました。私が飽き性なのでしょうね、そのうちミールウス様とのデートより森に狩りに行くほうが楽しくなってしまって。彼と行っても他の人と行っても楽しさは変わりませんでしたから。それでお別れに。今は良い友人です。」

 元々環境を変えたい気持ちがあったところに寄り添った。この屋敷で気まずい思いはせずに済みそうだ。続く質問は彼女の息子に関して。息子は母に会いたいと言っているが、彼女は彼のことをどう思っているのだろう。彼の言葉をそのまま伝える。彼は母を恋しく思っていること、捨てられた理由を知りたがっていること。彼の話では子どもの頃は母も自分達のために行動してくれていたとなっていた。

「不相応だったのです。侯爵夫人という立場は、男爵家の娘には重荷でした。もう十年以上昔のことです。大人になった子が、責務を放棄した私に戻ってきてどうしてほしいと言うのでしょう。」

 それは聞いていない。ただ会いたいとしか言わなかったということは純粋に会いたいのではないだろうか。子どもの頃に出て行った母に会いたいという気持ちは想像できる。出て行った理由も分からず、家にいる頃はよくしてくれた思い出があるならなおさらだ。

「会ってあげても良いですけれど、侯爵家の人間であることを辞めたのです。息子が侯爵になったなら、その侯爵の母を名乗る資格なんて私にはありません。」

 息子が会いたいと言っているのだから資格云々は関係ない。彼女が会いたいなら会えば良い。彼が勝手に魔王国に入り、彼女に会いに来ることはできない。会うためには彼女の許可が必要なのだ。

「一度、会ってみても良いでしょうか。その姿を一目確かめたい心もございます。」

 俺とファルクス殿下の結婚式に付いて来てくれるならそこで会うことができる。微笑んでおられ、会うことを楽しみにされているようだ。周囲がどう見るか分からない、護衛は必要だろう。

「そんなことよりもご結婚されるなら準備に忙しくなります。フラール様もしっかりお体の手入れをしてくださいませ。」

 彼女の願いを叶えるためにも、万全な状態で結婚式に望む必要がある。日々の手入れは怠っていない。今婚礼衣装を身に纏っても十分麗しい令嬢だ。それを維持するだけの時間なら同時に他のこともできる。まずはラクエウス様とのお勉強だ。


 令嬢としての振る舞いも忘れないよう復習しつつ、魔王国の文化や地理についても学ぶ。そうしているうちに婚礼の準備は整い、ヴェルート王国との国境にて式は挙げられる。今度の婚礼衣装は魔王国で急がずに仕立てた物。全身黒で固められたファルクス殿下に思わず釘付けになる。濃淡様々な黒の中に俺の緑も混ぜられており、本当に俺が結婚してしまうのだと不思議な気分だ。俺の衣装も様々な黒の中に一際目立つファルクス殿下の瞳のような宝石が付けられている。帽子はなく、髪飾りが黒いだけ。どれも光沢の強い黒であり、濃淡も様々なため葬式の雰囲気とは異なる。参列者の衣装が華やかであることも理由の一つだろう。

「よく似合っている。もう引き返せないが、構わないな?」

 既に覚悟は決めた。終戦の象徴として結婚するなら今更やっぱり止めたなんて言えない。俺も家族の住むヴェルート王国との関係が悪化してほしくはないのだ。可愛い子ではないが格好良い人を独り占めしていると考えるのも悪くない。

 彼の手を取り、皆が待っている式場へと足を進める。魔王国式の婚礼のため、場所もただの広場。儀式の意味合いは薄く、人々に周知することが主な目的となる。俺が望んだ婚礼なのだとヴェルート王国側の参列者には知らせる必要があるため、精一杯の笑顔とファルクス殿下に甘える姿を見せたい。魔王子の妃としては一人で強く立てる女性のほうが相応しいかもしれないが、両国の友好に希望を見せるならこのくらいでも良いだろう。望んで嫁ぐのなら甘えているくらいの姿を見せても良い。幸せそうにしているならなおさらだ。

 誓いの言葉は自由だ。互いへの愛を誓う言葉が多く、あまり長くならないよう配慮はされる。俺達は同じ時を生きると誓った。ファルクス殿下が魔人という長命種であり、多くを見送ってきたからこその誓いだ。亡くなった奥様とはきっと異なる言葉で誓った。彼女は同じ時を生きることができず、彼を置き去りにしたのだ。

