弟子入り志願
床から出てきたのは30歳前後の男性だった。
髪はボサボサで服も着崩していてなんというかダラシない感じの人だった。
男性もこちらに気づいたようでびっくりした顔で声をかけてきた。
「おまえは誰だ。ここで何をしている?」
男性の少し怒気のはらんだ声に怯みそうになったが僕はここにいる理由を説明した。
「僕はトーラスといいます。勉強がしたくてこの書庫に来ました。この書庫は誰も使っていないという噂を聞きましたので、誰の迷惑にならないと思い使わせてもらいました」
僕は王族というのはふせて説明した。
「この書庫は国から許可を得て俺が研究のために使っているんだ。どこぞの貴族の子供が知らないが、俺の領域に勝手に入ってんじゃねぇ。わかったならとっと出ていけ!」
あの噂はこの人の性格的に誰も寄り付かなくなったのかなぁと勝手に思っていた。
しかし僕はここで引くわけにはいかない。
ここ以外で勉強が出来そうな所も見当がつかないしそれとこの人はここで研究をしていると言っていた。国の許可を得てこの書庫を使えるほどに王宮で上の立場の人かもしれない。
相当頭が切れて優秀な人に違いない。
僕は胃を決して男性に向かって言葉を発した
「お願いがあります。僕に勉強を教えてください。研究の手伝いでも雑用仕事でも何でもします。空いた時間に少しだけでもいいですので」
そう言って僕は深く頭を下げた。
何か確証は持てないがこの人を見たとき思ったんだ。勉強を教わるならこの人しかいないと。
この人についていけば僕は前に進めると。
「……」
男性から反応がない。
おそるおそる頭を上げて男性の方を見ると僕の方をじっと見つめていた。
そして男性が口を開いた。
「俺についてくるのは並大抵のことではないぞ。やめるなら今のうちだ。生半可な気持ちなら止めとけ。以前にもお前のようなやつはたくさんいたんだ。皆口ではついてこれるといいながら1ヶ月も経たないうちに俺の前からいなくなっていったんだ。お前もすぐ根を上げるのが関の山だろうよ」
男性から投げられた言葉は僕の心に強く突き刺さった。
だけど僕はやはりこの人しかいないという気持ちが溢れていった。この人の元なら努力して努力してたくさん頑張れる。僕の気持ちは変わらない。
「今の言葉を聞きより一層あなたの元で学びたい気持ちになりました。どうか僕を弟子にしてください。できうる限りの努力を重ねいずれはあなたの力になれるような人間になってみせます」
そういうと男性は少し笑みを見せながらも真剣な顔で言ってきた。
「おまえの気持ちはわかった。明日から俺の元で雑用をしてもらう。たまには勉強も教えてやる。だが覚えておけ。俺は厳しいぞ。少しでも弱音をはきやがったら叩き出すからそのつもりでいろ」
僕は顔がゆるみそうになるのを抑えながらしっかりと『はい。ありがとうございます。一生懸命頑張ります。ご指導よろしくお願いします』と言った。
「今日はもう帰れ。また明日同じ時間に来い。1秒でも遅れたら書庫には入れないからそのつもりでいろ」
僕はわかりましたと言い扉を開けて出ようとした時、名前を聞いていないことに気付き男性に尋ねた。
「すみません。お名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「あぁ名乗ってなかったなぁ。オズワルドだ。」
「ありがとうございます。明日からよろしくお願いします。オズワルド先生!」
僕はそういうと部屋から出て自室の方に歩き始めた。
次の話は初めて主人公視点以外の話になります。
トーラスの救世主侍女マアサの視点です