150話 帰還
【転生魔導王】コミカライズ連載スタート!
昨日(8月3日)より、マンガアプリ『マンガUP!』にて「転生魔導王は、底辺職の黒魔術士が、実は最強職だと知っている」のコミカライズの連載がスタートしました!
ぜひよろしくお願いいたします!
その日の夜――
「それでは、勝利を祝して……乾杯!」
「「「乾杯……ッ!」」」
里の中心部で、ミナの音頭で宴が始まる。
魔王ベルフェゴール討滅を祝した宴だ。
「おお! 美味そうな肉がいっぱいなのだ!」
「お菓子もいっぱいよ!」
「どれから食べようか迷うのです〜!」
宴の会場に、これでもかと運び込まれた食べ物の数々を見て、ステラ、リリ、フェリが興奮した声を上げる。
「おじさま、どうぞなの!」
「ああ、ありがとう、マイちゃん」
その横ではニコニコと笑顔を浮かべながら、マイがセドリックに酌をする。
可愛い姪に酒を注がれ、セドリックが笑みを溢す。ここしばらくで、完全に父性に目覚めている。
「んにゃ〜! それにしてもアリアちゃんにタマちゃん、本当に凄かったにゃん!」
「ホントですね、精霊と契約を結べば、ベルフェゴールに対抗できるとは思ってましが、まさか二人で倒してしまうなんて……」
酒を飲みながら、ヴァルカンとシエルが、アリアとタマに称賛の言葉を送る。
「ふふふっ……褒められてしまいましたね、タマ♪」
「にゃ〜ん!」
嬉しそうな表情を浮かべながら、タマの頭を撫でるアリアと、それに元気よく応えるタマ。
(ふむ、魔王ベルフェゴールを倒すことができた。そして雷精霊ボルトも一緒に消滅した。これで一件落着といったところだろう)
そんなことを、アリアの胸の中でタマは思う。
戦いの後、シエルは魔道具アークレイダーを使い、ボルトの反応を探した。しかし、その反応は一切検知されなかった。
最後のアリアとタマの攻撃によって、ベルフェゴールとともに爆散してしまったようだ。
ベルフェゴールがやられたと見るや、生き残ったエレボル族の戦士たちは撤退していった。
雷精霊ボルト、そして聖女だと信じたベルフェゴール……信仰する対象を一気に二つも失ったのだ。
ホロの里の民がどうこうしなくても、いずれエレボル族は信仰するものを失ったことで衰退していくであろう。
自分たちの世界からきた魔王が原因で、他の世界の部族が一つ消えるかもしれない……。
その事実に、アリアたちが思うところはあるものの、ホロの民の族長であるミナは、どうか気にしないでほしいと、アリアたちに言ってくれた。
たとえ魔王が現れなくても、いずれ雷精霊ボルトの封印は解かれ、これ以上の被害が出ることは間違いなかった。それを未然に防ぐことができた。その事実に、深い感謝の念を抱いているとも……。
族長がそう言ってくれたのだ。
ならば、今は勝利の余韻を噛み締めることにしよう。
里全体を巻き込んだ宴は、夜遅くまで続くのであった……。
◆
翌朝――
「それでは、帰るとしましょう」
皆を見渡すシエル。
身支度を整え、アリアたちは里の中の遺跡にあるサモンゲートの前までやってきた。
サモンゲートを使えば、体に負荷をかけることなく、元の世界に帰れるとのことだ。
「シエル様、皆様、本当にありがとうございました。なんとお礼を言えば良いやら……」
アリアたちを見送るために、サモンゲートの前までやってきたミナ。
「ミナ、お礼を言うのはこちらの方です。ともに戦ってくれたこと感謝します」
ミナの手に肩を置きながら、優しい言葉をかけるシエル。
アリアたちも大きく頷いて応えてみせる。
「では、また機会があれば会いましょう、ミナ」
「ふふふ……その時は何かまた別の事件が起きるのでしょうね」
シエルの言葉に、そんな風に応えてみせるミナ。
その言葉に苦笑しながら、サモンズゲートの上へと移動するシエル。
それに倣い、アリアたちも移動する。
「では、サモンズゲートを起動します」
そう言って、何やら呪文のようなものを唱えるミナ。
するとサモンズゲートは淡い蒼白い光を発し、その輝きを強くする。
そして――
◆
「ここは……」
瞳を開くアリア。
周りを見渡し、皆がいることを確認する。
「んにゃ! 元の世界に戻ってきたみたいにゃん!」
声を上げるヴァルカン。
周囲は仄暗く、水晶のようなものが咲き乱れている。
元の場所――ベルフェゴールが封印されていた迷宮に戻ってきたようだ。
「おかしいですね……」
皆が元の世界に戻ってきたことを喜ぶ中で、シエルがそんな声を漏らす。
