131話 夜闇の密会
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陽が落ち、
暗くなった空には星々が賑わいを始める…
…たが、
この場所には星々の光は届かないようだ。
靄のような暗い湿った空気が辺りに纏わりつき
闇が完全に支配する空間…
ダルムのスラム街を抜けた更に先…
人々が恐れ、忌避する廃墟…
夜よりも暗い闇の中に、
か弱い蝋燭の火だけが、
心細く…または不気味に揺れていた。
そんな仄かな光りが映し出すのは、女のしなやかな身体だった。レースの頭巾を目深に被った姿の女は、
蝋燭を横切り、主の元へゆっくりと歩いていく。
そして跪き、徐に主の手に口付けを落とす。
「申し訳ありません…あの悪魔を逃してしまいました…」
頭巾の女は震える声を絞り出し、主に詫びる。
「ふん…あの悪魔を匿っている冒険者らがいる…という報告だったな?
…あの小悪魔め、情を誘い、人間に取り入ったか…」
「女冒険者は腕が立ち…難儀してしまいました」
「まぁいい。
あんな低級小悪魔程度…逃げたとしても長くは生きられまい」
口を縫い付け、生きる為の糧を摂る事を禁じたのだ。
元々…主が複数召喚した悪魔共は、ごく短期間のみの用途として召し出した。
いわば使い捨ての悪魔共だった。
主にとって、命令に背き逃げ出したのは癪だったが…
どのみちすぐに、死ぬ事にはなるだろう。
「それよりも…お前が手こずる冒険者の方が
気にかかるな…」
数日前…
ダルム荒野で、主の右腕だった部下が何者かによって消滅した。
部下は主に次ぐ実力者だった。
並の冒険者では到底敵わない筈だったのだが…
杞憂かもしれぬが…万一、部下を倒した者が…この女の言っている冒険者と繋がりがあったとしたら…捨て置きはできぬ。
例え無関係だったとしても…
実力のある冒険者は早めに芽を摘んでおくのが得策だろう。
主と呼ばれる者は、頭巾の女の顎を持ち上げ、
新たな命令を下す。
「その冒険者なる者達を…この廃墟へ招待しろ…なぁに、手段は選ばぬ。
…できるな?」
「…はい」
否とは言わせぬ命令だった。
頭巾の女に拒否権は無い…
だが、それ以上に頭巾の女は、この主に心酔していた。
蝋燭の灯りが主の姿を仄かに映す。
白磁の陶器のように白い肌、頭巾の女よりも更に豊満な胸、赤く扇状的な唇…
主と呼ばれる者は、妖艶な美女だった。
だが…身体に特筆すべき点は他にもある。
その灰色の艶やかな髪…その頭部には、鋭利で禍々しい角が生えていた。
更に白く形の良い尻の付け根には、爬虫類のそれのような尻尾が太く揺れていた。
美しい容姿だが、
女主は人間では無かった。
その紫に妖しく揺れる瞳が如実に語る…
魔界の者だと…
頭巾の女はそれでも構わなかった。
女主の瞳に魅せられる…
その形の良い指が、頭巾の女の体に触れていく。
「話しは終わりだ」
女主は、頭巾の女の腰に手を回し引き寄せる。
形の良い唇を指で弄びながら、女主は頭巾の女に顔を近づけていく。
「主…様…」
頭巾の女は堕ちていく…蕩けるように深淵へ。
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