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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第三章

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86話 VSトロール

「何でしょう、この先から嫌な感じがします……」

「んにゃ、すごいプレッシャーにゃん……!」


 安全地帯で食事を済ませ、軽く睡眠をとったアリアたち。

 迷宮十層目を少し先に進むと、先頭を歩いていたアリアとヴァルカンが何とも言えない重圧感を覚える。


 岩陰から先の様子を窺い見るアリアとヴァルカンが思わず「……ッ!?」と息を漏らした。


(なるほど、トロールか。厄介な敵だ)


 アリアの肩に乗り、一緒に敵の正体を見ていたタマも苦い顔をする。


 そう……先に待ち受けていたのは、身長三メートルほどの巨人型モンスター、トロールだった。

以前タマが、魔族ベリルが従えていた個体を倒したのを見ていたので、その強さはアリアたちも理解している。


ランクはAランク。岩をも砕く膂力と自己再生能力を持つ、厄介なモンスターだ。

一体いれば、村などあっという間に滅ぼされてしまうだろう。


「タマ、あなたは待機していてください。ここはわたしたちだけで挑みたいと思います」

「にゃっ(ご主人)!?」

「まぁ、確かにいつまでもタマちゃんに頼っていてもダメにゃん、アリアちゃんもAランクになったことだし、私たちだけでトロールに挑んでみるべきかもしれないにゃん」


 アリアの言葉に驚いた声を上げるタマ。

 しかし、ヴァルカンもアリアの意見に賛成のようだ。


「ふふんっ、安心するのだ、タマ。アリアたちは我がしっかり守ってみせるのだ。お前は我ができる女だというのを、そこで見ているのだ!」

「う〜ん、あのでっかいモンスターは恐いけど、頑張ってみるわ!」

「しっかりサポートするのです〜!」


 やる気満々のステラに、少々不安そうな表情を見せながらも挑む意思を見せるリリとフェリ。


 タマは(むぅ……仕方がない。ご主人たちがそこまで言うならば……。しかし、危なくなったらすかさず援護に入るとしよう)と、アリアたちだけで挑むのを認め、コクリと頷くのだった。


「ふふっ、タマにも認めてもらえたことですし、さっそく始めるとしましょう」

「了解にゃん、アリアちゃん。――リリちゃんとフェリちゃんには奇襲をかけてもらうにゃ。それが成功したら、あとはいつも通りでいくにゃん。トロールは再生能力を持ってるから十分に注意するにゃん!」


 ヴァルカンの指示に、皆しっかりと頷く。

 そして、激闘が幕をあける。


「いくわよ! 《フェアリーバレット》!」

「いきなさい、《ブランチュウィップ》〜!」


 リリとフェリが、それぞれスキルを発動する。

 タマの《獅子王ノ加護》の効果は継続中だ。

 強化された光弾と、木の鞭がトロールの体に襲いかかる。


『ゲバァァァァァァァァァッッ!?』


 奇襲は成功だ。

 リリの《フェアリーバレット》はトロールの腹に、フェリの《ブランチュウィップ》は肩に強打を与えた。


 傷はなかなかに深い。

 トロールの鮮血が、地面へボタボタ滴り落ちる。


 だが、もちろんこれでやられるトロールではない。

 傷口が煙と音を立てて再生し、一瞬で傷跡ひとつなく塞いでしまう。


「いくのだ!」

「もちろんにゃ!」


 トロールが怯んだのを見て、ステラとヴァルカンが飛び出した。

 そしてトロールの横っ腹に、既に体の一部をドラゴン化したステラが強烈なチャージアタックを叩き込む。


 さすがトロール。

 ステラの強撃を食らってなお、その場に崩れ落ちることはない。

 それどころか、ニヤリ――と下卑た笑みを浮かべ、ステラに拳を繰り出してきた。


「させないにゃん!」


トロールが拳を振るのと同時、今度は反対側に回り込んでいたヴァルカンが、バトルハンマーをトロールの脛にヒットさせる。

その瞬間、トロールが『ゲギャァァァァァ!?』と甲高い悲鳴を上げる。


 いくら頑丈で再生能力があるとはいえ、トロールにも急所はある。

 そしてそれは人間とほぼ同じ箇所だ。

 黒鉄製の巨大なハンマーによる渾身の一撃を脛に喰らえば、いかにトロールといえども堪ったものではないというわけだ。


(今ですッ!)