「どうしたのですか、シエル様……?」
「水晶が……ベルフェゴールが封印されていた水晶の破片がどこにもないのです」
アリアの質問に答えるシエル。
彼女の言葉を聞き、皆が「そういえば……」と、そのことを思い出す。
この時代のベルフェゴールは水晶の柱に封印されていた。
そして封印が破られた時、水晶は砕け散った。
その水晶の破片が、綺麗さっぱり消え失せているのだ。
「まぁ、今は考えても仕方ありませんね、せっかく戻ってきたのです。早くこの場を出ましょう」
この件は一旦保留とし、一行は外を目指す。
◆
「ん〜! 元の世界の空気、気持ちいいです!」
迷宮の外へと出たところで、大きく伸びをするアリア。
その横でタマを「んにゅ〜」と気持ちよさそうに伸びをする。
そんな時だった――
「みんな、そろそろお別れの時間なの」
――静かに、マイが言う。
「マイちゃん、もう行くんだね?」
少し寂しそうな表情で、セドリックが問いかける。
そんな彼に、コクリと頷くマイ。
この時代へと転移したベルフェゴールを追って、マイは未来の世界からやってきた。
ベルフェゴールの件が全て片付いたことで、未来に戻ることを決めたようだ。
「うぅ、行ってしまうのか?」
「マイ、一緒に旅ができて楽しかったわ」
「お別れが寂しいのです〜……」
マイと特に仲の良かった、ステラ、リリ、フェリが寂しげに声を漏らす。
そんな二人に、マイは「大丈夫なの! そのうちまた会えるの!」と笑顔を見せる。
「マイ、本当に助かりました。あなたがいなかったら、この世界は今ごろ滅茶苦茶になっていたかもしれません」
「こちらこそ、協力してくれてありがとうなの!」
互いに見つめ合うと、そんな風に言いながら、シエルとマイが握手を交わす。
(思えば、この二人がきっかけで、今回の冒険が始まったのだったな……)
二人が握手を交わす光景を見ながら、タマはそんなことを思う。
そんなタマに近づき「タマちゃんも、元気でね!」と、マイが頭を優しく撫でる。
最後にアリアとヴァルカンとも握手を交わし、いよいよシエルが転移の準備を始める。
錫杖を天に掲げると、彼女の体が光だす。
「それじゃあ、みんな……バイバイなの! それと、おじさま……」
言葉を区切るマイ。
そんな彼女に「どうしたんだい?」と、セドリックが問いかける。
マイは意を決した様子で、こんな言葉を口にする。
「おじさま、大好きなの!」
……と――
そして次の瞬間、マイの姿は眩い光に包まれ、その場から消え去った。
「セドリック様?」
「責任取らないとダメにゃね?」
ニヤニヤしながら、アリアとヴァルカンがそんなことを言う。
そんな彼女たちに、セドリックは苦笑しながら頭を掻く。
そしてこんなことを言う。
「そういえば、近々……舞夜くんと凛ちゃんの間に子どもが生まれるって言ってたっけ……。せっかくだから、僕を名付け親にしてもらおうかな?」
……と――
◆
翌日――
「皆、本当にありがとうございました」
迷宮都市へと帰るアリアたちを、屋敷の前で見送るシエル。
今回の件で、彼女は自分の財産からトンデモナイ額の恩賞をアリアたちに支払おうとした。
しかし、アリアたちはそれを断った。
今回の戦いは正式な冒険者の依頼ではなかったし、依頼しようにも未来の世界からきた少女によって……などと、ギルドに説明できるはずもない。
それに、アリアたちは異世界――アークで、向こうの世界にしかない様々な素材を持って帰ってくることに成功した。それらを考えれば、大儲けなのである。
「アリア、タマちゃん、あなたたちは本当に強くなりました。その強さ故、これからも大きな戦いに巻き込まれることもあるでしょう。……ですが、決して負けないと、私は信じています」
「シエル様……ありがとうございます、勇者であるあなたに、そう言ってもらえると嬉しいです」
「にゃ〜ん(これからもご主人を守ってみせるぞ)!」
シエルの言葉に、アリアとタマは誇らしげに応えるのであった。
「さぁ、みんな……帰りましょう!」
皆に向かって、アリアが言う。
その顔に浮かぶ笑みは、今まで以上に自信を感じさせるものであった。
エルフの少女と猫の騎士。そしてその仲間たちの冒険は、これからも続く――
これにて四章は完結です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
五章の開始はしばらくお待ちください。
引き続きお付き合いいただけると幸いです。