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10.【擬人化】

 

 あれから俺は銅貨を5枚支払って登録を済ませた。

 お金もあまり残っておらず、稼ぐために依頼を受ける。


 フェイド国のエーティア街は、自然が豊かで森が多く存在する。そのため、品質の良い薬草があり、ポーション作りが盛んな街だった。


 フェイド国の高級ポーションは王宮にも納品するほどらしい。


 そのため、薬草採取の依頼は報酬が高かった。


 隣にいたアグニが言う。


「アルム様であれば、強い魔物の討伐を受けた方が良かったのでは?」

「ランク制限があるからね。仕方ないよ」


 いきなり高難易度のクエストを受けることはできない。

 駆け出しが魔物と戦って死んでしまっては元も子もない。


 だが、俺は不満を抱いていなかった。

 

「最初はコツコツ、地道にだよ。努力は裏切らないんだからさ」


 アグニが両手を合わせて思う。


(健気なアルム様……素敵)


 何でもかんでも肯定的に捉えるアグニが感動していた。

 アルムは一人、ブツブツと考え事を始める。


(最も効率よく薬草採取をする方法か……俺とアグニの二手でやるのは効率が悪い)

 

 薬草の知識は一通り持っている。マイクロ家の屋敷にあった本はすべて読みつくしていたからだ。


 俺が受けた依頼は【薬草採取】だが、その量によって報酬やランクアップが左右される。


(今は魔力もある。なら、これをやってみよう)


 俺は近くにあった雑草をむしり取る。


「アルム様? 何をするんですか?」

「こうするんだ。【擬人化】」


 与える知恵は薬草の知識だ。


 パッと握っていた草が輝き出す。

 俺の持っている能力、【擬人化】は与える魔力や俺の知性で決まる。


 もちろん、元の質も関係はある。


「あい~!」

「やい~!」

「わい~!」


 三体の【擬人化】した雑草が現れる。

 大きさは手のひらサイズだ。


 これくらいで十分、わざわざ巨大にする必要もないからな。


「か、可愛い……! アルム様! 凄い可愛いですよ!」

「そ、そうだね……」


 興奮した様子のアグニに、少し驚く。

 アグニって可愛い物好きだったんだ……知らなかった。


 今度からアグニの前で何かを【擬人化】する時は、可愛く作ってみようかな。


「名前を付けた方が良いかな。上から、ワン、ツー、スリーで」


 俺は三体の雑草にお願いする。


「悪いんだけど、薬草を探してきてくれないか? なるべく良い奴で」


「あい~!」

「やい~!」

「わい~!」


 三体はそれぞれ返事をすると、木の枝を持ってスタスタと別方向に走り出す。


 擬人化した雑草は、ある程度の知能を持っている。

 それと、森で怪我している人を見つけたら助けるようにも指示を与えた。


 もしも、俺から離れても悪さはしないだろう。


「じゃ、俺たちも薬草取るか」


 本当は、大量に【擬人化】すべきなんだろうけど……そんなことをしたら、俺の後に薬草採取が誰もできなくなってしまう。


 少なくとも、ここは人が生きるための山なんだ。


 俺はこの前のヴェルファイアとの戦闘で、山を吹き飛ばしたことをやり過ぎたと思っていた。

 

 初めてで興奮していたとはいえ、自然を壊し過ぎるのは良くない……。

 こんなことをアグニに言ったら、きっと笑われそうだな。


 うん、とりあえずは自重だ!

 やり過ぎ、良くない!


 そう心に誓い、薬草を探し始める。


 *

 

 暫くすると、三体の雑草が帰ってきた。


「あっ、アルム様! 雑草たちがもう帰ってき────っ!?」


 アグニが珍しく驚いた顔をしていた。

 

「やい~!」


 雑草たちが大量の薬草を背負って、喜んでいた。

 間違いなく、俺たちがいる山の薬草はすべて採取してしまった。


「……これは、取り過ぎだね」


 俺は肝心の『どれくらい集めろ』を指定していなかった。

 やり過ぎないと決めた誓いは、すぐに破れた。


「取り過ぎちゃったものは仕方ない……せめて、これ以上は取らないようにしよう」


 幸い、ここら辺は他にも山がある。

 早めに気付けて良かった方だ。


「アルム様の能力なので、当然と言えば当然だとは思いますが……凄い量ですね。流石としか……」

「ごめんアグニ、悪いんだけどこれを選別するの手伝ってくれない?」

「は、はい! もちろんです!」


 せめて、鑑定がしやすいように分けて行く。

 

