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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第三章

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79話 世界樹と生命の泉

「ふふ……っ、おはようございます、タマ……♡」

「にゃお〜!」


 翌朝――


 アリアの胸に抱かれて、タマが目を覚ます。

 昨夜、発情したステラから全力疾走で逃亡し、何とか捕まらずにアリアの胸の中に逃げ込むことに成功した。

 アリアの胸の中で小刻みに震え怯えるタマに、さすがのステラも手出しすることはしなかった。


「むぅ……我はまだ〝疼いて〟しょうがないのだ……」


 今もアリアの胸の中に収まり、頭を撫でられるタマの姿を見て、ステラが下腹部を押さえながらそんな言葉を漏らす。


 どうやら発情から来る体の疼きは一晩中続いていたらしい。

 少々息が荒く、頬はほんのりピンク色に染まっている。


「んにゃ〜! みんなおはようにゃん!」

「おっはよ〜!」

「おはようございます〜! 寝起きのタマちゃん可愛いです〜!」


 そうこうするうちに、ヴァルカン、リリ、フェリも起きだす。


 ヴァルカンが「うにゃ〜!」と声を上げて伸びをする。

 リリはパタパタと背中の羽を羽ばたかせてステラの胸にぽよん! と乗り、フェリはタマの寝ぼけた顔を見てデレデレしている。


(何とも平和な日常だ。こんな日が続けば良いな……)


 皆が浮かべる幸せそうな表情を見て、タマはふとそんな感情を抱くのだった。


「アリアさん、ひとつお願いがあります〜」

「……? どうしたのですか、フェリちゃん」


 タマの表情を堪能していたフェリが、おもむろにアリアに声をかける。


「この家の庭に木が欲しいのです〜! 妖精族は草木に囲まれていると落ち着くのです〜」

「あ、私もそれ思ってたのよね! やっぱり木がないと落ち着かないわ!」


 フェリの言葉にリリも「賛成!」と言って、パタパタと飛んでくる。


 妖精族は普段は森の奥深くなどで草木に囲まれて生活している。

 街中の暮らしではそれがないため、少々ストレスがたまるのだ。


「そういうことなら大丈夫です。でも、木を植えるとなると大掛かりな作業が必要ですね……」


 可愛い妖精族の二人のためなら、庭に木を植えるくらい問題ない。

 むしろアリア自身も草木の生い茂るエルフの里で暮らしていたので、庭に緑を足すこと自体は大歓迎だ。


 問題はどうやって木々を用意するかだ。

 木を植えるというのはなかなかに骨の折れる作業なのだ。


「それなら問題ありません〜、私は木を生やすことができますので〜」

「え? フェリちゃんそんなことできるのですか!?」

「フェリはただのドライアドじゃなくて〝ハイドライアド〟なのよ! 草木を生やすくらいどうってことないわ! ちなみに私もハイピクシーなのよ?」


 フェリの言葉に驚くアリアに、リリがそう言って補足する。


「んにゃ!? ハイドライアドにハイピクシー!? 今はほとんど存在しないはずの希少妖精族にゃ!」


 フェリとリリの言葉に、今度はヴァルカンが驚いた声を上げる。

 彼女の言う通り、二つの種族は今、その姿がほとんど確認されることはない。

 発見されたとしても、通常の妖精族と見た目が変わらないため、判別することも難しいのだ。


(ハイドライアドにハイピクシー、もしそれが本当であれば……)


