第11話 日常
オレは休暇初日の夜、エリーに会うため連絡しようとスマホを見た。
初めてスマホに幻滅した。いや、八つ当たりをした。
なぜなら、エリーの連絡先を聞いていなかったことに気付いたのだ。
愕然とした…しかし、聡明なオレは思い出した。
実家にエリーのお父さんから電話が掛かってきたことを。
副大統領からエリーの連絡先を聞けばいい。
滅茶苦茶緊張するが。
オレは直ぐに実家に電話した。
そしたら、母親から返って来た言葉は…
《着信履歴残ってないわよ、だって結構前のことなんだから》だ。
オレは1日引きこもった。
生きる意味をなくしかけた。
しかぁし、オレに生きる希望が届いたのだ。
神様はみている。良い子は必ず報われるのだ。
それは、"beautiful・snow・world"のライブチケットである!
ペアチケット。
仕方ないから谷口を誘ったが、姉ちゃんと旅行に行く予定だと…
この先輩不幸者が!旅行で何をするつもりだね谷口くん?いい大人ならすることするんだろう?チっ!オレには彼女いないのに!!
日本に戻ってからまだ美優紀に会ってなかったな。帰って来たことを伝えて一緒にライブに行かないか誘ってみるか。美優紀はオレよりコアなファンだから喜ぶだろう。
そう思い美優紀に電話した。
しかし、帰って来た言葉は予想外な返事だった。
《浩司くん!?お帰りなさい!肋骨は大丈夫?帰国日にお出迎え出来なくてごめんね。》
《ただいま。出迎えなんて気にしてないよ。骨はヒビだけだから安静にしてればいいって天道先生に診て貰ったよ》
《現地から千葉隊長の報告で浩司くんがまた撃たれたって聞いて心配したんだよ》
《そうだね、"また"だね…今回も守るために仕方なかったんだ》
《……また女の人を助けたんでしょ?》
《へ?…はっそうだね、女の人というか"女の子"を助けたよ》
少し焦ってしまった。
《そっかぁならよし。浩司くんは凄いな。人を守るために体張って頑張ってるんだもん》
《美優紀だって看護師さんの仕事も大変だろ?命を預かる仕事だし、オレたちはそんな人がいるから無謀にも体を張れるんだよ》
《無謀はダメだよー》
《そうそう、実はbeautiful・snow・worldの最終日のライブチケットが手に入ったんだけどペアチケットだったから美優紀一緒に行かないか?》
《っえ!?チケット買ってたの?》
《当たり前じゃん!ユキちゃんのファンですから!》
《あっそうだよね。えっとね…その日私実家に用事があってね…折角誘ってくれたのにごめんね》
《そっか、ならまた今度な!》
《うん、それじゃまた基地でね》
電話が終わった。
美優紀の心の声--
どうしようどうしよう。ライブに浩司くんが来るよぉ。あそこ狭いからすぐ見つけちゃうかも。目が合ったらどうしよ……まず"アキ"ちゃんと"リン"ちゃんに報告だ!
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仕様がない。ライブは一人で行くことにした。
今回のライブはツアーの最終日であり、さらに
beautiful・snow・worldがアマチュア時代に初めて立ったステージで締め括られる。"聖地"で行うのだ。
だが、アマチュアバンドが立つライブハウスとあって、手狭だ。これでも改築もされていて当時と比べ動員出来る人数は大幅に増えたらしい。
だから、今回は収容人数が少ないライブハウスでのチケットが当たったオレはラッキーなのだ。
今まで命懸けの戦いをしてきたのだ。その分、神様がご褒美をくれたのだ。感謝感激。
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政府は公表することに悩んでいた。未だかつてない事態だからだ。例えば今回の事案が"UFO"所謂未確認飛行物体であれば、すぐさま在日同盟国軍に連絡し対処ができた。
"UFO"問題は既に政府の中では大した問題ではないのだ。発見したUFOは連絡を受けた同盟国軍が回収、撤収した後データ収集し解体され試作兵器のパーツとされる。そうして、軍事技術力が向上していっているのだ。
希にUFOの中で生きた異星人が発見されることがある。これに関してはどうなるのかは私の権限では把握が出来ない。
ただ、違うのは異星人は同じ世界に存在するのだ。地球外生命体と言えば分かりやすいだろうか。地球ではない違う星に住まう生命体。同じ時間、同じ世界に"存在"しているのだ。
だから、異星人と敵対したのなら宇宙で戦えばいいと同盟国は考えている。
しかし、今回の報告書"the unknown O"レポートは政府を悩ますのに効果があったようだ。
なんせ、日本には"もう一つの世界"があり、そこからなんらかの方法で"あちら側"の生命体が攻めてきたのだ。しかも、"あちら側"の存在を知らしめる生きた証拠と戦闘映像記録があるのだ。
