142話 最悪のシナリオ
祭壇のある遺跡から、ミナの屋敷へとアリアたちが帰ってきたところであった――
「ちょうどいいところに帰ってきましたね、情報が入ってきました」
――そう言って、ミナがアリアたちを出迎えた。
情報が入ってきた……。
その言葉を聞き、アリアたちに緊張が走る。
屋敷の中にある会議室へと通されるアリアたち。
他のメンバーたちは既に席に着いていた。
「ミナ、どのような情報が入ってきたのですか?」
さっそく本題へと入るシエル。
するとミナは、手元にあった書状に目を通しながら、説明を始める。
「私の治める領地の端にある村の一つが壊滅したそうです。生き残った者の証言によると、村を襲撃したのはエレボル族だったとのことです」
「エレボル族……確か、雷精霊ボルトを信仰している部族のことでしたよね……?」
シエルが前に言っていたことを思い出しながら、質問するアリア。
ミナは「その通りです……」と、悲痛な表情で答える。
「ミナ、質問なのですが、今回の件とベルフェゴールにどのような関係が?」
ミナのことを気遣いながらも、質問を重ねるシエル。
彼女の質問ももっともだ。
村を壊滅させたのはエレボル族だという。
どうして今回の件がベルフェゴールと繋がるのだろうか。
「シエル様……。エレボル族は、村を襲撃する際に〝禍々しい紫の電気を放つ剣〟を使っていたそうです」
質問に答えるミナ。
その言葉を聞き、アリアたちは「「「……ッ!」」」と、思わず息を漏らす。
禍々しい紫の……その単語を聞いて、皆の脳裏にベルフェゴールの存在が過ぎったからだ。
元の世界で戦った時――ベルフェゴールは、まさしく禍々しい紫のオーラを纏った力を使っていた。
電気を放つ……というところが引っかかるものの、村を襲撃したエレボル族と、ベルフェゴールが何らかの関係を持っている可能性が浮上してきた。
「わかりました。ひとまず村に行ってみましょう。何かわかるかもしれませんし、少し気になることがあります」
そう言って、立ち上がるシエル。
「その通りなの! もしエレボル族がベルフェゴールの力の一部を使っているとしたら、反応を検知できるかもしれないの!」
シエルに続いて、マイも立ち上がる。
彼女のコンパス型の魔道具を使えば、ベルフェゴールの力が使われたかどうか、調べることができるというわけだ。
アリアたちは急いで準備をすると、プテラに乗って件の村へと急行する。
◆
休憩を挟みつつ、プテラを飛ばすことしばらく――
壊滅したとされる村が見えてきた。
薙ぎ倒された木々や、ボロボロになった家々、周囲には血痕が散見される。
いかにエレボル族による襲撃が激しかったのかがわかる。
「これは! 微かにベルフェゴールの反応がするの!」
胸元から取り出したコンパス型の魔道具を見て、マイが興奮した声を上げる。
やはり今回のエレボル族の襲撃と、ベルフェゴールに何かしらの関係性があるようだ。
ベルフェゴールは軍隊を用いた戦闘を得意とする魔王だ。
自分の力を配下に分け与え、強化することもできるのだと、シエルは過去の戦いで記憶している。
そんな中――
「こんなバカなことが……ッ!」
――シエルが掌の中を見て、驚愕の声を漏らす。
その顔はウソみたいに青ざめているではないか。
「シエル様、いったいどうしたのですか……?」
タマを胸に抱きながら、問いかけるアリア。
シエルの掌の中には、機械的な構造をした球状の物体が握られている。
「これは〝アークレーダー〟という名の魔道具です。精霊の反応を検知することができる代物なのですが……」
一旦言葉を止めるシエル。
そのまま皆を見渡すと、徐に言葉を続ける。
「アークレーダーを使ってみたところ……雷精霊、ボルトの反応を検知しました」
――と……。
「ボ、ボルトって……過去の大戦で封印されたっていう、あの精霊ボルトにゃ?」
「その通りです、ヴァルカン……」
まさか……。といった様子で問いかけるヴァルカンに、表情を歪めて答えるシエル。
「エレボル族の襲撃があった現場から、ベルフェゴールとボルトの反応……」
「そして報告では、エレボル族は禍々しい紫の電気を放つ剣を使っていたと……」
情報を口にし、状況を整理するマイとアリア。
(これらの状況を精査すると、導き出される答えは……!)
アリアの胸の中、タマはとある答えを導き出す。
ステラ、それにリリとフェリは「……?」と、状況を理解できていなさそうな表情をしているが、その他の面々が導き出した答えはタマと一緒だった。
その答えとは――
「恐らく、ベルフェゴールは何らかの方法で、雷精霊ボルトを復活させたのでしょう」
「はい、そして自分の力と雷精霊の力を融合させ、エレボル族に分け与えた」
「この村を襲撃したのは、その力がどれくらいのものか試す、テストだった……ってところかな?」
――シエル、アリア、そしてセドリックが、見解を照らし合わせるように、考えを口にする。
マイとヴァルカンも、その考えに静かに頷いた。
ただでさえ強力で厄介なベルフェゴールが、精霊の力、そして配下を手に入れた可能性がある……。
アリアたちの想像を遥かに上回る、最悪のパターンが浮かび上がってきた。
こうしてはいられない……。
この件を族長のミナに報告するために、アリアたちはホロの里へと大急ぎで引き返す。