 アリアの胸の中で、タマは目を細めながら思考を巡らす。

 二人が本当にその存在であるのであれば、これからとんでもないことが起きるかもしれないのだ。


「アリアさんに許可をもらったので早速庭に木を生やすのです〜!」

「わ〜い!」


 庭に木を生やすため、フェリが上機嫌で部屋を飛び出す。

 彼女の頭の上に乗って、リリもついていくのだった。


「アリアちゃん! 急いで追いかけるにゃん! もしかしたらとんでもないことが起こるかもしれないにゃん!」

「え!? どういうことですかヴァルカンさん」

「とにかく、ついてくるにゃん!」


 二人の後を急いで追いかけるヴァルカン、それにタマを抱いたアリアも従い、さらにその後に「なんだか面白そうなのだ!」と言って、ステラがついてくる。



「まずはこの辺にするのです〜!」

「やっぱ、木がないと落ち着かないものね!」


 庭の中心にやってきたフェリとリリ。


 そんな会話を交わしながら、フェリは地面に手を向ける。

 すると地面が青白く光り、小さく隆起する。

 中から小さな芽が出てくる。

 芽はグングンと大きくなり、すぐさま小さな木へと形を変える。


 本体の色はその辺にある木と同じ色だが……どういうことだろうか。

 葉っぱの色は青白く、微量の光を放っているではないか。


「んにゃぁぁぁぁぁッ! やっぱりとんでもないことになってるにゃ! 二人ともストップにゃ!」


 木の大きさがフェリの身長を超えたあたりで、追いついたヴァルカンが制止の声を上げる。

 フェリとリリは「どうしたのかな?」といった表情で作業を中断する。


「青白い光を放つ葉っぱ……やっぱり〝世界樹〟にゃ……!」

「……ッ!?」


 小さな木を見てヴァルカンが言葉を漏らすと、アリアが目を見開き息を飲む。


(あぁ……やはりこうなったか)


 予想通りの結果に、タマも内心呟くのであった。


 世界樹――


それは殆ど伝説と化した希少な植物の呼称だ。

世界樹の生えた周辺の地質は豊かになり、あらゆる植物がよく育つようになるという。


さらに、豊かになった地中では特殊な金属が生成されることも知られている。

具体的に言えば、ミスリルやオリハルコン、アダマンタイト、それに今では採掘されることがなくなった幻の金属、ヴィブラウムでさえも……。


世界樹を育てることができるのはハイドライアドのみ。

それを知っていたヴァルカンとタマは、フェリがハイドライアドであると聞き、この事態を予想したわけである。


「まずいにゃ! 急いで隠さにゃいと! フェリちゃん、世界樹じゃなくて普通の木も生やすことはできるにゃ!?」

「え!? だ、大丈夫ですが〜……」

「それなら急いで外からの視界を遮るように、庭の囲いに沿って木を生やしまくるにゃん!」

「わ、分かりました〜!」


 血相を変えたヴァルカンの指示に、フェリは慌てて木々を生やしまくる。

 そして数分後、庭は大きな木々に囲まれ、外からの視界を一切遮断する環境が出来上がった。


「早朝で良かったにゃん、誰かに見られてたら一大事だったにゃん……」

「なるほど、そういうことですね……」


 冷や汗を腕で拭うヴァルカンにアリアが小さく頷く。


 世界樹は所有者に大きな恩恵をもたらす植物だ。

 巨額の富を得ようと、ありとあらゆる者がそれを欲している。


 そしてそんなものが、ここにあると知られたら――

 世界樹はもちろん、ハイドライアドであるフェリを狙う者も現れるだろう。

 そうならないためにも、ヴァルカンは急いで世界樹を隠すことにしたのだ。


「わ〜い! 世界樹のおかげで地脈が良くなったから、小さいけど〝生命の泉〟もできたわ〜!」

「「「ッ……!?」」」


 アリアたちがほっと息を吐いた次の瞬間だった。

 彼女たちの背後から、そんなリリの声が聞こえてくる。


 振り返ると、そこには青白い光を放つ小さな水溜りができており、その中でリリとフェリ、それにステラが水をかけ合って遊んでいた。


「んにゃ〜!? 世界樹を隠すことに気を取られて油断したにゃ〜!」

「せ、生命の泉って、まさか……!」


 頭を押さえて蒼白になるヴァルカンと、「まさか……」と言って、目を白黒させるアリア。

 タマも彼女の胸の中で「にゃあ……」と鳴き声を漏らす。


 生命の泉――


 こちらも世界樹と同じく伝説に数えられる代物だ。

 泉の水を飲めば、あらゆる傷や難病でさえも癒してしまうという。

 別名〝エリクサー〟とも呼ばれている……。


 そしてその生命の泉が湧くのは、ハイピクシーが暮らす世界樹のある土地だという言い伝えもある。

 その伝承通り、今ここに世界樹で豊かになった地脈を利用し、ハイピクシーであるリリが生命の泉を湧き起こしてしまったのだ。


「すごいのだ! 何だかこの水を浴びていると、とんでもなく元気が出てくるのだ!」


 次々に湧き出る水を浴びながら、ステラがそんなことを言う。

 生命の泉――エリクサーを浴びているのだから当然である。


「まぁ良いにゃ、誰にもバレなければ、冒険者として有効活用する分には問題ないにゃ……」

「そうですね、それにしても世界樹に生命の泉……。最近はとんでもないことばかり起こりますね……」

「にゃあ……」


 きゃっきゃっ、と水遊びをする妖精たちとドラゴン娘を眺めながら、ヴァルカンとアリア、それにタマは疲れた声を漏らすのだった。


いくつかの通販サイトで二巻の予約が始まっているようです。

ぜひよろしくお願いします。


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