69話 新たなスキルと消える妖精
翌日早朝、迷宮にて――
「これがボス部屋に通じる扉……」
迷宮の中央部で、アリアたちは佇んでいた。
目の前には宙に浮かぶ黒い石板のようなものが……。
端に鍵穴のようなものがあるのでこれが例の扉なのだと分かる。
そして扉自体がマナを秘めているようだ。
青い波紋のようなものが絶えず中央から端に向かって広がっていく。
「さぁアリア、扉に鍵を差し込めばボス部屋への道が開かれるわ!」
「アリアさんたちなら大丈夫かと思いますが、どうかお気をつけてくださいです〜」
ここまで最短ルートでアリアたちを案内してくれたリリとフェリが声をかけてくる。
「ここまでありがとうございます、リリちゃん、フェリちゃん」
「何言ってるのアリア、アリアたちが出てくるまで、私たちはここで待ってるわよ?」
「せっかくみなさんとお友達になれたのですから、これからも一緒にいたいです〜」
「リリちゃん、フェリちゃん……ふふっ、わかりました。それでは早く中のボスを片付けてしまいましょう。では行きますよ、タマ、ステラちゃんっ」
「にゃん(了解だ、ご主人)!」
「雑魚の相手ばかりでウンザリしてたのだ、久しぶりに大暴れしてやるのだ!」
タマもステラもやる気満々といった様子でアリアに返事をする。
それを聞き、頷いたところで、アリアは胸元から昨日手に入れた鍵を取り出す。
目の前の扉の鍵穴と、鍵のサイズはやはりピッタリだった。
鍵を入れてクルリと回すと、ガチャンッという音ともに扉が消え失せた。
そして目の前に今まで存在しなかった光り輝く道が現れたではないか。
「この先にボスが――」
(ふむ、確かに今までの敵からは感じなかった鋭い殺気を感じるな)
アリアが少し身震いしながら言葉を漏らし、タマも心の中で呟く。
この先にいるであろう強敵に、ステラは興奮した様子を見せる。
「ではリリちゃんフェリちゃん、また後で――」
決心した様子で、アリアは二人に言うとタマとステラを従えて奥へと進んでいくのだった。
◆
『グオォォォォォッッ!』
大声量の咆哮が空間に響き渡る。
アリアたちが進んだ道の先、そこは木もなければ草もない、ただ空間のみが広がる不思議な場所に繋がっていた。
そして、その中央には四メートルほどの木の体を持つ二足歩行のドラゴン型モンスターが眠っていた。
アリアたちが近づいてくると瞳を開き、咆哮を上げたのだ。
「さすがドレイク、凄まじい迫力です! ですが怯むわけにはいきません! ステラちゃん!」
「分かっているのだ! ぬん……っ!」
アリアは初めて見るトレントドレイクを前に一瞬たじろぐも、すぐさま気合いを入れ直し、敵をまっすぐ見据えてステラに呼びかける。
ステラもそれに応じて、メガシールドを構えながらトレントドレイクの前に躍り出る。
『グオッッ!』
飛び出してきたステラを見て、トレントドレイクが彼女に標的を定めたようだ。
ステラに向かって、その巨大な鉤爪を振り下ろしてくる。
ガキン――ッッ!
