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肌にねっとりとまとわりつく熱帯の湿気が、新調されたばかりの九八式軍衣を内側から湿らせていく。
特注の上等な羅紗地は、現地支給のゴワゴワとした兵用のものとは根本から仕立てが違っていた。
私は襟元に触れ、一分の隙もなく並ぶ真新しい中尉の階級章を、指先で愛おしむように確認した。
ビルマ・シュエボの古びた寺院の床板からは、饐えた線香の匂いが立ち上り、鼻腔の奥を不快に刺激した。
これが、不敗と謳われる宮崎支隊本部の実態だというのか。
陸軍士官学校第56期を優秀な成績で卒業し、恩賜の軍刀を授かる寸前まで行った私には、この薄汚れた空間が容認し難かった。
「第58連隊基幹、宮崎支隊長殿への着任に参りました。矢崎中尉であります」
私は汗ひとつかいていない純白の軍手を見つめ、指先に付着したわずかな埃を、冷淡に払い落とした。
私の前に立ち、一礼する泥まみれの軍使を、品定めするような視線で見下ろす。
最敬礼を返すその男の肩は、すでに現地特有の湿性皮膚炎に侵されているのか、かすかに震えていた。
「支隊長閣下は奥の旧本堂にてお待ちです。矢崎中尉、ご案内いたします」
薄暗い回廊を進む私の編上靴は、鏡面のように磨き抜かれ、埃ひとつ付着していない。
同期の凡愚どもは、こぞって参謀本部や総軍司令部の涼しい事務机を求めて奔走した。
だが、軍人の真の価値は現場の武功にこそあり、私は最速で勲章を掴み取るため、この地を自ら志願したのだ。
寺院の太い梁の隅に、茶色く変色した古い雨水受けのブリキ缶が放置されているのが目に入った。
その表面には、前任者が遺したと思われる煤けた蝋燭の燃え殻が、醜く固着していた。
軍紀の緩みが、このような末端の不潔さに現れているのだと、私は内心で舌を打つ。
私の胸嚢には、陸地測量部謹製の五万分の一地形図が、一ミリの狂いもなく収められている。
牟田口軍司令官が直々に承認した「ウ号作戦計画書」に基づき、我々は速やかにインパールを攻略するはずだ。
最新の多色刷りで描かれた等高線と青い流路は美しく、この完璧な図面があれば、いかなる密林も机上演習と変わらない。
「こちらであります、中尉殿」
軍使が立ち止まり、埃っぽい障子を開け放つ。
私は胸ポケットから完璧なる進軍計画書を取り出し、その端を親指でそっとなぞった。
大本営が承認した勝利の方程式を、実戦経験(実利)ばかりを誇る「泥の指揮官」宮崎繁三郎少将に叩き込んでやるのだ。
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