107話 戦力統合会議
「な!? アリアちゃんが帝国勇者団の一員に……!?」
アリアに、どうしてジュリウス皇子と行動していのか尋ねたフィオーネ。そしてアリアから返ってきた答えに、驚愕の声を上げる。
剣聖アリーシャに憧れ、冒険者になることを志して旅った少女が、まさか一国の平和を担う軍団に所属していようと思いも寄らない。
「ふふっ、わたし自身もびっくりしてます……」
目を見開くフィオーネに、アリアは苦笑しながら答える。
「アリアちゃんはAランク冒険者ですからね。それにアンデッドドラゴンと戦い、それを操る術者を倒した実績もあります。帝国勇者団に招かれるのは当然ですよ?」
苦笑するアリアの肩に手を置きながら、アリーシャが語りかける。
そんな光景を見て、フィオーネがさらに目を見開き「な、な……剣聖様ッ!?」と、またもや大きな声を上げる。
アリーシャはルミルスを救った英傑だ。この里の住人であれば、誰もがその顔を知っている。
フィオーネは、アリアとジュリウス皇子の相手に夢中だったので、後ろにアリーシャがいたことに気づかなかったのだ。
「アリアちゃん、どういうことなの!? どうしてここに剣聖様が……それにそんなに親しげに……!」
「フィオーネさん、でしたよね? 帝国からの依頼で、今回の戦いにわたしも加わることになったのです。それとアリアちゃんと仲がいい理由ですが、アリアちゃんはわたしの弟子みたいなものだからです」
「な……!?」
アリアの代わりに、フィオーネの質問にアリーシャが答えると、フィオーネはまたまた驚愕の声を上げ……そのまま絶句してしまう。
アリアが旅立ってからの短い期間に、いったい何が起きたというのだろうか……そんなことを考えているのであろう。
「フィオーネお姉さん、ひとまず里の中に入りましょう。里長に殿下が到着したことをお伝えしなければなりません」
「そ、そうだったわね、アリアちゃん……。皆さま、里長の元まで案内しますので、どうぞこちらへ」
アリアに言われ、ひとまず落ち着きを取り戻したフィオーネが、皆を里の中へと招き入れる。
「うわ〜! 中は緑でいっぱいなのね!」
「やっぱり草木があると落ち着きます〜!」
中に入ったところで、リリとフェリがはしゃいだ声を上げる。
重厚な金属の外壁の内側は、草木が溢れる光景が広がっていた。
建物も木造のものが多く、外壁に覆われた外側の光景を除けば、まさに自然の中で生きるエルフたちの住処……といった印象を与える。
「里長の屋敷は里の中心にあります」
そう言って、フィオーネが歩き出す。
その隣をレオが歩くのだが……リリとフェリが「わ〜い、モフモフ〜!」と騒ぎながら、レオの背中の上に飛び乗る。
レオは「ふんっ、仕方のないチビすけたちだな」とでも言いたげな表情で、二人を黙って乗せてやるのだった。
「数年前よりだいぶ整備されてますが、それでも何だか懐かしいですね……」
里の中を見渡しながら、アリーシャが静かに呟く。
魔族の軍勢からこの里を救った時の記憶を思い出しているようだ。
「ここがアリアちゃんの故郷なのね、素敵なところじゃない♪」
「ふふっ、ありがとうございます。アナさん」
アーナルドに自分の故郷を褒められたのが嬉しかったのであろう。アリアの表情が、自然と笑顔に変わる。
「帝都よりジュリウス殿下とそのお連れの方々が到着されました」
歩くことしばらく、木造の大きな屋敷の扉を叩くフィオーネ。
少しすると、中から使用人と思しき女エルフが出てきた。
そしてそのまま優雅な身のこなしで、皆を中に招き入れる。
「よくぞ来てくださりました。ジュリウス殿下、皆さま……! 私はこの里の長をしております〝エルヴン〟と申します、お見知り置きを」
広い部屋に通されたところで、エルフの男性がそう言って皆を出迎えた。
エルフだけあってかなりの美形だ。だが里長と言うからにはかなりの歳なのだろうが……エルフはその生涯を若いままの見た目で過ごすので当然である。
里長――エルヴンは、ジュリウス皇子と一緒にアリアがいることに目を大きくするが、今はそこに触れるよりも大切なことがあると判断したのだろう。
さっそく皆を部屋の中央にある長大なテーブルに通すと、本題に入る。
リリとフェリ、それに他の冒険者たちは難しい話はちょっと……ということだったので、隣のソファーなどで寛いでもらうこととする。
「さて、エルヴン里長。書状にもあったと思うが、まずはこの里の有する戦闘部隊と戦力の統合を図りたい」
「もちろんです、ジュリウス殿下。数年前の魔族の襲撃があって以降、この里は外壁の建設だけでなく、戦力の強化もしてきました。魔族相手でもそれなりに戦えるようにはなっております」
「ああ、噂は聞いている。たしか既存の戦力強化だけでなく、他の里も吸収し、戦力を拡大したのだったな?」
「その通りです、ジュリウス殿下。特にここ一年で発足された〝アマゾネス部隊〟は非常に強力な上に柔軟性も高く、きっと戦力の統合もうまくいくことでしょう」
ジュリウス皇子とエルヴン里長が会話を交わし、戦力の統合方法、周囲の地形の把握、防衛手段のパターン算出など、どんどん会話が進んでいく。
(ふむ、本当にルミルスは昔よりも戦力を強化しているようだな)
アリアの胸に抱っこされながら、やり取りを見つめてタマは思う。
エルヴン里長の隣には二人の参謀のような男性エルフが立っており、ジュリウス皇子の問いに答えるエルヴン里長の言葉に、必要な情報を適宜補足していく。
拠点を守るためには単純な戦力を強化するだけでは意味がない。それを駆使するための頭脳が必要だということを理解し、過去の襲撃からわずか数年でここまで成長している。
その事実に、タマは純粋に感心してしまうのだった。
(戦いなど、起きないのに越したことはない。だが、この里の有する戦力がどれほどのものか、興味はある)
強くあることを目指す騎士として、他者の戦力がどれほどのものかというのは、どうしても気になってしまう。
そんなタマの、ワクワクした様子に気づいたのだろう。アリアは自分の胸の中にタマをさらに深く抱き込むと、赤子に接するようにその頭を愛おしげに撫でる。
アリアの体の甘い匂い、そして柔らかな感触と優しさに、タマは思わず「ふにゃ〜……」と、愛らしい声を漏らすのだった。