鉤爪とメガシールドがぶつかり合い火花を散らす。
下級とはいえ、さすがドラゴン族モンスターだ。
ステラはドラゴニュート化している。そのうえタマによる《獅子王ノ加護》も付与されているというのに、その体が僅かに後退する。
だがステラもただ攻撃を受けたわけではない。
もう片方の腕でグレートソードを振りかぶると、トレントドレイクの鉤爪に向けて一気に叩き込んだ。
『グォォォォォォ!?』
トレントドレイクが絶叫を上げる。
見れば鉤爪が大きく歪んでいるではないか。
防御態勢から放った一撃ではあったが、トレントドレイクの体は木製だ。
ステラの膂力であれば、会心の一撃足らしめるのには十分なのだ。
「にゃん(今だ)!」
今度はアリアの足元からタマが勢いよく飛び出した。
《獅子王ノ加護》で強化した俊足をもって、痛みで怯むトレントドレイクの側面に回り込む。
「にゃあ(いくぞ、《フレイムハウリング》)ッッ!」
トレントドレイクの脚めがけ、タマが《属性咆哮》が一つ、《フレイムハウリング》を放つ。
火の咆哮はあっという間にトレントドレイクの脚に燃え移る。
トレントドレイクは火を消そうとのたうち回るも、瞬く間に脚が炭化していってしまう。
やっとのことで火を消し終わったその時、炭化した脚がバキッ! と鈍い音を立てた。
炭化した脚で無理に暴れたせいで折れてしまったのだ。
ダンッ――!
その瞬間、今まで隙を見計らっていたアリアが弾丸のように飛び出した。
そのまま一気にトレントドレイクの懐目がけて駆けていく。
このままではヤバイ!
トレントドレイクはそう判断して、アリアに向かって無事な方の鉤爪を振り下ろす。
「にゃん(させるか、《触手召喚》)!」
トレントドレイクが動き出すその刹那、タマは既に行動に移っていた。
《触手召喚》を駆使し、トレントドレイクの腕を絡め取り、軌道をずらすことでアリアを守る。
タマがそうしてくれることを読んでいたアリアは怯むことなく、トレントドレイクの懐へと突っ込んでいく。
そして――
ドス……ッッ!
トレントドレイクの胸元に、ナイフを両方とも刺し込んだ。
『グッ……ォォォォォォォ……!』
トレントドレイクが苦悶の声を上げる。
ドラゴン族は胸元に生命活動に必要な核が存在する。
アリアはそれを貫くために、この瞬間を待っていたのだ。
ステラによる防御、それを囮にしたタマの《属性咆哮》、そして動けなくなった瞬間にトドメ――全てアリアが考えついた作戦だったのだ。
「やりました! タマ、ステラちゃん!」
トレントドレイクの瞳から生命の輝きが失われたのを確認した瞬間、アリアが喜びの声を上げる。
「にゃあっ(よくやったご主人!)」
「これでまた美味いものが食べられるのだ!」
アリアの作戦が上手くいったことでタマは大喜び。
ステラもこの後のご馳走を想像し大はしゃぎだ。
「タマ、トレンドレイクの死体を収納することは可能ですか?」
「にゃあ(もちろんだ、ご主人)!」
アリアの問いに応えて、タマは《収納》スキルを発動し、トレントドレイクの死体を丸ごと空間に収納する。
「こ、これほどの大きさを本当に収納できてしまうなんて……」
タマの《収納》スキルの容量に、アリアは引き攣った笑みを浮かべるのだった。
だが、驚くのはそこまでだ。
トレントドレイクの死体が消え失せたその場に、装飾された箱が現れたからだ。
「トレジャーボックス、それもボス部屋の……一体何が入っているのでしょうか?」
アリアがトレジャーボックスを開ける。
すると中には巻物状になった羊皮紙のようなものが入っていた。
「これは、スクロールですか」
「なんだ、すくろーるとは? 美味いのか?」
「ステラちゃん、スクロールとは使用者にスキルを与えてくれるマジックアイテムのことです。このスクロールだと……ダメですね、古代文字で書かれていてどんなスキルのスクロールか分かりません」
「にゃあ(何!? 古代文字で書かれたスクロールだと! ご主人、それを自分自身に使うのだ)!」
アリアの言葉を聞き、タマは驚いた様子を見せつつも、アリアに身振り手振り(?)でスクロールをアリア自身に使うように伝えようとする。
