移動日
騒がしい中の静けさ
お盆が明け、全国大会に出場するため杏菜の所属する福山Phoenixリトルは会場でもある山口県の山陽小野田市に向けて観光バスに乗り込んで前乗りをしていた。
宏斗君や将希君を始めとする男の子達はまるで遠足みたくバスの中で燥いでいた。その頃、杏菜はというと図書館で借りた児童文学書を読んでいた。あまりにも難しい本を読んでいると、小学生なのにスゴいねと言われるか?それともホントに小学生なのか?そう疑われかねないからである。
車内で燥いでいる男の子達を見て、水瀬監督から注意をする。
「喧しいぞ。福山さんを見てみろ、移動中にも関わらず本を読んでいる。どうして1番新しく加入した子が1番大人しくてそれ以外は煩いのか。6年生は来年から中学生になるんだから、福山さんを見習って読書したらどうなんだ」
そうして目線は杏菜に向けられる。確かに自己研鑽のために読書をしているのは強ち間違いではないものの、そんな全員が食い入る感じで見られたら集中して読書が出来ないと言いたくなる。
何の本を読んでいるのかチームメイトから聞かれたら正直に児童文学書を読んでいると伝え、読ませて欲しいと言われたらかしてあげる。でも、図書館で借りたものだから汚したり破いたら図書館に行って謝りに行ってと釘を刺した。
バスに揺られて数時間、宿泊先の旅館に着いた。全員で大広間で晩御飯を食べてお風呂の時間になった。解散する前に杏菜が手を挙げた。
「今から福山杏菜お風呂に入ります。着替えやお風呂覗いたりしたら生きて帰れると思わないで。思春期の男の子だろうが、コーチ、監督だろうが容赦なく警察に通報されてもらうので気をつけてください。杏菜今言ったので聞いてませんとか間違っても言わないように」
バスでの移動、疲れたなと湯船に浸かる杏菜。それぞれの都道府県大会を勝ち上がって来たから初出場だろうが連覇を狙うチームだろうがここまで来たら関係ないと感じていた。
いまの福山Phoenixリトル、そして福山杏菜個人として全国のチームにどこまで通用するのか気になっていた。
県大会で負けたチーム、そして準決勝で対戦予定だった広島北リトルの選手にも恥じないプレーを見せなければ地元、広島に帰れないという意気込みでいた。
お風呂から上がって髪を乾かして部屋に行くと同部屋の男の子達は枕投げをしていて、明日の開会式早いから早く寝なよと年上のお兄さん達にまるで杏菜がお姉さんみたく振舞っていた。
寝る前に明日、着替えをトイレでするから覗かないでね。カギかけるからトイレに行きたい人がいたら予め言うように。遅かったら別の部屋でトイレしてと伝えた。
ホントは新しく入ってきたから妹みたく振る舞いたいのにどうして杏菜がお姉さんみたいに振舞わなきゃいけないのかと嘆きながら眠りについた。




