74話 英雄たちの帰還
「おい見ろよ、アリアちゃんだ!」
「ああ、それにステラちゃんも一緒だ」
「きゃ〜! タマちゃん可愛いわ!」
「英雄たちの帰還だ……!」
「っていうか、アレって妖精族じゃ……」
ヴァルカンと挨拶を終えたアリアたちは、彼女と一緒にギルドへとやってきた。
一応、迷宮都市側のギルドにも依頼の達成報告をするためにやってきたのだ。
依頼主であるレイスは先の事件のせいで監獄入りとなってしまった後ではあるが……。
それはさておき。
ギルドの門を潜ったアリアたちは冒険者たちの喧騒に包まれた。
誰もがアリアたちに熱い視線を送っている。
「な、なんでしょう、いつにも増して冒険者のみなさんの視線が……」
「ジロジロ見られて我は不快なのだ!」
冒険者たちの視線に、アリアもステラも居心地悪そうにする。
リリとフェリに至っては視線の多さに怯えて、アリアの後ろに隠れてしまう始末だ。
「にゃはは、仕方ないにゃん。アリアちゃんたちはグラッドストーンを救った英雄にゃ! みんな噂は聞いてるからこうなって当然にゃん♪」
せっかく久しぶりに会ったのだからと言って、一緒についてきていたヴァルカンが笑いながら言う。
彼女の言う通り、アリアたちは今や英雄扱いだ。
それも当然だろう。
何せ、先の事件を起こしたレイスと彼が従えるアンデッドの軍勢、それにアンデッドドラゴンを相手にして、一歩も引かずグラッドストーンを救ってみせたのだから。
特に、アリアとタマは率先して都市の人々をアンデッドから守るように戦っていた。
助けられた人々からは多大な感謝を申し伝えられたものだ。
それだけではない。
アリアは希少なマジックアイテムである真実の雫を使い、今回の事件の元凶となったグラッドストーン伯爵の悪事の数々を暴き、断罪させることに成功した。
これが英雄と呼ばずになんと呼ぶのだろうか……というわけだ。
(ふむ、ついこの間までひよっ子冒険者だったご主人が、ここまで称賛されるまでに至るとは……なんとも誇らしいぞ、ご主人!)
称賛の眼差しを向けられ照れるアリアの表情を見て、彼女の豊かな胸に抱かれながら、タマは満足げに頷くのだった。
「あらん? アリアちゃんたちじゃないの! 戻ってきていたのねん♪」
「アナさん!」
とある人物に声をかけられた途端、照れて頬を赤くしていたアリアの表情がパッと明るくなる。
現れたのは……筋骨隆々の肉体にボンデージファッションを着こなした身長百九十センチを超えるスキンヘッドの巨漢――このギルドの受付嬢(?)、アナさんことアーナルド・ホズィルズネッガーさんだ。
面倒見の良い彼女(?)はアリアにとって、この都市における姉のような存在である。
「聞いたわよん! アンデッドドラゴン相手に戦って勝利したっていう話! まさかレイスちゃんが事件を起こすなんて思わなかったけど……ごめんなさいねん……?」
「な、何でアナさんが謝るんですか? 冒険者には常に危険はつきものです、気にしないでください♪」
アリアの活躍に心から喜ぶアーナルド。
しかし、すぐにその表情が曇ってしまう。
今回、アリアにレイスからの依頼を通してしまったことを気に病んでいるのだ。
だがアリアの言う通り、冒険者にはそういった危険が伴うのは常だ。
落ち込むアーナルドに向かって、けろっと笑ってみせる。
「うふっ、そう言ってもらえるとありがたいわん」
明るく振る舞うアリアに、アーナルドもようやく笑顔を見せるのだった。
「あ、そうだわん! 忘れるところだった! アリアちゃんたち、ちょっと待っててもらえるかしらん?」
「大丈夫ですが……どうしたのですか、アナさん?」
リリとフェリの自己紹介など、会話を始めて少し、アーナルドがハッとした様子でアリアに言う。
アリアがどうしたのかと問いかけると、「うふふん……すぐに分かるわん♪」と言って、ギルドの奥へと引っ込んでいってしまった。
「あのアナって人間、見た目は怖いけど優しそうじゃない!」
「です〜、アリアさんとあんなに親しげに話しているし、間違いないです〜!」
アーナルドの姿を見た瞬間、あまりのビジュアルに「ひえっ!?」と小さな悲鳴を上げたリリとフェリであったが、アリアと話す様を見て警戒心を解く。
それどころか、「戻ってきたら筋肉を触らせてもらいましょう!」とか、「私はあの服の構造が気になるのです〜」など、アーナルドの肉体やボンデージファッションに興味津々だ。
無邪気な妖精二人の様子に、アリアは「ふふっ」と小さく笑うのだった。
「アリア、アリア! 何だかすごく良い匂いがするのだ! これは肉が焼ける匂いなのだ!」
