22.タダの魔力
フェイド国は大陸の中心部にあり、その王都は諸外国の有力者から住んでみたいと言われるほど治安が良く、黄金の都と呼ばれるほど経済が潤っていた。
その代表として、王都中央噴水がある。
魔法で様々な演出が施され、それを見た観光客が次々に投げ入れた金貨が輝き、あたかも黄金の水が流れているかのようだった。
だが、それは数年ほど前の話だった。
現国王が就任してから干ばつが続き、噴水も止められた。
黄金の都は廃れ始めていた。
フェイド国としても現状の問題を解決しようと、国の地方から有能な人材を集め、才能のある人材は貴族平民問わず育成をしていた。
そのおかげでクライバ伯爵や他の優秀な若き人が育っている。
と、商店街で屋台を出している老人が教えてくれた。
俺の隣にいたアグニが言う。
「アルム様、意外とこの国はまともなのですね」
「そうだね。やっぱり、こっちにきたのは正解だったよ」
フェイド国に来なければ、救えなかった人たちもいるだろうし。
そういう意味でも、こっちにきて良かった。
「干ばつが厳しかったが、天から遣わしてくれた雨のおかげで、今年は豊作かもしれないな〜」
おそらくサラスの情報だ。
あいつ……王都にいるのは分かるんだけど、細かい位置までが分からない。
悪いことしてないとは思うんだけど。
「そうですか……あっこれ、お代です」
情報のお礼も込めて、俺は少し多めにお金を支払う。
フェイド国の王都、その名物である塩団子焼きを購入していた。
「毎度、お前さんは美女も連れて羨ましいね」
美女とは、おそらくアグニの事だろう。
俺は軽く笑って言う。
「でしょ? うちのアグニは美女なんですよ」
「ハハハッ! 仲が良いのは微笑ましい! もう一本サービスだ!」
「あ、ありがとうございます」
まさか素直に認めただけで、オマケをしてもらえるとは……。
隣にいたアグニが顔を赤くして俯いていた。
フェイド国の王都は治安が良いと聞いていたが、明るい所なのだろう。
「ア、アルム様……もう行きましょう……」
俺の裾を引っ張ってそう言うアグニに、俺は顔を上げた。
いつの間にか、周りに人々が集まって俺たちのことをニヤニヤと眺めている。
あ……褒められることが恥ずかしいのか。
うん、俺もあんまり褒められるの慣れてないからよく分かる。
得心していると、シアンの姿がないことに気がついた。
「あれ、シアンは?」
「あぁ……あそこに居ますよ」
アグニが教えてくれた方向を向く。
シアンが棒立ちして一軒の高級宿を眺めていた。シアンの頭に乗っているアンズも同じように見つめている。
「シアン、どうかした?」
「この宿、すっごい高級そうで良いなぁ……って」
そう言ってシアンが「まぁ貴族御用達っぽいし、無理か」と呟いた。
見るからに貴族専門……っぽい感じの宿屋だ。
冒険者でも使う人はいるだろうが、かなりランクの高い人だろう。
シアンはAランクの実力があるとはいえ、地方の冒険者だ。王都で成り上がった冒険者たちは指折りの実力者たちとは比べられない。
俺は言い淀んで言う。
「お金なら俺が出すよ。付いてきてもらったし」
「いやいや! ダメダメ! そんなの絶対にダメだよ! アルムにはお世話になりっぱなしなんだから、出すなら私が……」
シアンが懐からお金が入った麻袋を取り出すも、スカッ……っと悲しい所持金が発覚してしまう。
誤魔化すように、シアンが笑う。
「あはは〜……そういえば、【魔灰水病】の人たちにお金を貸してたの忘れてた……」
「金を貸すなら俺に言ってくれれば良いのに……」
俺はクライバからお金を貰って、資金にも余裕がある。
かなり貯金だってしてるし。
「命の恩人にお金を貸して、なんて図々しいことできないでしょ? クライバ様も良い人なんだろうけど、やっぱり住む世界が違うっていうか……貴族の人たちってそういう雰囲気があるんだよね」
シアンはどことなく、自分を卑下している節がある。
俺も他人のことを言えた立場ではないが……と思う。
「アルムは偉いよね。困ってる人のために、自分の力を使うんだから」
「シアンだって……お金を貸したんでしょ? 簡単なことじゃないよ」
「まぁ……なんか恥ずかしいかも」
照れた様子で「えへへ……」とシアンが笑う。
後ろでアグニが無言の圧をかけているような気がする。
そのせいかな、シアンの頭に乗っているアンズが髪の中に隠れている。
「アルム! 実はね、王都に知人が経営してる宿屋があるんだ! そこならタダで泊まれるんだけど、ダメかな?」
「タダ……」
思わず、俺はタダという言葉に反応してしまう。
待て待て、シアンに甘えすぎはあんまり良くない。
うん、お金は使わずに貯めておきたいのはあるけど……。
「案内するけど、行く?」
「行こう」
俺は、タダの二文字が持つ魔力に勝つことができなかった。
*
シアンが案内してくれた宿屋に足を踏み入れる。
かなり古く、外装はボロかった。
シアンが遠慮なく、扉を開ける。
「メイおばさーん!」
シアンが名前を呼ぶと、奥の方から優しそうな老婆が現れる。彼女は腰が悪いようで、少し猫背気味になっていた。
宿屋の内装は小綺麗だが、タンスの上や天井などは掃除が行き届いていなかった。
どうやら、彼女一人で管理しているようだ。
「おや……! シアンかい?」
「うん! 友達と泊まりに来たんだけど、ダメかな?」
「もちろん好きに使っておくれ、どうせ客もいないからね。ほっほっほ!」
メイが快活に笑う。
シアンがメイを紹介した
「この人はメイおばさん。昔、魔物から助けたことがあってさ。そのよしみで王都に来たら無料で宿を貸してくれるんだ」
「へぇ……。アルムです、よろしくお願いします」
「ふむ、優しそうな子だね。赤髪の子も、自由に使って良いからね」
「アグニだ。助かるが……お金はいいのか?」
「こんな老いぼれの宿じゃ、誰も来ないからね。旦那が死んでから、一人で寂しくて。若い子たちが来てくれるだけでも、嬉しいのさ」
すると、カタ……カタ……とシアンが手に持っていた荷物が揺れ始める。
「ひゃいっ! 私の荷物に、なんか入ってる!?」
驚いて手から落す。そうしてシアンの荷物が床に転がる。
パンツや下着などが広がり、その中からムズムズと数体の小人が姿を現した。
「やい!」
まるで戦利品をゲットしたかのように、雑草ズの一人がシアンのパンツを掲げる。
俺が言う。
「なんだ……雑草ズが紛れ込んでたのか」
「やい!」
「や、やいじゃない! 私のパンツ取らないでよ!」
……あれは、俺の性格じゃないよな?
そう不安になってしまう。
「おやおや……可愛い子たちも客人かい? ほっほっほ! 賑やかになって、嬉しい」
「騒がしくてすみません……お詫びと言ってはなんですが」
俺は雑草ズに指示を出す。
「雑草ズ。掃除の時間だぞ」
そういうと、雑草ズはシアンのパンツを投げ捨て、真面目な顔になる。
「私のパンツを投げないでよ〜!」
やはりタダで泊まるのは忍びない。
せめて、この宿を徹底的に、完膚なきまでに磨き上げるしかあるまい。
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