古代文字で書かれているスクロール名……それ即ち、そのスクロールが〝古代スキル〟を与えてくれるもかもしれないという可能性を秘めているからだ。
スキルにはいくつか種類があり、下級スキル、中級スキル、上級スキル、超級スキル、その上に今は使用者がほぼ存在しないレアスキルである古代スキルと、使用者が世界にただ一人しか存在しない固有スキルがある。
超級スキルから上は、そのほとんどが非常に強大な力を秘めている。
もしこのスクロールが古代スキルを与えてくれるスクロールなのであれば、戦闘力に不安を残すアリアにとって大きな助けとなることだろう。
「タマ、これをわたしに使えと言うのですか? でもステラちゃんも使いたいかもしれませんし、売るという手も……」
「にゃん(売るなどもったいないぞ、ご主人)!」
「ふんっ、新たなスキルなど我には必要ない。それに、我はまだ奥の手を隠しているのだ! アリアは弱いから自分に使うといいのだ」
タマの言わんとしていることを理解したアリアが言うと、タマもステラもアリアが使うべきだと主張する。
それにアリアは――
「分かりました。では、わたしが使わせてもらいます。いきますよ? スクロール発動!」
アリアが言った瞬間、スクロールは粒子となって消える。
するとアリアの体を眩いばかりの光が包み込んだ。
「……ッッ!? こ、これは! まさか古代スキルだったなんて! スキル名は《セイクリッド・ブレイド》、属性――〝神聖属性〟……!?」
「にゃあ(何!? 神聖属性だと!)」
スクロールを使ったことで、自分に備わったスキルの知識がアリアの中に流れ込んできたのだろう。
その知識を驚愕した様子でアリアは呟く。
それを聞き、タマも同じく驚愕する。
神聖属性――それは勇者と呼ばれる、魔王に匹敵する強大な力を秘めた者や、それに準ずる者が扱うことで知られる非常に強力な属性のことだ。
神聖属性はあらゆる属性のモンスターの弱点となることで知られている。それは魔族や魔王にも同じことが言える。
そんな属性スキル……それも古代スキルという強力な種類のものが身に備われば、アリアもタマも驚いて当然だ。
「試しにスキルを使ってみましょう、《セイクリッド・ブレイド》ッ!」
アリアが斜め下に、ナイフを手に腕を振るう。
するとそれに合わせ、ナイフから一条の白銀色の閃光が迸った。
次の瞬間、閃光が地面をバターのように抉り取ったではないか。
スキルを放った後、福音とも思えるような甲高い音がその場に響き渡った……。
「じ、地面を抉りとりました……。それに射程は一メートルくらいでしょうか? とんでもないスキルです……」
スキルの強力さ、それに発動スピードに、アリアはまたもや驚愕する。
(ふむ、実に強力なスキルだ。これであればご主人の弱点であった射程と火力を十分に補うことができるであろう。それに発動時だけ射程が伸びるということは、ご主人のトリッキーな動きを阻害せずに済む。優秀なだけでなく、ご主人自身とも相性の良いスキルだ)
《セイクリッド・ブレイド》の性能に、タマは満足そうに頷くのだった。
「スキルの練習をしたいところですが、まずはリリちゃんとフェリちゃんに合流しなくちゃですね」
まだまだスキルの性能を試したいところではあるが、外でリリとフェリが待っているので、アリアは早めにボス部屋を出ることにする。
◆
「あれ? リリちゃん、フェリちゃん?」
ボス部屋を出てすぐに、アリアは不思議そうな声を漏らす。
外で待っているはずのリリとフェリの姿が見当たらないからだ。
「リリ! フェリ! どこなのだ!」
早くグラッドストーンに戻ってご馳走にありつきたいステラは、大声で二人の名を呼ぶ。
だが、二人とも姿を現さなければ返事が返ってくることもない。
「もしかして何かあったのでしょうか? タマ、ステラちゃん、二人を探しましょう!」
「にゃん(了解だ、ご主人)!」
「まったく世話が焼けるのだ!」
三人はリリとフェリを探して駆け出す。
……だが、この後数時間探しても二人が見つからなかった。
アリアは迷宮の中で「リーン……」という、鈴の音のようなものを聞いた気がしたが、二人を探すのに夢中になっていた彼女がそれを気にすることはなかった……。




