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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第二章

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53話 殺戮衝動

 迷宮一層目――


「グハハハ! 武器を使っての戦闘、楽しみなのだ!!」


 仄暗い空間の中、ステラが機嫌良さそうに高笑いする。


 左手には黒曜鉄製の盾――メガシールド。そして右手にはメガシールドと同じ黒銀色の大剣が握られている。


 そう、ステラの選んだ武器は大剣であった。

 種類はバスターソードを上回る大きさを誇る〝グレートソード〟だ。


 長さは身の丈ほどもあるうえに、剣身も幅があり分厚い。

 斬るというよりも叩き潰すという使い方に特化した武器と言えよう。


 そして、そんな重量防具と重量武器をドラゴン化してもいないのに涼しい顔で持ち運ぶステラ。

 いったいどれほどの力をその体に秘めているのだろうか……。


 それはさておき。


 一行はステラが装備を選び終わると早速迷宮へと訪れた。


 アリアは迷宮で拾われたばかりのステラの体を気づかい、「今日は装備を揃えるだけにして、冒険者活動は何日か経ってから開始しましょう」と、提案したのだが……。


「そんな……! せっかく装備を整えたというのに、戦闘がお預けなんてあんまりなのだ! 我は早く武器を使って戦いたいのだ!!」


 ……と、当のステラは駄々をこねた。本人がそう言うのであればアリアとヴァルカンとしても止める理由はない。

 ならば今日のうちからステラに武器を使った戦闘に慣れてもらい、彼女の力量を測ってしまおうと決めたのだ。

 なので、今日のところはクエストなどを受けずに迷宮へと来ている。


 ……そもそも、アリア自身も未だ戦いの勘を取り戻せずにいるのだから、それは当然である。


「タマ、まずはステラちゃんの力のほどを見させてもらいます。なので、この間のバフスキルはまだ使わないでください」

「にゃん(了解だ、ご主人)!」


 ステラの能力を見極めるために、あえてアリアはタマに、《獅子王ノ加護》を与えるなと指示を出し、タマも同意の鳴き声をあげる。

 が……それと同時に、「もし危ない場面があれば、ステラちゃんを守ってあげてくださいね?」と小さくお願いする。


(かつての強敵も今は保護対象か……。人生どう転ぶか分からないものだ)


 などと心の中で思いながら、「任せておけ!」といった感じでコクコクと頷いてみせる。


「おぉ! タマに守ってもらえるとは……! 心強いし、感激なのだ!」


 今まで守ってもらうといった経験がなかったステラ、そんな彼女が生まれて初めて惚れたオス……タマに守ってもらえると聞けば、そんな反応は当然かもしれない。


「それじゃあ、まずは手頃な敵を探すにゃん!」


 ヴァルカンのかけ声で、一行は迷宮の中を歩き始める。





『グギャッ!』


 迷宮を探索すること数分後――


 ヴァルカンを先頭に歩みを進める一行の前に、耳障りな鳴き声とともに異形が現れた。迷宮一層目のお約束モンスターゴブリンだ。


 体格に数、そして装備もアリアたちに劣るというのに、短剣片手に『グギャアアア!』と雄叫びをあげながら襲いかかってくる。


 自分の餌となりそうなタマ。そして苗床となりそうなアリアたち美少女三人を目の当たりにし、欲を抑えきれない様子だ。


 ゴブリンは馬鹿だ。自分の欲求が疼くと、相手の力量や数の差などを見て、自分が不利だと判断することができないのだ。


「グハハハハ! 小鬼の分際で我に牙を剥くか、面白い! 我の剣の錆となるがいい!!」


 心底おかしいといった様子で、ステラが笑い声をあげる。その顔には野生的かつ、獰猛さを感じさせる凄みのある表情が浮かんでいる。


 その表情を見て、今までステラを幼い子どものような目で見ていたアリアとヴァルカンは背筋に寒いものが走る感覚を覚える。

 逆に、タマは「あぁ、やはりコイツは、あのアースドラゴンだ……」と得心するのだった。


「いくのだ!!」


 向かいくるゴブリンに、ステラは短く裂帛の声を上げると、彼女の肩から指先、そして臀部が淡い光に包まれる。

 ヴァルカンの店で見せたように体の一部をドラゴン化するようだ。どうやら、下級モンスターであるゴブリン相手でも手加減するつもりはないらしい。


 ビュンッ!!