 この隙を見逃すアリアではない。

 すぐさま《アクセラレーション》を発動し、一瞬でトップスピードに至ると、トロールに急接近しすれ違いざまにナイフの刃で首筋を深く傷つける。


 ブシュッ……! と、鮮血が迸る。


 どうやら見事に脈を切り裂いたようだ。

 しかし、苦しげな表情を見せたものの、すぐに傷は再生してしまう。


「二人とも! 下がるのだ!」


 ステラが叫ぶ。

 そして次の瞬間、トロールが棍棒を大きく横に振り抜いた。


 ゴウ――ッ! と凄まじい風切り音が鳴り響く。


 アリアとヴァルカンはそれを大きくバックステップすることで回避に成功する。


 そしてステラは、メガシールドで迎え撃つが――まともに受けることはしない。

 メガシールドの角度を調整し、攻撃を上手く弾いてみせた。


「リリちゃん、フェリちゃん、今です!」

「了解よ、アリア!」

「任せてください〜!」


 攻撃を弾かれたことで、バランスを崩したトロール。

 アリアの指示で、リリとフェリが再びスキルを連続で放つ。

 攻撃に曝されるトロール。今までステラとヴァルカンに標的を絞っていたが、今度はリリとフェリに向かって走り出した。


「させるかなのだ!」


 タンクとして、後衛を危険に晒すわけにはいかない。

 走り出したトロールの背中に、ステラは右腕のグレートソードを叩きつけた。


 背中から大量の血を撒き散らすトロール。

 あまりの激痛に思わず足を止め、傷を負わせたステラを睨みつける。

 そして両手で上段に構え、棍棒を勢いよく振り下ろ――そうとしたのだが……。


「《セイクリッド・ブレイド》……ッ!」


 アリアの静かな、それでいて鋭い声が鳴り響く。

 その刹那、甲高い福音のような音とともに、白銀の閃光がトロールの頭上を迸った。


『ゲ……ゲビャァァァァァァァァァァ……ァァァァァッッッ!?』


 この戦いで、一番大きな悲鳴をトロールが上げる。

 それと同時に、地面に彼の両腕と棍棒が派手な音を立てて落下した。


 アリアは、トロールが大技を放つのを待っていた。

 そして今、絶好の機会が訪れた。

 後ろから跳躍し、神聖属性古代スキル《セイクリッド・ブレイド》を放ち、トロールの両腕を断ち切ったのだ。


 神聖属性は全ての種族の弱点となる強大な属性だ。

 聖なる刃で腕を切られた痛みは計り知れないだろう。


「んにゃ! トロールの再生速度が少しだけ遅くなってきたにゃ!」


 ヴァルカンが気づく。

 どうやら幾度にも渡る自己再生で、トロールの生命力が落ちてきたようだ。

 背中の傷が塞がるスピード、そして両腕の生えるスピードが遅くなっている。


「今のうちに連携で攻撃を仕掛けるのだ!」


 ステラがグレートソードを振るう。

 トロールの腹を斜めに切り裂くと、すぐさまバックステップで距離を取る。

 再生中の腕で繰り出したトロールのパンチが、飛び散る血とともに空を切る。


「《フェアリーバレット》!」

「《ブランチュウィップ》!」


 リリとフェリが後方に回り込んでスキルを喰らわせる。


 そのタイミングでトロールの腕が完全に再生する。

 攻撃に耐えながら棍棒を拾うトロール。そしてそのまま、リリとフェリに向かって棍棒を投げつけようと構えた。


「こっちからも一発にゃん!」


 そんなことは許すものか。

 今度はヴァルカンが、バトルハンマーでトロールの後頭部を叩きつける。

 連携攻撃によって混乱していたトロールは、彼女の攻撃に全く対応することができなかった。


 だが、やはりさすがはAランクモンスターだ。

 グラつきはしたが気絶することはなかった。

 しかし脳震盪を起こしたのだろう、腕を上げられないようだ。


「これで終わりです! 《セイクリッド・ブレイド》――ッッ!」


 アリアが再び急接近する。

 タマの《獅子王ノ加護》と、アリア自身の《アクセラレーション》の誇るスピードに、脳震盪を起こしたトロールでは当然反応できるはずもない。


 アリアが放った《セイクリッド・ブレイド》は三連撃だった。

 再びトロールは両腕、そして首を断ち切られ――土煙を立ててその場に崩れ落ちた。


「再生……は止まったにゃん!」

「我らの勝利なのだ!」


 トロールが再生することはなかった。

 どうやら最後の攻撃で、生命力が底をついたようだ。


「は〜、ドキドキしたわ〜!」

「少し恐かったけど、勝ててよかったのです〜!」


 リリとフェリが、ほっと息をついてその場に座り込む。

 初めてのAランクモンスターとの戦いで、やはり相当緊張していたようだ。


「ふふっ、どうでしたか? タマ♡」

「にゃん(見事だったぞ、ご主人)!」


 愛おしげにタマの名を呼ぶアリアに、彼は称賛の意を、元気に鳴いて伝えるのだった。


おかげさまでコミック1巻が重版いたしました。

これもご愛読くださる皆さまのおかげです。

本当にありがとうございます。

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