91話 ドラゴン娘のプライドと闘志
「さて、それじゃあ作業を開始するにゃん!」
皇城の工房で、ヴァルカンが張り切った声を出す。
作業台の上にはアーティファクトを作るための材料――
オリハルコンやマナダイト、アダマンタイト、少量だがヴィブラウムなどが並べられている。
「まずはパーティの守り手、ステラちゃんの武器から取りかかるにゃ、素材は……」
一流の鍛冶士――アーティファクトスミスともなれば、どういった武器を作るか、そして作業自体に迷いは一切ない。
必要な材料を仕分し、手際よく作業を進めていく。
その頃、アリアたちは――
「早速だが訓練を始める。ステラ、来い!」
「了解なのだ! です!」
屋敷の庭へと場所を移動したアリアたち。
ジュリウス皇子がステラとともに庭の中心部に移動する。
広い庭だ。芝生は手入れが行き届いており、プールまで備え付けてある。
世界を救った英雄たちが住まう家として相応しい造りをしている。
訓練を始めるということで、ジュリウス皇子が武器を構える。
彼の得物はステラと同じくグレートソードだ。
訓練用らしく、刃引きがしてあるのが窺える。
対し、ステラの武器は普段のものだ。
アリアは訓練用のものに持ち替えるように言ったのだが……ジュリウス皇子はそのままで構わないと言う。
アリーシャも微笑を浮かべながら頷いたので、そのまま訓練を始めることとなる。
「…………ッ!」
ステラが息を漏らす。目の前にはグレートソードを中段に構えたジュリウス皇子。
そしてステラは気づく。グレートソードを持つ自分の右手、そしてメガシールドを持つ左手が僅かに震えていることに。
(むぅ……何と隙のない構えだ。それに凄まじいプレッシャー……さすがは勇者が一人、衰えていると聞いたがこれほどとは――)
ジュリウス皇子の構えを見て、タマは内心舌を巻く。
前世が剣の達人であったタマから見て、ジュリウス皇子の構え、そして圧倒的なプレッシャーは剣士として人間の限界を超えた水準にあるものだと感じ取れた。
「まずは小手調べだ。好きなように打ち込んでこい」
「ぐ……っ、我を馬鹿にするな! です……ッ!」
緊張で強張るステラに苦笑しながらジュリウス皇子が言うと、ステラは顔を真っ赤にして言葉を返す――そのまま凄まじいスピードで飛び出し、ジュリウス皇子に接近する。
接近するとともに腕をドラゴン化、同時に尻尾も生える。
ステラは本能で理解していたのだ。本気を出さなければ、自分など彼の足元にも及ばないことを――
「ほう、ドラゴニュートだったか。なかなか速いが……単純だな!」
「なっ…………っ!?」
ステラが驚愕に目を剥く。
ドラゴニュート形態で放ったメガシールドによる渾身のチャージアタック……。
それがジュリウス皇子の前蹴りによって軽々と弾かれたのだ。
だが、それで終わるステラではない。
バランスを整えながら今度は右手のグレートソードでジュリウス皇子の腹を狙う。
これが訓練であることを忘れてしまっているかのような凶悪な斬撃だ。
あまりの攻撃に、アリア、リリ、それにフェリが悲鳴を上げる――が……。
「ほう、この体勢から斬撃を放つか! 素晴らしいバランス感覚だ!」
「馬鹿な……なのだ……ッ」
今度は呆然と声を漏らすステラ。彼女の放った斬撃……それが今度はジュリウス皇子の左腕のガントレットによって滑らされ、そのまま無効化されたのだ。
一撃目は脚で、二撃目は腕で……。
自分は全ての攻撃を本気で放った。だというのに、ジュリウス皇子は剣を使わず全て防いでしまった。
ステラもタマの指導でメガシールド、グレートソードの扱いを練習し、技術を磨いてきた。
だというのに……。
「ステラ、お前のパワーは素晴らしい。単純な力比べなら俺よりも上だろう。盾や剣の技術も磨いているようだが……いかんせん単純だ。モンスター相手なら通じるだろうが、勇者や強力な魔族の相手をするには単純すぎる」
呆然とするステラにジュリウス皇子は続ける。
だからこそ俺との訓練で技術を学べ、そして〝新たなスキル〟を習得しろ――と……。
「新しいスキルなのだ……?」
「そうだ。剣や盾の使い方の向上はもちろん、四魔族の相手をするにはそれに見合ったスキルが必要だ。俺との訓練でそれを習得させてみせる。強者との度重なる戦闘は派生スキルの習得にはピッタリだからな」
不思議そうな顔をするステラにジュリウス皇子が言う。
彼の言う通り、この訓練は戦う技術を向上させることではなく、四魔族と戦うに相応しい派生スキルを習得することも狙いだ。
かつて四魔族や七大魔王の一部を相手に戦った彼やアリーシャだからこそ、アリアやステラの特性を見抜き、彼女たちのスタイルに見合った、そして四魔族を相手にするのに相応しい派生スキルを習得させるように追い込むことができるだろう。
(新しいスキル! 必ず習得してみせるのだ! そしてコイツをギャフン! と言わせて、タマに褒めてもらうのだ!)
Sランクモンスターであった自分の攻撃がいとも簡単に防がれた――
その事実にステラのプライドは大きく傷つけられた。
必ず目の前の男を見返す。そして愛しいタマに自分ができる女だと褒めてもらおうと闘志を燃やすのだった……。




