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最強のおもちゃ箱  作者: 鷲野高山
1章 超絶強化のおもちゃ箱
10/10

十話 扇? 奥義?

「何を言っているんですか、この馬鹿魔王」


 冷え冷えとした声。

 突然の快音にビクッと身を震わせた精一郎がそちらを見れば、大きな白い何かを手にしたメイが、そこにはいた。

 それに打たれたと思しきファルハーンはと言えば、頭を抱えて悶絶している。


「ぬおぉっ!? いきなり何をするかぁっ、メイ!」

「それは、こちらの台詞です。やはり、貴方は馬鹿魔王ですね」


 無表情ながらも、リアクションだけは呆れたように肩を竦めるメイ。


「そもそも、何故大魔王の本体たるこの身に、ダメージを与えることができる!? 力は勿論、生半可な武具では我輩に通じないはずだぞっ!?」


 そんな彼女に、悶絶から復帰したファルハーンは勢いよく詰め寄る。

 しかし、メイが無言で手に持った何かを振り上げれば、ファルハーンはギョッとして距離を置いた。


 そんな二者をよそに、精一郎がまじまじと見れば。

 メイの手にあるそれは、精一郎も知っている名称のものだった。

 しかし、だ。


(……何処から取り出して、結局何なんだろう?)


 服の中、というのはないと思うが。

 そんな精一郎の視線に気付いたのか。


「教えるのは構いませんが――その前に、もう解除していいですよ、馬鹿魔王。ただし解除したら、その鬱陶しい大声で喋るのは止めなさい」

「ん、なんだ、もうよいのか? ……しかし、我輩の声はそんなに鬱陶しいかのう」


 彼らの会話は、しかし精一郎にとってはちんぷんかんぷん。分かったのは、ファルハーンの声が鬱陶しいと言われたことと、彼がしょんぼりとしたこと。

 何を解除するのか、そしてその何かを解除したら何故大声で喋ってはいけないのか。

 疑問は尽きないが、メイが口を開いたので、待つ。


「これは――対魔王扇(・・・・)。特別な力を宿し、滅魔の聖剣に勝るとも劣らない力を持つ、選ばれし者にしか扱えぬ伝説の扇です」


 そして、ポカンと口を開けた。決して、感嘆のそれではない。

 言葉としてみれば、それは仰々しいものだ。伝説の剣ならぬ、伝説の扇。聞いたことはないが、そんな扇も実際にあるのかもしれない。その部分だけ、珍しくメイの声が強調するようだったのも、頷ける。

 ――しかし、しかしだ。


「あのさ、メイ……」


 ガラス玉のような瞳が自身を射抜く中、意を決して精一郎は声を上げる。

 こちらを見るメイの視線に、強い光が宿る。グッ、とそれに気圧されてしまう精一郎であったが、しかしそれを認めてはならなかった。

 なぜなら、彼女の持つそれは、明らかに。


「……それ、ハリセンだよね、どうみても」


 扇ではなく、ハリセンだったからだ。

 とはいうものの、張り扇からきているので、扇でもあながち間違いはないのだが。

 しかし、間違いなくハリセン。


「いえ、これは対魔王扇です」


 だが、しれっと、メイ。


「……いや、絶対それハリセ――」

「対魔王扇です」

「ハリ――」

「対魔王扇です」


 精一郎にしては負けじと食いつくが、しかしメイは頑として認めない。


「……分かった。もういいよ、扇で」

「ちなみに、セーイチロウにも使えます」

「僕にも使えるのっ!?」


 あっさりと敗北し、小さい声ながらも認める精一郎。

 だが、続いてのメイの言葉に素っ頓狂な声を上げる。


「もちろんです。使ってみますか? いえ、是非使って確かめてください、さあさあ」


 グイグイと無理矢理精一郎の手にハリセン――もとい、対魔王扇を押し付けるメイ。 

 手に持たされたそれはさほど重くなく、至って普通だった。近くにしても、何の変哲も無い白いハリセンにしか見えない。

 困ってメイの顔を見る精一郎であったが、彼女は無言で、しかしハリセンを叩きつけるようなモーションをしている。振りかぶっては払い、また振りかぶっては払う。……明らかに、ファルハーンの方を向いて。

 精一郎が今度はファルハーンの顔を見やれば――彼は青白い肌を更に青くしてブンブンと首を横に振った。まるで躾を恐れる小犬のよう。

 その様はとてもではないが、人間を脅かす一族の頂点たる大魔王には思えず。また可哀想になった精一郎は、今一度メイを見れば。

 彼女は既に精一郎達を見ていなかった。


「……計画通りです」


 それどころか、部屋の外に繋がる扉を見つめ、ボソリと呟いたのだ。


(……何が?)


