5話 酒場の住人
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「ソレは多分、《キラースパイダー》だ…
ちょっと待ってくれ、今、魔物図鑑を開くから」
ワタシが蜘蛛退治をお願いすると、転移者の『お兄さん』はワタシが見た蜘蛛の形状を聞き出し、何やら空中を弄りだした。
出た。転移者の特徴『奇行』…特にこの動きは多いと聞く。この後に、『ログアウト出来ない!!』とか叫びだす事があるらしい。気を付けなければ…
キリエが警戒の色を強めた事に気付かず、シュウは喋りだす。
「キラースパイダー…成人男性程の体格を持つ蜘蛛型の魔物。
世界各地に分布。その変異種も多数確認されており、適応能力も高い。
粘着性のある糸には注意が必要。
弱点属性は炎…危険度D」
キラースパイダー?
それって確か、モンスターの名前だったような…
それよりその魔物学の専門知識を何処で手に入れたのかが気になるんだけど…魔物学って、確か、魔法協会の専門機関で研究が行われている分野の筈だ。それを何故、転移者が知っているのだろう?
それとも、実は凄腕の冒険者なのだろうか?それならば魔物の生態に詳しくても不思議では無いけど…
「…うん、余裕だな。
俺に任せてくれれば問題ない、安心してくれ」
転移者のお兄さんは立ち上がると。
手を差し出して来た。
何のつもりだろう?
「挨拶がまだだったな。
俺の名前は、天城…《シュウ》だ。
メインジョブは《剣士》、サブジョブは《料理人》を入れている」
え、自己紹介? なんで今更…ああ、この人の名前はしらないや…
でも、ジョブ?
なんのことを言っているのかは解らないが、とりあえず、こちらも自己紹介しておこうか…何故かワタシの
名前は知っているようだから今更感はあるのだけど…
「はい、何故か知っている様ですけど…ワタシの名前は《キリエ》…《キリエ・クロスビー》です。
よろしく御願いします」
ワタシが応えた事で、シュウは何やら差し出した手を寂しそうに引っ込めた。
だから、それはなんだったのだ?
まぁ、いいや…
こうしてワタシは、酒場の蜘蛛退治を転移者さんに『お願い』することが出来たのだった。
■
酒場は出て来た時と同じような状態だった。
シュウは何処からとも無く、《ロングソード》を取り出すと片手に構え、酒場へと入って行く。
その光景にキリエは内心驚いた。
いや…うん、その武器、何処から取り出したの?
さっきまで、何も持っていなかった筈なのに…マジ、なんで!?
キリエも興味本位で後ろから続く様にして入る。
転移者は強いと聞いたが、どれほど強いのか見てみたかったからだ。
とはいえ、店の物陰に隠れておくように注意されたので、キリエはそれに従う。
シュウは丁度、部屋の中央に立ち。天井を見上げた。件の蜘蛛が視認出来ないか確認する為だ。
…しかし、残念なことに目視では蜘蛛は確認出来なかった。
仕方が無いので、《マップウィンドウ》を開き、敵のアイコンが出てるかどうか確認する。
マップ上で青く表示されるのが自分。白く表示されるのはNPC。赤く表示されるのがモンスターなどの敵キャラだ。稀に黒いアイコン(ボス、もしくは一定以上の強さを持つ敵)とかがあったりするが今回は関係なく…あれ?
キリエの酒場と名前がつけられたマップ上に、今、アイコンは3つ。
1つは青色の俺のアイコン。
2つ目は、部屋の隅にある白いアイコン…コレはキリエのアイコンだ。
そして3つ目が…何故か、青いアイコンの下にある黒いアイコン……
コレはいったいどういう事でしょうか?
シュウの立つ床が軋みを上げ、その床を突き破って大きな蜘蛛が出て来たのはその瞬間だった。
床の残骸とともに宙を舞うシュウ。
しくじった…視界の隅に表示されたステータスバーを確認する。
HPの値がかなり削られていた…全体の3分の1程削られていたのだ。
おい、たかがキラースパイダーごときになんでこんなにダメージ喰らってんの?
キラースパイダー…レベルの低い初心者が最初にてきずる相手。しかし、最初のうちはキツくとも、レベルが上がるにつれて危険度は低くなる。《Level:70》の俺なら取るに足らない相手の筈だった。
しかし、コレは…
転げながら床に着地し、剣を構え直し、敵を睨む。
大きな衝撃で埃が舞い上がり、まるで煙幕の様になっているのだ、敵の姿を確認する事が出来ない。
しかし、俺には《マップ》がある。煙に隠れられても、ある程度は位置を特定出来る。そして、今は…
俺の後ろ…!!!
咄嗟に転げながら逃げ出す。先程まで俺の居た場所には、少なくとも蜘蛛には似つかわしく無い、大きな鎌んような前足が突き刺さっていた。
おいおい、なんだよアレ…
そこまでいって、シュウはやっと悟った。
自分が戦っているのは、キラースパイダーなどでは無い、ボスクラスのモンスターであることを。
どうにかテーブルの下に潜り込み。敵の姿を見る。
唖然とした…
埃による煙が晴れ、姿を現したのは、体調4メートル程の大きな黒い蜘蛛。特徴的な前足は鎌のような形をしており、おそらくあの鎌で獲物を補食するのだろうと簡単に想像出来た。
おい、マジでか、あんなモンスター見た事ねぇーぞ…なんで、俺はあんな安請け合いしたんだよ。コイツ絶対、ボス級やん。危険度Aくらいやん。あーくっそ、キリエちゃんに頼まれたことじゃなけりゃーな…可愛い子からの頼まれごととか、普通断れねぇから。
一応、覚悟を決めて、テーブルの下から飛び出し剣を振るう。
大きな蜘蛛に当たったロングソードは、意図も簡単に折れ、その刃は宙を舞った。
おい、これ、まじでやばくね?
敵の前で武器を失くすとか…
実はまだ、この世界でHPがゼロになったらどうなるのか検証した人間は居ない。だけど…俺がその一号になったりしないよな? いや、なるだろ、あの蜘蛛の攻撃力でこの状況じゃ俺、死ぬわ。
最悪死を覚悟したシュウだったが、いつになっても蜘蛛からの攻撃は訪れない。不信に思ったシュウが蜘蛛をよく見ると…
蜘蛛は、物陰に隠れる《キリエ》を見つめ、キリエの前にまるで自分の主であるかの様に膝を付いていた。




