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153話 魔族の海賊船

 船に揺られること五日間――

 一行は中継点であるリラン王国へとたどり着こうとしていた……のだが――


「おい、あれは!」


「ああ、救難信号だ!」


 空を見上げ、船員たちが騒ぎ出す。


 何の騒ぎかと甲板に上がるアリアたち。

 遠くを見れば、赤色の煙が上がっているのが確認できる。


 救難信号――どこかの船が、何かしらの危機に陥っているという証だ。


「あれは……海賊船だ! 船が海賊に襲われているぞ!」


 望遠鏡を手に、船員が叫ぶ。

 どうやら、救難信号は海賊に襲われた船が出したものらしい。


「船長どうしますか!?」


「ぐ……ッ」


 船員たちに指示を請われ、この船の船長が苦しげな声を漏らす。


 海賊に襲われた船を助けたいのは山々だ。

 しかし、この船は客船だ。助けに向かえば乗客たちを危険に晒すことになるし、そもそも海賊たちがどれほどの戦闘力を有しているのかもわからない。


「船長、わたしが助けに向かいます」


「ア、アリア様! よろしいのですか!?」


 英雄であるアリアたちがこの船に乗っているのを、もちろん船長は把握済みだ。

 そんなアリアからの申し出があれば百人力である。


「海賊船に近づき、安全な距離を保ち続けてください。わたしとこの子で片付けます」


 言いながら、胸の中に収まるタマを指差すアリア。


「は……?」


 間抜けな声を漏らす船長。

 彼は船員たちとアリアを組ませ、戦ってもらうつもりだったのだから当然だ。


「早くアリアちゃんに従うにゃん!」


「わ、わかった! 皆、オールを出せ!」


 ヴァルカンの鋭い声に、慌てて応える船長。


 船員たちが船の内部からオールを出し、勢いよく漕ぎ出す。


 船はグングンとスピードを上げる。

 やがて豪華な客船と、その隣に張り付くように浮かぶ髑髏の旗を掲げた海賊船が見えてきた。


 客船との距離が十メートルほどに迫った頃合いで、タマが叫ぶ。


「にゃん(《獅子王ノ加護》)!」


 《獅子王ノ加護》を発動したその瞬間、タマとアリアが金色のオーラに包まれる。


「行きますよ、タマ!」


「にゃあ(了解だ、ご主人)!」


 そんなやり取りを交わすと、二人は甲板から勢いよく飛び出した。


 ダンッ! という音ともに、一瞬のうちに豪華客船に着陸するタマとアリア。


「な……何だ、お前はぁッ!?」


 突如空から降りてきた猫とエルフに、叫び声を上げる女が一人。

 つばを巻き上げた三角帽子をかぶっているのを見るに、海賊船の船長のようだ。

 そして、その肌は赤銅色であり、髪は緑色……魔族だ。


 縛られた人々と、酒を飲む粗暴な魔族の男たちの姿、それにいくつかの死体が確認できる。

 状況を見るに、客船側は海賊たちに抵抗したが、それも虚しく敗れ、乗客や船員たちが拘束されてしまった……といったところだろうか。


「にゃん(《シルフィーネビット》)ッッ!」


 先手必勝。


 海賊たちが呆気にとられているうちに、タマが風の《属性操作砲》を操り圧縮された大気の砲弾を全方位に射出する。

 船員や乗客に当たらぬよう、細心の注意を払った攻撃が魔族たちの腹や頭に直撃し、戦闘不能にする。


「クソがァァァァァァァ――ッ!」


 魔族の女船長が叫び声を上げ、カトラスを振り上げる。


 彼女だけはタマの攻撃をギリギリで回避していた。

 恐らく見切ったのではなく、勘で回避に成功したというところだろう。


 女魔族が武器を構えたのを見て、アリアが飛び出す。


「《ダイダルウェーブスラッシュ》――!」


 女魔族が叫ぶ。

 するとカトラスに青い輝きを放つ水が渦のように纏わりつく。

 そしてそのままアリアに向かって振り下ろす。


「《スターライトブレイド》――ッ!」


 敵の攻撃に対し、こちらも斬撃を放つアリア。

 女魔族の斬撃は凄まじい威力だったが、纏わりついた水ごとカトラスを切り裂いて見せる。


「ば、馬鹿な……アタイの上級スキルを!?」


 驚愕の声を漏らす女魔族。

 彼女の一瞬の隙を突き、その腹にタマが《ノームエッジ》を叩き込む。


「か……はッッ!?」


 とんでもない威力に、女船長は肺の中の空気を漏らすと、その場に崩れ落ちた。


 この船の全ての敵が片付いたのを確認すると、タマとアリアは海賊船に飛び移り、そちらの敵も全て戦闘不能に陥らせるのであった。


「ふぅ……終わりましたね、タマ」


「にゃ〜ん!」


 豪華客船の甲板へと戻りながら、そんなやり取りを交わすアリアとタマ。


 ポカンとした表情を浮かべる拘束された人々に向かって「もう大丈夫です、安心してください」と言い、縄を解き始める。


「た、助かった……のか?」


「よ、よかった……!」


 状況を理解できず疑問の声を漏らす者、歓喜の声を上げる者など様々だ。


「ありがとうございます、おかげで助かりました!」


 そんな声とともに、アリアとタマの元に一人の男が駆け寄ってくる。

 格好を見るに、この船の船長だろう。


 アリアは短くやり取りを交わすと、自分たちの船とともに、リラン公国の港に向かうことにする。


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― 新着の感想 ―
これ魔族の女船長さんは生捕りにされたんでしょうか?
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