 聞きたいようで、しかし聞いてしまってはいけないような。そんなゾッとした気分に襲われる精一郎。

 ふと隣を見れば、ファルハーンも似たような顔で、メイを見ていた。……それでいいのか、大魔王。


「さて、馬鹿魔王のせいですっかり遠くなってしまいましたが、これからセーイチロウにはある事実を伝えなければなりません。これは、セーイチロウの今後を左右する大事なことです」


 そんな両者の視線を受けるメイは、彼らの視線もなんのその。

 無表情のままに流し、つらつらと喋り出す。その口から語られる真実に、精一郎は衝撃を受け、苦悩し、決意することとなるのだが。

 

 ――さて。

 そんな彼らの会話の一部を、聞いてしまっていた者がいた。

 シーラよりその役目を仰せつかった、城勤めの侍女である。

 とはいえ、その役目とは探り、盗み聞きでは断じてない。単純に、賓客たる精一郎達のもてなし、要望伺いなどのそれだ。


 第一王女たるシーラに役目を仰せつかったその足で、精一郎達のいる部屋の前までやってきた彼女。

 その顔には若干の緊張が浮かび、廊下で呼吸を整えている。


 ――決して失礼をしてはならない。元よりそのようなつもりはないが、彼女は改めて自らに言い聞かせた。

 侍女としての経験がそこまで長くはないものの、周囲から優秀という評価を受ける彼女は、これまでにも何度か城の客への応対を任されたことがあった。

 しかし、今回は。シーラ直々に仰せつかったのに加え、彼女の命の恩人たる賓客とのこと。第一王女であるシーラの命の恩人、それ即ちこの国にとっても恩人といっても過言ではない。

 更に、強力な存在を従えているらしい、という情報も侍女仲間である者に聞いた。


 そんな人物に粗相し、不快を与えてしまえば。この身一つの処罰では済まなくなるかもしれない。

 ゆえに、この侍女が緊張するのは仕方なかったと言えよう。


 息を吸っては吐き、吸っては吐く。小さく、繰り返す。

 それにより幾分かの落着きを得た侍女は、最後に一際大きく深呼吸をすると、よし、と頷いた。


 そうして一歩進み、部屋の扉をノックしようと、手を軽く握った、瞬間。

 侍女の手は、扉を叩くことなく宙で止まることとなった。


 扉の先から、微かに声が漏れ聞こえてきたのだ。とはいうものの、それが他愛のない話であれば、侍女とて手を止めることなく、ノックの音は発せられただろう。


「た、い、ま、お、う、お、う、ぎ……?」


 頭の中での変換は、一瞬。

 不思議そうな顔が、驚愕のそれに変わる。


「たいまおうおうぎ――対魔王奥義(・・)っ!?」


 囁くように侍女は呟き、遅れて自身の行動に気づいた彼女はパッと口元を手で覆う。

 次いで、なんとも凄いことを聞いてしまった、と侍女はあたふたと視線を左右に彷徨わせた。幸いにも、この廊下には彼女以外誰の姿もない。


「あの御方は、対魔王の奥義を使える。……即刻、シーラ様にお伝えしなければ」


 確かに、彼女は周りの評価の通り、優秀であった。それは否めないのだが――中途半端に、優秀であったのだ。

 踵を返し、静かに、しかし急いで侍女は己の判断でシーラの元へと戻る。後に残るは、誰の姿もない廊下。

 傍目には意味不明なメイの呟きに精一郎が、そしてなんとなく分かっていながらも大魔王(ファルハーン)が戦慄したのは、その直後であった。

どうも、この作品を読んでいただきありがとうございます。


ストックの都合上、毎日更新はここまでになります。別にもう一本、同時連載の作品があるため、この後は不定期になるかと思います。

よろしくお願いします。

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