154話 機関車
夜、リラン公国の港町、その宿屋にて――
「ふぅ……大変な一日でしたね」
「にゃ〜ん」
ベッドの上でタマの頭を撫でるアリア。
そんな彼女に伸びをしながら可愛い声で応えるタマ。
魔族の海賊船に襲われていた客船を助けたアリアたち一行は、港町に着くや否や、地元の騎士団による事情聴取に付き合い、その後は助けた船の乗組員や乗客たちから感謝の意味を込めた酒盛りに付き合わされてしまったのだ。
リリとフェリは疲れで既に寝ており、ヴァルカンとセドリック、そしてアーナルドは、まだ地元民たちと外で酒盛りをしているようだ。
「さぁ、わたしたちも寝ましょうね、タマ」
「にゃあ〜」
タマを胸に抱きしめると、横になるアリア。
眠そうな表情を浮かべながら、タマも大人しく抱かれそのまま眠りにつく……。
◆
一週間後――
アリアたちは霧の立ち込める海域にいた。
「うわ〜!」
「景色が真っ白です〜!」
霧の浮かぶ甲板の上で、リリとフェリが興奮した声を漏らす。
鬼人族の島国、リュウドウはその周囲を霧が覆っていることで有名だ。
その証拠に、この船の船員たちは周りの景色が確認できないというのに、慌てた様子は見られない。リュウドウへの船旅に慣れている証拠である。
霧の中を進むことしばらく――
やがて霧は薄くなり、燦々と太陽の光が差し込んできた。
そして前方に、港のようなものが小さく見えてくる。
「長い船旅お疲れ様でした。あれがリュウドウの港町、〝ガンリュウ〟です!」
船員が朗らかな笑みを浮かべ、アリアたちに言う。
「なんだか不思議な建物が多いですね」
船の上から、港町ガンリュウを眺めるアリア。
その視線の先には、リューインでは見慣れない建物が並んでいる。
「リュウドウは異世界の日本と呼ばれる地域の特色を濃く受け継いでいるからね。見慣れなくて当然だよ」
不思議そうな表情を浮かべるアリアに、そんな風に説明するセドリック。
そんな彼も、何かの思いを馳せるかのように、瓦屋根のついた木造の家々を見つめている。
「む? あれが鬼人族なのだ?」
辺りを見渡していたステラが、首を傾げる。
その視線の先には、頭から二本のツノのようなものが生えた人々が……。
「そのとおりよん、ステラちゃん♪」
「なんだか不思議な服を着ているのだ」
ステラの疑問の声に答えるアーナルド。
だが、ステラの興味は鬼人族のツノから、彼らの着ている服へと移ったようだ。
「あれは〝浴衣〟と呼ばれる彼らの民族衣装だね。もともとは異世界から伝わったものだよ」
興味津々なステラに、今度はセドリックが答える。
港を歩く鬼人族のほとんどは、今セドリックが言ったように、異世界の国、日本から伝わった浴衣を着ており、足には同じく下駄などを履いている。
そんなやり取りを交わしながら、下船するアリアたち。
さっそくこの国の料理に舌鼓……といきたいところだが、まずは目的の王都へと移動を開始することにする。
王都へは馬車を使って四〜五日かかる距離がある。
だが、今回アリアたちが使うのは別の移動手段だ。
爽やかな潮風が流れる、情緒ある街中を歩くことしばらく――
「うわぁ!? 何あれ!」
「モンスターです〜!?」
リリとフェリが素っ頓狂な声を上げる。
その視線の先には、漆黒の巨大な物体が……。
(ふむ、これが噂に聞く〝機関車〟とやらか)
アリアの胸の中で、巨大な物体を見つめるタマ。
そう、機関車だ。
これもまた大昔に地球から伝わり、この国独自の進化を遂げた乗り物である。
「たしか、本来は蒸気と呼ばれるもので動く乗り物を、この国の技術者がマナで動くように改造したんでしたっけ?」
「へぇ……詳しいね、アリアさん」
「これに乗って行けば王都まで二時間半くらいらしいわねん♪ リューインにもあれば便利なのにねぇ」
アリアの質問に、異世界事情に詳しいセドリックと、何となくそれを知っているアーナルドが答える。
アーナルドの言うとおり、他国にもこのような乗り物があれば便利なのだが、残念ながら機関車は鬼人族の持つマナでしか動かないように設計されており、鬼人族自体が外国に出ることをほとんどしない種族なので、他国での運用には至っていないのだ。
「おや? もうすぐ出発の時間みたいだね」
「そうですね、セドリック様。チケットを確保して乗り込みましょう」
機関車へと乗り込む人たちを見て、セドリックとやり取りを交わしながらチケット売り場へと移動を開始するアリア。
チケット売り場のカウンター越しに座っているのは、やはり浴衣を着た鬼人族だ。
「チケットは何人分ご入用でしょうか?」
鬼人族の名とは裏腹に、物腰柔らかく丁寧な口調で訪ねてくる鬼人族の受付嬢。
アリアたちは人数分のチケット代を支払うと、さっそく機関車へと乗り込む。
『――まもなく発車いたしますので、皆さま席にお座りください』
ワクワクした様子で席に座るステラやリリたちを、微笑ましい表情で見つめるアリアの耳に、そんなアナウンスが聞こえてきた。
声の出どころは天井にある水晶のようなもののようだ。恐らく、通信機能のある魔道具の類であろう。
「んにゃ!? 動き出したにゃん!」
ゆっくりと線路の上を走り出した機関車。
ヴァルカンも楽しげな表情で声を上げる。
機関車は甲高い汽笛を鳴らし、スピードをぐんぐんと上げていく――。




