73話 取り戻した日常
「わっ! あれが迷宮都市なのね!」
「すごく大きいです〜!」
早朝の街道を走る馬車の中から、ハツラツとした声と間延びした声が聞こえてくる。
「ふふっ、二人ともはしゃいじゃって可愛いです♪」
車窓から迷宮都市の規模を見て興奮する二人――ピクシーのリリと、ドライアドのフェリの様子を見て、アリアは微笑みを浮かべる。
レイスと、彼の従えるアンデッドドラゴンとの激闘から数日、アリアたちは迷宮都市へと戻ることにした。
当然、リリとフェリとはお別れになってしまうと思っていたのだが……。
「何言ってるの? 私たちもついていくわよ?」
「です〜! タマちゃんや皆さんともせっかくお友達になれましたし、マジックアイテムの呪縛から救ってもらった恩義もあります。アリアさんたちについていって恩返しがしたいです〜!」
……と言って、リリとフェリも迷宮都市へとついてくることになったのだ。
二人とも、よっぽどタマやアリア、ステラのことが気に入ってしまったようである。
そして、リリとフェリもそれなりの戦闘力を有しているので、冒険者であるアリアたちの活動を手助けしたいとのことだ。
「んにゃ〜(む、もう迷宮都市へ着いたのか)……?」
リリたちのはしゃぐ声で、アリアの豊かな胸の中で眠っていたタマが目を覚ます。
中身が成人した騎士といえども、体はまだまだ幼体のまま。
アリアの母性さえ感じさせる甘い匂いと、胸の柔らかな感触に包まれているうちに、すっかり眠ってしまっていたのだ。
ちなみに、ステラも馬車の心地よい揺れに眠りに誘われ、今もスヤスヤと寝息を立てている。
「ふふっ、起きたのですね、タマ? いい子いい子です……お姉ちゃんのおっぱいに、いっぱい甘えてくだちゃいね〜♡」
「にゃ〜……」
眠たげなタマの頭を愛おしげに撫でながら、アリアが赤ちゃん言葉で彼を慈しむ。
幼い体に心が引っ張られてしまい、誇り高き騎士であるはずのタマは、彼女の柔らかメロンにスリスリと頭を擦り付け甘えてしまうのだった。
「はぁ……寝起きのタマ、可愛いです……♡」
タマに甘えられ、頬をピンクに染めながら吐息を漏らすアリア。
早朝の朝陽に照らされたプラチナの髪が輝いて、彼女の美しさをより引き立てる。
少女のような愛らしさと、慈愛に満ちたその表情が交わった様はなんとも幻想的だ。
「ステラちゃん、起きてください。迷宮都市に着きましたよ」
「んぅ〜、我はまだ寝ていたいのだ……」
タマが完全に目を覚ましたのを見計らい、アリアがステラの肩を揺らし目覚めを促す。
ステラは寝起きが悪い。
転生前は迷宮の奥深くでほとんどの時間を寝て過ごしていた彼女には当然かもしれない。
そんなステラをやっと起こし、アリアたちは迷宮都市へと帰還するのだった。
◆
「んにゃ〜! みんな久しぶりにゃん!」
迷宮都市へと戻ってきたアリアたち。
まずはパーティメンバーであるヴァルカンの店へと顔を出すことにした。
些か早い時間ではあるが、鍛冶職人である彼女は、早朝から起きているので問題なしだ。
「お久しぶりです、ヴァルカンさん♪」
「噂は聞いてるにゃん! アリアちゃんにタマちゃん、それにステラちゃんも、グラッドストーンでは大活躍だったみたいにゃん!」
「あ、グラッドストーンでのこと、こっちまで伝わってきているのですね!」
「もちろんにゃ! ……ところで、その二人は……まさか妖精族にゃん……?」
どうやら、グラッドストーンでのアリアたちの活躍は迷宮都市にも伝わってきていたようだ。
この間まで、ひよっ子冒険者だったアリアの活躍に、ヴァルカンは随分と誇らしげだ。
そんな彼女の視線が、リリとフェリの二人に移る。
ただでさえ珍しい妖精族、それが二人も街中に現れるなんて普通ではありえないことだ。
そのうえ、帰ってきたアリアたちと親しそうにしているとは、いったいどういうことか気になって仕方ないのだ。
「この子たちはグラッドストーン近郊に出現した新たな迷宮の中で出会ったのです。ピクシーの彼女がリリちゃん、ドライアドの彼女がフェリちゃんです♪」
「リリちゃんにフェリちゃんにゃね。私はアリアちゃんの冒険者仲間のヴァルカンにゃん、よろしくお願いするにゃん!」
「リリよ、よろしくねヴァルカン!」
「フェリです〜、よろしくお願いします〜!」
リリは腰に手を当て小さな体で、えっへんと自慢げに、フェリはのんびりした様子でヴァルカンに挨拶するのだった。
「んにゃ〜、それにしても久しぶりにゃん! アリアちゃん、久しぶりにタマちゃんを抱っこしていいにゃん?」
「もちろんです、ヴァルカンさん。……タマ、久しぶりにヴァルカンさんに抱っこしてもらいまちょうね〜?」
「にゃん!」
胸に抱っこしていたタマを、アリアがヴァルカンに手渡す。
ヴァルカンの格好は相変わらず素肌にオーバーオールファッションだ。
小麦色の胸の谷間に、抱かれタマは心地良さに包まれる。
「ず、ずるいのだ! 我はタマを抱っこするのに、抱っこ権を使わなきゃいけないのに!」
いとも簡単にタマをヴァルカンに抱っこさせることを許したアリアに、ステラが憤慨した様子で食ってかかる。
当然だ。
ステラは彼女の言った通り、アリアから与えられた〝抱っこ権〟がないと抱っこすることができないのだから。
「ダメですよステラちゃん、ステラちゃんはタマをオスとして見ています。そんなステラちゃんに、簡単にタマを抱っこさせるわけにはいきません! ヴァルカンさんは、タマをそんな目で見てませんから話は別です」
「ぐぬぬぬぬっ!」
痛いところを突かれたステラは、悔しげに歯ぎしりするのだった。
アリアとステラは気づいていない。
アリアが「ヴァルカンさんは、タマをそんな目で見てません」と言った瞬間、ヴァルカンがギクリ! と言った様子で体をビクつかせたことに――
ちなみ、鈍感なタマは、(む、ヴァルカン嬢よ、どうかしたのか?)と小首をかしげるのみだった……。
「ずるいわ! 私にもタマをモフモフさせなさい!」
「私も! 私もタマちゃんモフモフしたいです〜!」
言い争いをするアリアとステラを尻目に、リリとフェリがタマを胸に抱くヴァルカンに群がる。
二人の愛らしい様子にクラっときたヴァルカンは、フェリにタマを抱っこさせてあげる。
「ふぁ……やっぱりタマちゃん可愛いです〜♡」
「私も私も〜!」
フェリが抱っこしたタマの背中に、リリがガバッと、体全体で抱きつきモフモフし始める。
多種多様な美少女たちに甘やかされながら、タマはようやく日常に戻ってきたのだと、改めて実感するのだった。




