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119話 大魔導士の愛娘の力の片鱗

「タマ、姿が見えないと思ったら、シエル様と出かけていたのですか……?」


 シエルの胸に抱かれながら宿屋ヘと戻ってきたタマを、じー……っと見つめながら、アリアが問いかける。


「すみません、アリア。道を歩いていたらたまたま姿を見かけたので、散歩に付き合ってもらっていたのです」


 そう言いながら、タマをアリアの胸へと手渡すシエル。

 心なしか、その表情は名残惜しげだ。


「にゃ〜んっ」


 アリアに抱っこされると「ただいま!」とでも言うように、タマが声を上げる。

 そんなタマを、アリアは愛おしげに撫でるのだった。


 ◆


 翌日――


「来なさい、我が異界の友よ……!」


 町の外、街道に出たところで、シエルが懐からアークボールを二つ取り出し、前へと放る。

 するとその中から、五メートル程度の二体のモンスターが現れた。


「これは……蜥蜴、ですか?」


 二体の姿を見て、声を漏らすアリア。

 現れたモンスターは、鎧のようなものを纏った、二足歩行型の爬虫類を思わせる格好をしていたのだ。


 そんな彼女に、シエルが――


「この二体の種族名は〝T―R E X〟といいます。キングと同じく異界でテイムし、右の子は〝ノール〟で左の子は〝フレイア〟と名付けました」


 アリアたちに説明しながら、シエルは二体のモンスター……ノールとフレイアに近づく。


 すると二体はその場に屈み、シエルに向かって頭を差し出す。

 そんな二体の頭を、優しい手つきで撫でるシエル。

 二体は気持ちよさそうに【グルルルル……ッ】と、喉の奥を鳴らしている。


「驚いたにゃん。まさか他にも異界で手懐けたモンスターがいるとは思わなかったにゃん」


「よくわからんが、なかなかに強そうなのだ!」


 ヴァルカンは驚きの声を、ステラは楽しげな声を漏らす。


「まぁ、この子たちの役割は、キングと同じく移動のサポートですけどね」


 と言いながら、シエルはさらに懐からアークボールを取り出す。


 先ほどと同じように街道の上に放ると、中から機械的な構造を思わせる大型の馬車のようなものが現れた。


 それが現れると、二体のT―R E Xは馬車の前に移動する。

 すると馬車の側面から金属の板のようなものが伸び、二体の鎧部分に連結する。


(なるほど、キングの時と同じように、二体にこの乗り物を引かせるというわけか)


 それを理解するタマ。

 やはり、この乗り物は馬車のような役割を果たすようだ。


「さぁ、王都へと向かいましょう」


 シエルのかけ声で、一行は馬車の中へと乗り込む……のだが、やはりセドリックは女性だらけの空間がダメらしく、一人馬車の上へと乗り込むのだった。


 ◆


 街道を行くことしばらく――


【グルルル……ッ!】


 馬車の外から、二体のT―R E Xの唸り声のようなものが聞こえてくる。


 それとともに、馬車の動きが止まる。


「どうやら、モンスターが現れたようですね」


 言いながら席を立ち外へと出るシエル。


 すると、すでにセドリックは街道に立っており、遠くを見据えながら剣を引き抜こうとしていた。


「あ! 待ってなの、セドリックおじさま!」


「……? どうしたんだい、マイちゃん?」


「せっかくの機会だから、みんなにマイの力を見せるの!」


 そう言いなが、マイが錫杖を片手に皆の前へと出る。


(ほう、さっそく彼女の力を見られるとは! 大魔導士と勇者の娘……果たしてどれ程の力を有しているのか)


 瞳を爛々とさせながら、マイの背中を見つめるタマ。

 戦いに生きる者として、英雄の血筋に連なる者の実力は気になるところだ。


 街道の先に現れたのはオークが五体、それに狼型のモンスター、ビッグファングが二体だ。

 マイの姿を見て、モンスターどもが興奮した声を上げて一斉にかけてくる。


 それに対し、マイは「敵の数は七体……それならこれがちょうどいいの!」と言って、錫杖を天高く掲げる。


 そして――


「いっちゃえなの! 闇魔法スキル――《七星ノ闇魔剣(セブンス・ブラック)》……っ!」


 ――と、高らかに叫ぶ。


 すると敵たちの上空に、七つの漆黒の輝きが現れた。


 それらはさらに輝きを放つと、漆黒の美しい剣へと姿を変える。


 そしてそれぞれが、その切先を向けると、目にも止まらぬ速度で一斉に飛び出した。


『ブギャァァァァァッ!?』


『グル……ッ!?』


 漆黒の剣に貫かれ、叫び声や苦しげな声を上げるオークにビッグファング。

 そして数秒の後に、その瞳から生命の光は失われた……。


「セ、《七星ノ闇魔剣》……!?」


「舞夜ちゃんが使っていた闇魔法にゃん!」


 驚愕の声を上げるセドリックとヴァルカン。


 そんな二人に、マイは得意げな表情で笑いながら「えっへん!」と胸を張る。


 闇魔法――《七星ノ闇魔剣》……。


 それはヴァルカンが言っていた通り、大魔導士舞夜が得意とする魔法の一つだった。


 それと同じ魔法を使ったマイ。

 ここまでくれば、もはや彼女が舞夜の血筋に連なる者だと、二人は信じざるを得ない。


「とは言っても、マイの力はお父さまとは少し違うの」


「……? どういうことだい、マイちゃん?」


 不思議そうな表情で問いかけるセドリック。

 そんな彼に対し、マイはこんな説明をする。


「お父さまの力は、自分自身で計算してマナを一から構築して放つ、純粋な魔法技術なの! でも、マイはそれを魔法技術ではなく、魔法スキルとして……この世界のシステムとして受け継いでいるの!」


 それ即ち……大魔導士舞夜は一つの魔法を取っても、その威力を調整したり様々な形に変化させる事ができる。

 それに対し、マイはスキルシステムとして魔法自体を決まった形で継承しているので、本来の闇魔法とは性質が違っているのだという話だ。


「いや、それでも闇魔法……相手の生命力を奪うという属性はそのままのようだ」


「そうにゃ! とんでもない戦力にゃ!」


 セドリックとヴァルカンは興奮した様子だ。


 セドリックにとっては義弟、ヴァルカンにとっては盟友――

 そんな大魔導士舞夜の力を、他の者が媒体もなしに直接使う様を見れば、無理もないかもしれない。


(大魔導士の娘、マイ……。あれだけの力を使っておきながら、消耗した様子が見られない。これは戦いが楽しみだ!)


 マイのポテンシャルを目の当たりにし、タマも内心興奮気味だ。


「すごいですね、さすがは大魔導士様の娘です……!」


「これほどの強者を見ると、我も戦いの血が騒ぐのだ!」


「私たちも負けてられないわね!」


「一生懸命頑張るのです〜!」


 アリアにステラ、それにリリとフェリも、マイの力を見て気持ちを昂らせるのだった――

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