 薬草の選別をしていると、驚きの事実に気付く。


「これ……Sランクの薬草、【万能草】だ」


 きっと、雑草の誰かが持ってきたんだろう。

 Sランクの薬草とは、十年に一回見つかるかどうかの代物だった。


 その中でもトップクラスに珍しい【万能草】だ。

 売れば一攫千金、一生大金持ちだ。


「凄いですね! これなら、一気に冒険者ランクも上がりますよ! アルム様!」

「そうだね。ありがとう、ワン、ツー、スリー」


 雑草たちの頭を軽く撫でる。

 もう薬草は採取しなくて良いと指示を出したため、雑草たちは木の枝を持って走り回っていた。


 そこへ、何かの足音が聞こえてくる。

 ザザザ……と乱雑な足音に、アグニが反応する。


 林から飛び出してきたのは、一人の女性だった。


「はぁ……はぁ……んっ。あの! すみません!」


 黒髪のポニーテールをした女性だった。

 やけに焦った様子だな……どうしたんだろう。


「ここら辺で、薬草を見かけなかった!?」


 魔物との戦闘で怪我を負っているようで、随所に傷が見えた。

 太ももも大きく切り裂かれていて、あられもない姿をしている。


 先ほどまでスタタ……と走り回っていたワン、ツー、スリーが目を光らせる。


「えっ!? なにこの小さい可愛いの……わ、わぁぁぁっ!」

 

 あ……そういえば、怪我人は助けろって指示だしたんだ。

 雑草たちに押し倒されるように、少女が倒れる。


 そのまま薬草を塗り込まれ、治療される。


「……ワン、ツー、スリー。ストップ」


 俺は頭を抱えながら、指示を出した。

 【擬人化】にはこういう問題がある。


「ごめん、大丈夫だった?」

「う、うん。なんか治療されたみたいで……って、それどころじゃなくて!」

  

 またも、焦った様子を見せる。


「私はシアンって言うんだけど、友達が【亜種ヒュドラの毒】をモロに浴びちゃって! その解毒草が欲しいんだけど、どこの山を探しても薬草が見つからないの! エーティア街だとちょうど在庫切れらしくて……」

 

 ヒュドラ……確か、討伐難易度はAかSだったような。

 なるほど、急いで探していたが道中で魔物と遭遇して焦って倒したから怪我を負っていた訳か。

 

「最低でもAランクの解毒草がないと……この山ならまだあるかもしれないって! エーティア街のギルドから教えてもらったんだ! なのに、一つも薬草がないんだよ!」


 俺はシアンから顔を背ける。

 アグニ、俺のことを見ないで。


「このままじゃ……友達が死んじゃう……」


 泣きそうになるシアンに、俺は視線を向ける。

 彼女に言葉に嘘や偽りはないと思う。


 なら、俺の取るべき行動は一つだ。


「これなら、治るんじゃないかな」

「アルム様……!」


 アグニが何か言おうとするが、口を閉ざさせる。

 俺は迷わず、Sランクの【万能草】を渡した。

 

「これ……Aランク以上の解毒薬?」

「うん。これで良くなると思う」

「本当!? ありがとう! あっ、名前……」

「アルムだ。それよりも、急いでるんでしょ」

「そ、そうだった……! アルム! ありがとう!」


 シアンが走り去っていくのを見て、俺はため息を漏らす。


「危ない……あやうく人を殺す所だった……」


 まさか、こんなタイミングで遭遇するとは。

 アグニが不満そうな顔をしていた。


「アルム様……本当に良かったのですか?」

「いやだって……俺が取り過ぎたのが悪いから。それに薬草採取の仕事だって、結果的には人を助ける仕事だしさ」


 シアンの友達が治るのなら、それで良いじゃないか。

 ランクなんて、コツコツやっていけば上がるしさ。


「治るといいね。シアンの友達」


 私欲のあまりないアルムに、アグニは思う。


(アルム様……あなたは、優しすぎます。だから、私が必ず守ります……!)


 メラメラとやる気に満ちているアグニに、俺は首を傾げた。



 

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[一言] 擬人化の解除ってできないんですかね…? 雑草や薬草にも一度使ったらそのままで最大魔力容量を生贄に捧げ続けるのかと考えたら凄い微妙…
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