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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第二章

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54話 ドラゴン娘の涙

「グハハハハァッ! どうだタマ。我の盾捌きは!!」


 迷宮二層目終盤――


 ステラが興奮した声を上げると同時に、オークが『ブギャァァァァ〜!?』と絶叫しながら奥へと吹き飛んでいく。


 ステラは盾を使いこなして……否、ある意味使いこなしていたと言った方が正解だろうか。


 ステラの戦闘スタイルはやはり豪快だ。オークを見つけるとまずは突撃、グレートソードによる振り下ろしで一刀のもとに敵の頭をカチ割った。


 ――続いて、オークが二体現れると、「ようやく盾の出番なのだ!!」と、目を爛々とさせるとまたもや突撃。

 オークのうち一体に、盾による強烈なチャージアタックを見舞い吹き飛ばした。残った一体は仲間が吹き飛ばされたことにキョトンとした顔を浮かべる。


 ステラはその隙にグレートソードを振るい、今度はオークの顔面を強打。


 ドパンッ!!


 威力のあまり、オークの顔が首ごと吹き飛んだ。なくなった首元から鮮血がドバッと迸ると、ステラは壮絶な笑みで浮かべて疾走する。

 向かう先は、ステラのチャージアタックにより壁へと叩きつけられたオークだ。どうやら頭を強打してしまったようで、虚ろな表情を浮かべ立てずにいる。


「ふんっ、敵を前に戦意を保てんとは……。だからお前たちは雑魚なのだ」


 そんなセリフを吐き捨て、グレートソードを振り抜いたステラ。オークの頭が原型を残さなかったのは言うまでもないだろう。


 ……こんな戦闘が幾度か繰り返され、現在に至るというわけである。ただの一度も防御の手段として盾を使っていないことに、タマは若干呆れ顔。

 アリアとヴァルカンは好戦的過ぎるステラの性格、そしてその豪快過ぎる戦闘スタイルにまたもや引き気味だ。


「ドラゴニュートとはいえ、まさかステラちゃんがここまで強いなんて驚きです」

「んにゃ、わたしも虎耳族の端くれ。力に自信はあったけど、さすがにアレとは張り合えないにゃん」


 瞬足に重きを置く戦闘スタイルのアリアはもちろん、虎の血を引く剛力のヴァルカンですらもステラの怪力には降参だ。


 だが、そこまで言ったところでアリアとヴァルカンの顔に不敵な笑みが浮かぶ。迷宮三層目――そこに潜むとあるモンスター(・・・・・・・・)の姿を思い浮かべながら……。





 迷宮三層目――


 うにょうにょぐにょり……!


 二層目よりも更に肌寒さが増した空間で、ひとつの異形がそんな擬音が聞こえてきそうな動きを見せる。


「うぅ……っ、なんなのだアレはっ? 我の体の中を言いようのない感覚が走り抜けるのだ……!」


 うげっ! といった様子でステラは顔を顰め、ブルリっと身震いをする。迷宮の、割と奥の層で生まれ、転生した際にタマと追走劇を繰り広げた時も別のルートを通って下層へと来た彼女にとって、ここと次の階層にしか出現しないこのモンスターは初めて見ることとなる。


 その名もローパー。かつてアリアも苦戦を強いられた末に、彼女の派生スキル、《疾風連斬》を目覚めさせるに至ったモンスターだ。


 その体から伸び、ウネウネと動きまわる複数の触手は、相手の動きを捕らえるだけでは飽き足らず、捕らえた対象がメスであれば、その者の衣服の中に触手を滑り込ませ、凌辱し孕ませてしまうのである。


 そんな女の天敵ローパーの存在に、元モンスターであったステラは本能的にその危険さを肌で感じ取ったようだ。


『ええい! 気持ち悪いモンスターめっ! 先手必勝なのだ!!』


 ダンッ!!


 言いながら、ステラは勢いよく地面を蹴り、飛び出した。


 どうやら触手に捕まる前に本体を叩いてしまおうといった考えらしい。


 だが――


 ビュンッ!


 ウネウネと動いていた触手はそんな風切り音とともに、駆けるステラに向かって牙を剥く。


「なにッ!?」


 ステラの顔が驚愕に見開かれる。


 見た目に対し、ローパーの触手は意外に俊敏だ。

 そのうえ、その触手はある程度伸縮する。


 速さ・射程ともに自分を上回ることはないと判断したステラにとっては、まさに驚愕だったであろう。


「このぉぉぉッ!!」


 ゴウッ!!