 誓った後はそれを確かにするための口付け。浅く唇を触れ合わせるだけのものだが、ふわりと温かな何かが流れ込む感覚はある。少しだけ自分が確かになるような不思議な感覚だ。今までだって地に足を付けていたのに、体が重くなったわけでもないのに、どこか存在が増したように感じられた。

「続きは屋敷に戻ってからにしよう。自宅でもない場所で初夜は嫌だろう?」

 結婚してから初めての夜としては確かに初夜になるが、初夜の儀式が魔王国にも存在するのだろうか。そもそも共に眠る夜としては全く初めてではない。結婚どころか婚約すら禄にしないまま寝台に連れ込まれたことを覚えている。

「儀式ではないが、意識はされる。魔人や竜とそれ以外の種族の場合、寿命の問題から魔人化や竜人化させ、同じ時間を生きられるようにする魔術を掛ける時間にもなる。先程の続きだ。」

 初夜を行う覚悟はしていなかった。外で妃らしく振る舞い、屋敷では同じ寝室で眠るくらいではないのか。それ以上のことがあるなら予め説明してほしい。今更引き返せない。屋敷に戻るまでに少しだけ時間がある。それまでに覚悟を決めなければならない。

 今すぐではないことを良いことに、そのことから意識を逸らす。父は本当に娘が嫁ぐかのように涙を堪えており、母も喜びを表現していた。そのほうが両国の友好のためには良いのだが、純粋に喜びの感情だけでは受け止められない。兄と弟は複雑そうな表情だ。会話の時間を得ても、弟は緊張した様子で美しいと褒めるだけ。むしろファルクス殿下を見て距離を取ろうとしている。今日の衣装は格好良すぎであり、少々威圧感もあるかもしれないが、優しい人だ。何も怖がることはない。兄はこの短時間で事情を飲み込んだのか、両親同様純粋な祝福を伝えてくれる。せいぜい可愛い妹でも演じていよう。問題はフラウとフラールが同一人物だと一部に知られていることだ。俺の趣味が誤解されてしまわないだろうか。

 他の参列者からの祝福の言葉も頂く中、新セルペンテ侯爵とそこに並ぶラパーチェの姿があった。二人とも良い顔をしている。上手く会話できたのだろうか。

「機会をありがとうございます。ですが、私はやはり魔王国に帰ろうと思います。私はあの場所で生き、あの場所で死ぬと決めました。セルペンテ家を潰すなら今ですが、息子はそれを望んでいないようですので、このまま別れます。」

 確かに今なら魔王国への襲撃に加担したとしてお家取り潰しもできるだろう。領地経営の後任は王が選ぶ。家の不名誉など彼女は気にしていないのだろう。しかし息子は違った。だから彼は残り、新侯爵として行動する。息子とは言っても俺より年上の方だ。自分のことは自分で決められる。同じ国出身の人が傍にいてくれるなら俺も心強い。これからは彼女とも話す機会は増えるだろう。

 少しだけ気になっていたことも消されてしまった。これでは自分のことしか考えることがないではないか。今夜はまだ何もない。そう分かっているのに借りているジョストラ辺境伯の屋敷に入ってもどことなく緊張が取れない。まだ令嬢としての、いや妃としての振る舞いが求められる場所だ。だからなのだと自分に言い聞かせても、ファルクス殿下が視界に入る度に緊張する体は無視できない。

「フラール、魔人化の術について詳しく教えよう。初夜と兼ねられると言ってもそのままではない。」

 魔人化は肉体を作り変える術だ。外見上の変化はない。ファルクス殿下が俺の体に魔力を送り込み、その魔力に俺を馴染ませる。一気に送り込んでは命の危険もあるため、毎日少しずつ送り込む。俺はその魔力を受け入れ、魔人になることを、ファルクス殿下に近づくことを意識する。大量の魔力を送り込む方法は肉体的な接触も伴うが、手を握る程度で十分。先程は口付けと共に少し送り込んだそうだが、それは必須の行為ではない。それなら一安心だ。

「当然だろう。ミールウスも魔人化させているんだ。妻としかできないような行為のわけがない。」

 よく考えてみればそうだった。いや、ミールウス様を愛人にしているという噂もあった。それは妻とするような行為によって魔人化させると誤解されているからではないのか。それともミールウス様が美しすぎるからだろうか。彼は彼で多くの女性と関係を持っているのに、そんな噂があることも不思議だ。

「夫といるのに他の美しい男の話ばかりか?良い度胸だな。お前に魔力を送り込む際は口付けることにしよう。」

 今まさにそれが必須の行為ではないと言ったところではないのか。それを指摘する暇も与えられないまま、昼間とは比べ物にならない口付けを受け止める羽目になった。

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