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案内された旧本堂の奥の間は、寺院というよりも薄汚れた物置のようだった。
部屋の片隅にある壊れた蓄音機の回転台から、錆びた針が一本、畳の隙間に落ちかかっている。
そのすぐ近くを、小さなトカゲが乾いた音を立てて横切った。
カツン、カツンと、不規則で乾いた金属音が室内に響き渡る。
そこにいたのは、威厳に満ちた将軍ではなく、泥だらけのシャツを腕まくりした中年の男だった。
男は床に座り込み、兵卒の予備靴の底に、自らハンマーで鋲を叩き込んでいた。
「第58連隊副官として着任いたしました、矢崎中尉であります!」
私は鏡面のように磨き抜かれた編上靴の踵を鳴らし、直立不動の最敬礼を送った。
だが、男は一瞥もくれず、黙々と作業を続けている。
男の肌からは、獣のような脂と安物の煙草が入り混じった、むっとする不快な臭気が立ち上っていた。
「おう、待っていたぞ。まあ、そこに座れ」
宮崎繁三郎少将は、ようやく手を止めると、汗をぬぐうこともせずに笑った。
その手は無骨で、指の爪の間には黒い機械油が容赦なくこびりついている。
私の純白の軍手、そして泥ひとつない革靴の輝きが、この空間で酷く浮いているように思えた。
「閣下、失礼ながら申し上げます。将官自らがこのような雑役に従事されるのは、軍の威厳を損ないます」
私は張り詰めた声で、教条主義的な非難を口にした。
将官たるもの、泰然と机に座し、大局の指揮にのみ専念すべきなのだ。
このような軍紀の緩みが、この支隊の不潔な空気を生み出している。
「軍の威厳、か。矢崎中尉、この帳簿を見てみろ」
宮崎は黒く汚れた手で、一冊の配給台帳を私に放り投げた。
台帳には、全兵員分の予備靴の支給が「完了」したことを示す朱肉の印が、美しく押されている。
「帳簿上は完璧だ。だが実際には、輸送途中の闇市で中抜きされ、ここには半数しか届いておらん」
少将は、再びハンマーを握り直した。
「泥濘のアラカン山脈を、兵に裸足で歩けとでも言うのか? 儀式用の軍紀など、一文の価値もない」
私は言葉を失った。
軍司令部が管轄する配給制度が崩壊しているなど、陸軍省の資料には一行も書かれていなかった。
大本営が承認したウ号作戦計画の、どこにこのような泥臭い摩擦が計算されているというのか。
「しかし閣下、軍司令部からの即時出撃命令が下達されているはずです。これ以上の遅延は抗命にあたります」
私は胸ポケットの計画書を意識しながら、さらに食い下がった。
「ああ、牟田口の中将殿からは、毎日怒りの電文が届く」
宮崎は、削り出された鋲をまた一つ床に落としながら、悪びれずに言った。
「だから、司令部には『機材の重篤な調整不良が発生』と報告してある。出撃は48時間引き延ばす」
「書類の捏造、でありますか!?」
私の叫びのような声を、少将は乾いたハンマーの音で打ち消した。
「兵の体力回復と、靴の鋲打ちの方が先だ。戦うのは司令部の机の上ではなく、この泥の上だからな」
宮崎繁三郎の濁った瞳が、私をまっすぐに見据えた。
国から与えられた規律を、この男は自らの意志で、冷酷に、かつ実利的に歪めている。
私は激しい幻滅と、この異常な部隊の規律を「私が正さねばならない」という独善的な焦燥に駆られていた。
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