11.【魔灰水病】
数日後。
エーティア街の冒険者ギルドでは、とある噂が流行っていた。
冒険者ギルドで、二人の男たちが話す。
「おい、聞いたか? 最近、森で出現する三体の精霊」
「あぁ知ってるよ。なんでも、怪我をしていたら現れて勝手に治癒してどっか行くんだろ? 小さくて可愛いって聞いたけど」
「この前、結婚を控えていた【堅牢のファング】が森で死にかけたらしいんだ。でも、その精霊たちに救われて命拾いしたそうだぞ……」
話を聞いていた相手の冒険者が「おぉ……!」と感嘆の声を漏らした。
「アイツ、『帰ったら結婚するんだ』とか言ってたもんなぁ。今頃、ちゃんと式を上げて幸せだろうさ」
「一部の冒険者の間だと、崇拝してる奴も出て来てるらしいぜ」
アルムが【擬人化】したワン、ツー、スリーは自由に森で生活し、冒険者たちを助けていた。
そんなこともつゆ知らず、アルムたちが冒険者ギルドに依頼達成を報告に来る。
冒険者の男が言う。
「おい……すげえ美人だぞ、あの女。胸もでけえし……あのキツそうな目、堪んねえな」
アグニを指さす。
「あれ、最近頭角を現してきてる新人たちだろ? やめとけ、あの女……確かアグニだったか。アグニに手を出そうとして、全員燃やされてる。死んじゃいないが」
「こ、こええな……男の方はどうなんだ?」
「あぁ、あいつな……あれは超お人好しの馬鹿だ。なんでも、ブラック剣士にSランクの【万能草】をタダで渡したらしい」
シアンは通称、黒髪からブラック剣士と呼ばれていた。
「げーっ! 売れば一生遊んでいけるじゃねえかよ! とんでもねえ奴だな……」
アルムはニコニコして、今日も受付に大量の薬草を置いた。
「あの様子だと、アグニの尻に惹かれてるな。あの男」
「へへっ! ちげえねぇ」
乾いた笑い声を漏らす。
ふと、アグニの顔が見える。
「……アルム様、今日も好き」
「ん? アグニ何か言った?」
「いえ、何も」
聞いていた冒険者の男たちが、唖然とする。
間違いなく、アグニの眼には好きの文字が輝いていた。
*
冒険者ギルドで視線を浴びていることに気付かず、俺はニヤニヤする。
今日もたくさんお金がもらえた。これなら、数か月は働かなくても生きていけそうだ。
やはり、お金を貯めるのは楽しい。
「アルム様。なぜ貯金ばかりを?」
「え……あぁ、俺はマイクロ家に居た時から貯金する癖が身に着いてるんだ」
マイクロ家に居た時、借金が溜まっていくにつれて使用人は減り、すべて俺にしわ寄せが来ていた。
「まぁ昔、フィム兄さんに貯金が見つかって全額持ってかれた挙句使われたこともあるんだけどね」
「……酷いですね」
憤慨するアグニは、メラメラと炎を出している。
抑えて抑えて、というと炎が消えた。
俺はフィム兄さんのこと以降、貯金は絶対に人から見つからない場所に隠すようになった。
「マイクロ家に居て思ったのは、借金で苦しむのは嫌だってこと。それにゼロからコツコツ貯めるのってかなり楽しいんだよ? 何かあった時に役に立つし!」
お金は使うのではなく、貯めるに限る。
もちろん、アグニにも不自由な生活をさせないために好きな物は買わせてあげたい。
だけど、アグニはあまり我儘を言わない。
逆に『アルム様のお身体を流します』とか『好きな物はアルム様です』と言われる始末だ。
正直、アグニは俺に遠慮してストレスが溜まっているんじゃないかと不安だった。
「あの、すみません」
俺とアグニの会話に割って入るのを遠慮していた受付嬢が言う。
「またシアンさんから『お礼がしたい』との言伝を授かっているのですが」
「またですか……」
どうやら、シアンの友達は無事に回復したようで元気になったと聞いた。
そこで、俺から貰った物がまさか【万能草】だとは知らず、大層驚いたとか。
一度、お礼をしたいと言われたが断った。
「お礼が欲しくてやった訳じゃないので、またお断りを」
そういうと、受付嬢が柔らかく笑った。
「分かりました、アルムさん」
「あの、良かったら【薬草採取】の他に、別の依頼とかも受けてみたいんです。どれかありませんか?」
「まぁ! ありがとうございます! じゃあ、えぇっと」
受付嬢がいくつか棚を漁っている。
隣にいるアグニは、「討伐依頼にして欲しい」と言った様相でモゾモゾしていた。
ヴェルファイアで見せたレベルの魔法は、間違いなく常識ではない。
だが、あれ以下の魔法を使おうとするとアグニが『私をもっと使ってください!』と怒るんだ。
それでも常識は大事、守って行こう。
受付嬢が用意してくれたものを見る。
ふむ近くにいる低レベルの魔物の討伐や、パーティーのサーペント討伐とかか。
しかも、駆け出し冒険者がやっても危険度が低いものだ。
と、そこで俺は変な依頼書を見つける。
「【魔灰水病】患者の手伝い……?」
「へっ!? なんでそれが! す、すみません! それはダメです!」
依頼の報酬もかなり高いし、危険もなさそうだ。
しかも、エーティア街の中で出来ることだ。
「いえ、これにします」
「ダメです! 【魔灰水病】は不治の病なんですよ!? 非常に危険だから誰も受けたがらないんです!」
「知ってますよ」
【魔灰水病】は、魔物に汚染された水を飲んだ人間が感染する不治の病だ。
身体に灰色のアザができて光り、徐々に体を蝕み、最終的に人を灰にするのだ。
「【魔灰水病】はエーティア街で最近徐々に増えて来てるんです……王国もこの病気に何もできず……拡大を防ぐために隔離するしかなくて」
「そんな事になってたんですね……」
人に感染すると言われているから、仕方のないことだ。
でも、誰かが看病してやらなくちゃいけない。
冒険者ギルドでも、一応は募集しているが集まらないのだろう。
俺が手に取った依頼書はかなり古いものだった。
もっと早く気付くべきだった。
「大丈夫ですよ。【魔灰水病】なら詳しいので」
「へ……?」
「困ってる人が居たら助ける、当然のことです」
軽く俺は微笑み、冒険者ギルドを後にする。
その後ろをアグニがピッタリついて歩いていた。