上には報告はした。あとは、新しい命令が来るまで今ある仕事をこなすだけだ……最近は忙しいためか寝落ちしてしまうことがある。官僚失格だな。税金で私達は給料を貰っているのだ、しっかりと国に還元しなければ……
渡辺は目頭を押さえながらデスクから腰を上げた。
洗面所で顔を洗った……酷い顔だ…目が充血している。
スマホが鳴った。
《渡辺です。…………えぇそうですか。分かりました。天道カンパニーさんと…………なら私は引き続き研究所にて情報をまとめておきます……はい、失礼します》
……やっと世界は平和に向かっているのに国内で問題を抱えるとは……
渡辺はスーツに着替え研究所へ向かった。
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特殊生命学生態科学研究所《特生研》
人類には未だに解明されていない生態系や生物、実在していたか等を検証するため世界から貴重なサンプルや文献が集積され各世界的権威の研究者によって解明していくための研究施設である。
因みに異星人分野は軍が担当している。
特生研では今、歴史学と生物学の権威が肩を並べ、ある少女について研究をしている。
研究と言う名ばかりのお世話に近いかもしれない。
その少女は頭の側頭部から不自然に毛がフサフサした耳が生え、丁度仙骨から犬のような尻尾を揺らしている。
彼女の視線の先には、金髪ストレートのロングヘアーでスタイル抜群、横を通りすぎたら誰もが振り向くボン・キュ・ボンな美女を見つめていた。
見つめられている金髪美女はそんな少女を観て、正直安堵した。
初めて少女と会ったときは表情も暗く服装も凄くみすぼらしく生気が感じられなかった。竹田先生には馴いているように見えたが何かに怯えているようにも感じた。
どうやら住んでいた集落が何者かに襲撃され、逃げている最中に何らかのトラブルでこちらの世界に迷い混んだ……という見解を私達はだした。どの世界にも争いは在るものなのネ。
エリーはホワイトボードに貼ってある写真の横に文字を書いた。
「く・る・ま、くるま」
「う…る…ま??」
「ノンノン、く・る・ま、ですワ」
「く…う…ま…てす…あ??」
「あらあら、ワタシの口調も真似てしまいましたワね可愛い子」
そういうとエリーは少女を抱き締めて頭をナデナデしていた。
あぁ、妹がいたらこんな感じなのかしラ…
この研究施設に来て早1ヶ月。
ワタシと竹田先生は政府から計画を伝えられた。
研究サンプルから少女がどのような世界から来たのかを検証し移動方法の発見と、もしあちら側に行くことになれば通訳や色々教えてくれるガイドが必要であるため、日本語を理解し話せるよう教育をするよう通達が来た。
最初は仕事としてやらされてる感があり抵抗があったが、今では妹の世話をしている感じになっている。この子との心の距離は縮めれていると思う……
と、少女を抱き締め続けていたらコウジのことを思い出した…
コウジにワタシの連絡先を教えるの忘れてタ…
それも日本に来てから気付いた。
サプライズで会いに行ってビックリさせるつもりが裏目に出ちゃいましたワ。
あの誘拐事件の後、しばらくして和平への道筋が出来たので、ワタシはお父様から頼まれた親善大使職を辞め、元の大学の教授職に戻ったワ。だって24時間SPが付いてくるんだもの…流石に嫌になりますワ。
いざとなればセバスに頼むかしら。セバスならきっと直ぐにコウジを見つけてくれますワ…
…コウジは元気かしら…愛人を沢山作ってなければいいケド……コウジはソルジャーだから、いつも命懸けだモノ…女の一人や二人……いいえ!
ワタクシが癒して差し上げるために来たのヨ!
約束した将来についても話し合わないと…仕事はまだやめられないケド…子供は3人は欲しいですワね……そして、犬もいて大きな家に庭もあって、子供たちと犬が一緒に遊んでいる姿を観てて「……今夜どうだい?…もう一人作らないかい?ハニー」「イヤン、ワタクシはいつでもアナタとなら…」
と、妄想を膨らめて顔を赤くし恥ずかしそうにしているエリーを観て
「エ・レー??」
「ハっ…ワタシとしたことが…こんな小さな子を抱き締めながらなんて…」
扉が開き竹田が入ってきた。
「そろそろご飯の時間にしようか」
「ゴ・ハ・ン、た・べ…れ?」
「た・べ・る」
「た・べ・る?」
「そう、よく言えましたワ!」
「二人とも食堂においで、じじ特製のカレーライスじゃよ」
「かれー、かれー!」
少女はカレーの言葉でテンションが上がった。
竹田が作る特製カレーはスパイスを調合するところから作り始める。
こちら側の料理はどれも嫌わず食べていたが竹田のカレーは少女の口にとても合うのだ。
「あらあら、これではお爺ちゃんとお孫に見えますワね」
楽しく3人で食堂に向かった。