 ドラゴン化した右腕でグレートソードを振り上げる。


 なんという速度だろうか。

 素の状態でも涼しい顔で持ち運んでいたが、今のはまるで枝でも持ち上げるかのような軽やかさであった。


 そして――


 ズドンッ!!


 轟音が響き渡る。

 言わずもがな、ステラがグレートソードを振り下ろした音だ。


 急接近するゴブリン。

 彼はステラの腹に向かって短剣を振りかざした。

 だがその直後、それを上回る速度でステラはグレートソードを振り下ろしたのだ。


 その場を動かず、ただ剣を振り上げそれを振り下ろす。

 それだけの動作でステラは勝利を収めた。


「グハハハァ! 剣を使うの楽しいのだ!!」


 頭から叩き潰され血や色々なものを飛び散らせ亡骸となったゴブリンを見下し、ステラが再び高笑いする。

 返り血がその綺麗な肌にベットリとついたというのに、お構いなしといった感じだ。

 そんなステラの様子に……。


「んにゃ、強いんにゃけど……」

「ステラちゃん、性格に難があるかもしれませんね。殺しを楽しむなんて……」


 と、ヴァルカンとアリアは若干引いた様子を見せるのだった。


 ヴァルカンはあくまでも自分の店の商品を鍛えるのに使う素材集めをするために冒険者をしている。

 アリアは幼い頃に命を救ってくれた剣聖――〝アリーシャ〟に憧れ、彼女のような〝心優しき武人〟になるための修業としてだ。


 二人とも、決して殺しそのものを楽しんでいるわけではない。そんな二人からすれば、ステラの興奮は理解できるものではないのだ。


(この殺戮衝動……。悪い方向に働かなければいいのだが、もし万一のことがあれば我が輩が……)


 モンスターだったがゆえに本能的に殺しを楽しむステラの姿を見て、タマはそれが当然であることを理解しつつも、いつかそれが原因でパーティに悪い影響を及ぼすのではないかと懸念する。


 そしてそれが愛すべき主人であるアリアと、その相棒であるヴァルカンに危害を及ぼすものであればその時は……。

 無論、そうならないためのサポートや努力をするつもりだ。タマ自身、ステラがかつては敵だったとはいえ、今は仲間……とまではいかないものの保護対象であるという認識するくらいには彼女のことを思い始めているのだから。


「ぬぅ……」

「どうしたんですか、ステラちゃん?」

「剣を使うのは楽しいのだが、敵がこんなに弱いと盾を使うタイミングが訪れないのだ。だからもっと奥の階層に行って中型のモンスターを相手にしたいのだ!」


 タマの考えをよそに、不満そうな顔で唸り声を漏らすステラ。どうしたのかとアリアが声をかけると、そんな答えが返ってきた。


「ん〜……たしかにステラちゃんの力があれば、先の階層に進んでも大丈夫そうですね」

「にゃあ、ちょっとスパルタかもにゃけど、ステラちゃんの実力がどこまで通じるか確認するのもありかもしれないにゃん」


 ステラの性格はともかく、強さと儲けを求めるアリアとヴァルカンにとって彼女が戦力になってくれることはありがたい。

 ステラの強さをスパルタ方式で測ることによって、今後のパーティとしての戦闘スタイルを確立させてしまおうというわけだ。


「では決まりですね。ステラちゃん、あなたの力がすごいことはわかりましたが、武器を使った戦闘は初めて……もしくは覚えていないようですし、無理は禁物ですよ?」

「グハハハハ! 大丈夫なのだ! タマやそなたほどではないが、我も強者の一角、そこらのモンスター風情に遅れはとらないのだ!!」


 気遣うアリアに、ステラはそんな心配は不要とばかりに大声で笑う。彼女の頭の中には早く武具を使って大暴れしたいという欲求しかないようだ。


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