 迫りくる触手に対し、ステラは大振りにグレートソードを薙ぐ。

 広範囲攻撃で触手を一掃するつもりのようだ。


 グレートソードの斬れ味はいいとは言えない。

 だが、触手を絡め取ることはできた。

 ステラの狙いは成功だ。


 ここまでは(・・・・・)だが……。


『ピギィィィ!!』


 触手を絡め取ったら後は本体に攻撃するのみ!

 そう判断し、勢いよく急接近してくるステラを見て、ローパーが鳴き声をあげる。


 それと同時に、ローパーの両脇から——


 ウネウネ……と、触手が頭を出した。

 そう、ローパーはまだ触手を隠し持っていたのだ。

 急接近するステラの傍を通り過ぎ、二本の触手が彼女に襲いかかる。


「ウガァァァァ——!!」


 ステラが咆哮した。

 そして何を思ったか、グレートソードとメガシールドを投げ捨て、両腕を振り回し始めたではないか。


「ステラちゃん、いったい何を!?」

「まずいニャン! 恐怖で我を失ってるニャン!」


 ステラの行動に、アリアとヴァルカンが声をあげる。

 仲間を孕ませられてはたまったものではない。

 ステラを助けるために二人は駆け出した。


 そんな中、タマは……


(ステラめ、窮地に陥ったせいで、前世の記憶が呼び戻されたか!)


 ステラの動きを見て、そんなことを思っていた。


 ステラの腕の振り回し方——


 それは彼女がドラゴンであった頃、対峙したタマに向かって攻撃を放つ動作と酷似していた。

 つまり、初めて相対するローパーに恐怖を感じ、巨体であった前世と同じ感覚で体を振るおうとしてしまっているのだ。


(このままではマズい。ステラはドラゴニュート状態だ。助けに入ったご主人たちに攻撃が当たりでもしたらタダでは済まん! 仕方あるまい……!)


 冷静沈着な騎士の思考で、タマはそう判断を下すと——


「にゃんっ!!」


 可愛らしい声で小さく咆哮する。


 すると、彼の足元から……ウネウネぐにょり……!

 なんと彼の毛並みと同じ、茶トラ模様の触手が複数伸びてきた。


 タマはとあるスキルを発動した。

 それはかつてローパーを喰らうことで得た、《触手召喚》のスキルだ。


 シュバッ!


 茶トラの触手がそれぞれ超高速で飛び出した。


 ステラに向かって伸びる触手、それにグレートソードから解放された触手に絡みついて動きを奪う。


 残った触手をアリアとヴァルカンに絡みつかせ、二人の体に負担がかからぬよう、優しく後方へと引き寄せる。

 突然伸びてきた新たな触手に、アリアとヴァルカンは驚き目を見開くも、それがタマの足元から伸びていることに気づくと彼のスキルだと察して、大人しく従う。


「にゃん(《ウォーターハウリング》)!」


 ローパーの触手を全て封じ、安全を確保したところで、タマが再び咆哮する。

 固有スキル、《属性咆哮》がひとつ《ウォーターハウリング》を発動したのだ。


 高圧縮された水の息吹が……轟ッ!! と唸りを上げローパーへと襲いかかると——


 ドパンッ!!


 見事にその心臓部を貫いた。


『ピギィ……ッ』


 そんな弱々しい声とともにローパーは崩れ落ちた。


 ——おい、ステラ落ち着け。

 ——……ッ!? た、タマか! ぬ? 触手の敵が倒れている。何がどうなったのだ?


 未だ両腕を一心不乱に振るうステラに、タマが念話を送るとそんな返答が返ってきた。やはり、我を忘れて暴走してしまっていたようだ。


 ——ローパーなら我が輩が片付けた。どうした? 下級モンスター相手に我を忘れるなどドラゴンのすることではないぞ。

 ——う……すまん、どうやら我は未知の敵に恐怖してしまうようになったようだ。どうにもお前との戦いが効いているらしい……。

 ——……ッ。


 タマの質問に弱々しく答えるステラ。それを聞き、タマは言葉に詰まってしまう。彼女が今回暴走した理由——

 それはひと月前、タマという未知の強敵を相手にし斬殺されてしまったことによる恐怖心から来るものであったのだ。


 ——……臆するな。お前を殺した我が輩が言うことではないが、お前のことは我が輩が守ってやる。だから今お前ができる戦いをしろ。

 ——ッ!! ああ……。タマ、愛するお前からそんな言葉を聞けるとは我は嬉しいぞ……! わかった、もう恐怖など捨てる、思う存分戦うぞ!!


 男として、心に傷を負わせてしまった事実にタマは目を背けることはできなかった。だからこそ決めた。


 男の責任として、これからステラのことを命を懸けて守ってやることを——


 タマのそんな決意に、ステラは静かに涙を零し、満面の笑みで応えるのだった。


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