リリとフェリがはしゃぐ中、ステラも興奮した様子でアリアの肩を揺らす。
ギルドの酒場、その厨房の方から肉が焼ける香ばしい匂いが漂ってくるのだ。
「本当ですね、まだ朝なのに良い匂いがします。冒険者の誰かが朝から飲むつもりなのでしょうか……?」
「まだ朝ごはんを食べてないのだ、我も肉が食べたいのだ!」
「ふふっ、ステラちゃんったら……そうですね、アナさんの用が済んだら酒場でご飯を食べましょうか?」
「やったなのだ!」
普段はタマを取り合って小競り合いをしているアリアとステラだが、ご飯を食べる時ばかりは子どものようにはしゃぐステラに、アリアは微笑ましい気持ちを抱く。
見た目は完璧なプロポーションをしている二人だが、そのやりとりはまるで姉と小さな妹のようだ。
「アリア! 私も甘いものが食べたいわ!」
「私もです〜!」
「ふふっ、リリちゃんとフェリちゃんは本当に甘いものが好きですね、ここの酒場にはデザートに美味しいパンケーキがありますから楽しみにしててください♪」
「パンケーキ! あのふわふわで甘いお菓子ね!」
「ふあ〜楽しみです〜!」
パンケーキという言葉を聞き、リリとフェリが口元からヨダレを垂らしながら恍惚とした表情を浮かべている。
グラッドストーンで食べたパンケーキの美味しさを思い出したようだ。
「せっかくですし、ヴァルカンさんも朝ごはんご一緒しませんか?」
「そうにゃね、多分朝ごはん食べるだけじゃ済まにゃいと思うけど……」
「え? それってどういう――」
「みんなお待たせ〜ん!」
それってどういう意味ですか? と、アリアが聞こうとしたその時、アーナルドがルンルンとスキップしながら戻ってきた。
何やら手の中に二つの小箱が握られている。
「うふふ、こっちがステラちゃんで、こっちがアリアちゃんのよん♪ 開けてみてちょうだいな」
「……む? これは冒険者タグなのだ! 金に光っているのだ!」
まずはステラが小箱を開ける。
そこには金色に輝く冒険者タグ――Bランク冒険者の証が入っていた。
それ見て、アリアは(まさか……)といった面持ちで小箱を開ける。
するとそこには――
「は、白金の冒険者タグ……わ、わたしがAランク冒険者に……!?」
――Aランク冒険者の証、白金色に輝く冒険者タグが入っていた。
(ふむ、当然であろう。ご主人はレナードの街で魔族ベリルを倒し、そして今回の事件でアンデッドドラゴンを従えたレイスの無力化に成功した。Aランク冒険者として相応しい働きだった)
ここ数ヶ月のアリアの働きは目を見張るものがあった。
そしてそれらは彼女をAランク冒険者足らしめるのに十分なものだ。
タマは改めてアリアを誇りに思うとともに、彼女を称えるようにその頬に自分の頬をスリスリしてやる。
「あんっ♡ タマったら、わたしを祝福してくれるのですね♪」
タマに頬ずりされたことで、ようやくアリアはAランク冒険者になった事実を受け入れることができたのだった。
――ステラもよくやった。EランクからBランクまで一気に昇格することなど滅多にないことだ。過去の自分を相手によくあそこまで戦ったものだ。
――っ!? タ、タマに褒められたのだ! すごく嬉しいのだ!
タマから念話で称賛され、ステラは瞳を潤ませながら喜びを露わにする。
今回、ステラは転生前の自分の死体を利用され、悲しみと怒りの中でタンクとしての役割を全うしてみせた。
その事実はタマの中のステラの評価を大きく変えるに至ったのだ。
「アナさ〜ん! 準備できたわよ〜!」
「了解よん〜! さぁアリアちゃんたち、酒場に移動しましょう? 今日はお祝いよん!」
酒場の方からアーナルドを呼ぶ声がする。
すると、彼女(?)は笑顔でアリアたちに向き直って言う。
それと同時に、厨房の中から丸焼けになった豚の肉や、料理の数々、それに酒樽がこれでもかと運ばれてくる。
「こ、これって……」
「にゃははは! 英雄の帰還とAランク冒険者誕生のお祝いにゃん!」
アリアが圧倒されていると、ヴァルカンが笑いながらそれに応える。
そう、アリアたちがギルドへ着いて少ししてから漂ってきたいい香りは、彼女たちを祝福するためにギルドが用意した料理のものだったのだ。
運ばれてきた酒樽を見て、今日はフリーな冒険者たちが次々と酒瓶を手にする。
「それじゃあ、英雄たちの帰還、それとアリアちゃんのAランク昇格を祝して……乾杯ッッ!」
「「「乾杯ッッッ!」」」
アーナルドの音頭で、冒険者たちがアリアたちを囲むように酒瓶を掲げる。
この日、アリアたちは半日近く冒険者とギルドの職員たちによって祝福されるのだった。




