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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第三章

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92話 恐怖に抗う心

「それじゃあ、私たちも始めるわよ。妖精さん、こっちへいらっしゃい?」

「了解よ、ベルゼビュート様!」

「アリアさんたちの力になれるように頑張ります〜!」


 ベルゼビュートに呼ばれ、リリとフェリが庭の隅の方へと移動する。

 二人とも聖魔王を前に緊張しているが、命を救ってくれたアリアたちに恩返しするために、やる気満々の様子だ。


「まずは二人のスキルを見せてちょうだい、それ次第で訓練の方針を固めるわ」


 ステラと同じく、ベルゼビュートもリリたちの戦闘技術はもちろん、派生スキルを習得させるつもりなのだろうか。

 二人にそれぞれスキルを発動するように指示を出す。


「アリアちゃん、わたしたちも始めましょうか」

「はい! アリーシャ様、よろしくお願いしますっ!」


 アリーシャの呼びかけに元気よく応えるアリア。

 憧れの剣聖様に鍛えてもらえる……そのことが嬉しくて堪らないといった様子。


「武器は……これでいいですね」

「それは、木刀……ですか、アリーシャ様? それに収納スキル……」

「その通りです、アリアちゃん。まずは小手調べです」


 アリーシャがメイド服のスカートに手を当てると、一本の木刀が彼女の手中に出現した。

 どうやらタマのように収納スキルの類を有してるらしい。


 木刀を取り出したアリーシャを見て、アリアが少々不満そうな表情を見せる。

 確かに、剣聖たるアリーシャからすればアリアなど相手にもならないのかもしれない。

 しかし、それでも木刀とは……。


「ふふっ、勘違いしないでくださいアリアちゃん、別にあなたのことを馬鹿にしているわけではありません。ただ、もしわたしが剣を使って相手をすれば……アリアちゃんは〝剣気〟に当てられただけで気絶してしまうかもしれないので……」

「…………っ!?」


 苦笑しながら紡がれるアリーシャの言葉に、アリアは息を飲む。


 剣気に当てられて気絶――そんな事例など聞いたこともない。

 だが、困ったような表情を浮かべるアリーシャを見て、彼女が冗談を言っているわけではないと理解する。


「では、アリアちゃん。始めましょう――」

「ひ……っ!?」


 アリーシャが静かに木刀を片手で構える。

 そしてその瞬間、アリアは小さく悲鳴を漏らした。

 両脚、そしてナイフを持つ両手がガクガクと震え始め、全身から大量の汗が噴き出す。


(こ、殺されちゃう…………ッ)


 アリーシャは木刀を構えているだけだ。だというのに、アリアの全身を恐怖が支配したのだ。


(ふむ……何という剣気、これがアリーシャ――伝説の剣聖……)


 離れたところから見ていたタマの毛が逆立っている。

 Sランクモンスターである彼からしても、アリーシャの構えは命の危機を感じるほどに凄まじい。


「やめますか、アリアちゃん? やめると言えばわたしは構えを解きます。でも、もし続けるなら、あなたの全力をもってかかってきてください」


 静かに、優しい声色でアリアへと語りかけるアリーシャ。

 アリアは(ゆ、許してもらえる……?)と、心の中で呟く。


 そしてそのまま――


「やめ――……るわけにはいきません…………《アクセラレーション》――ッ!」


 恐怖に震える体と心に抗い、固有スキル《アクセラレーション》の名を叫び、その場を飛び出した。


 怖い、心底怖い……。しかしここで逃げれば、自分は立ち直れなくなってしまう。それをアリアは確信していた。


 剣聖アリーシャのような正義の武人を目指す彼女にとって、それは生きる目的を失うのと同義だ。


 何より、ここで自分が折れてしまっては、四魔族の討伐ができなくなってしまう。

 もし四魔族が一柱でも世に解き放たれれば、無数の人々が血に染められることになるだろう。


 そんなことを許すわけにはいかない!


 自分の中に宿る正義感で、アリアは恐怖に抗うことに成功したのだ。


「いきます……《セイクリッド・ブレイド》――――ッッ!」


 恐怖故に、アリアはアリーシャの言った通り全身全霊の全力攻撃――《セイクリッド・ブレイド》を放つ……が――


「なるほど神聖属性ですか、威力から察するに古代スキルといったところでしょう。でもマナの消費量も大きいようですね……」

「…………ッ!?」


 アリアが驚愕に目を見開く。

 離れた位置から見ていたタマも心の中で(馬鹿な……っ!)と叫ぶ。


《アクセラレーション》で加速したアリアから放たれた《セイクリッド・ブレイド》――それが防がれたとか避けられたとか、そういう次元の話ではない出来事が起こった。

 今までアリアと対峙していたアリーシャ……。彼女がいつの間にかアリアの後ろへと現れ、《セイクリッド・ブレイド》の白銀に輝く刃をまじまじと見ているのだ。


「合格ですよ、アリアちゃん。よく恐怖に抗いましたね。これなら四魔族と戦えることでしょう」

「あ、え……合、格……?」


 アリーシャの言葉に、意味が理解できないといった様子でアリアが声を漏らす。

 そんな彼女に苦笑しながら、ジュリウス皇子が歩み寄ってくる。


「つまりだ、アリア。お前が訓練をつけるに足る心の強さを持っているかどうか、アリーシャは試していたんだよ」

「あ……っ」


 その言葉をもって、アリーシャがあのような言動を取った本当の意味を、アリアは理解するのだった。


(せっかく救った命ですもの、四魔族に殺されるなんて嫌ですからね……)


 やっと体の震えが収まり一息ついたアリアを見て、アリーシャは慈愛を感じさせるよう微笑を浮かべながら、そんなことを思うのだ――。

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