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一直線の強欲  作者: icemea
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第二章 第八話 怠惰な日常

 ファミレスにて食事をする。ファミレスのメニューは品揃えが豊富で、味も良い。おまけに、ドリンクバーでジュースが飲み放題なので気に入っている。普段は一人寂しく食事をするのだが、今回はテーブルの向かい側に話し相手がいる。

 その話し相手というのは、外面は文句なしに合格。話しをするのも楽しく、気楽にいられるので内面も合格な高物件だと思えてしまう。本音を言えば、こいつが彼氏だったらさぞかし嬉しいだろう。

 しかし、こいつは悪魔だ。それも高位の……。



 数日前。

 何となく、だるい。何をやっても長続きがしない。

「だるーい」

 この言葉を呟くのはまだ昼前なのに五度目である。一昨日は五回で、昨日は十回ぐらい。こんな調子では今日は十五回ぐらいになってしまいそうだ。だるいとか、やる気無し等の言葉が私だけの流行語だったりする。

 と、思ったのだがそうでもないのかもしれない。朝のゲーセンはいつもより人が少ないし、よく行く店の店員も何処となくやる気が無い感じがする。私が勝手にやる気無しになったのではなく、どっかでうつされてしまったのではないかとも思えてしまう程だ。

 神の手の神術師達も私と同様だったが、例外もある。負傷した神術師だけはそんな感じがしないが、それは単に負傷してだるいとか言えないだけじゃないのかとも思える。しかし、そんな負傷者の世話をする救護班の人はだるそうだったりする。薬の調合や治癒術の失敗をする人が続出している。私は治癒系の術は苦手だから負傷した時には頼っていたのだが今だけは頼るのを止めることにしている。

 結局、今日もだるく。期待していたゲームの新作に漫画やライトノベルの新刊、最新作があるというのに全部途中でほったらかしてしまう。こんな日は何もせず、寝ているのがいいのだろ。今日は人殺しの任務もないし。

 だが、変わったことはある。原因不明の昏睡者が少しずつだが増えていく。今日も一人増えた。

 

 そんなだるい日が続き、昨日。私はファエル様から呼び出された。

「エヴァリス。最近、増えている原因不明の昏睡者のことは知っていますか?」

「ニュースとかで取り上げられている程度にですが」

 ニュースで取り上げられているが、内容は昏睡者の情報と人数だけだ。原因不明なので取り上げる話が少ないのだろう。話の流れ的には魔術師や悪魔が関わっていると言われそうなのだが、この事件は魔術師や悪魔が関わっているとは思えない。意味が無いのだ、この事件には。魂を奪えば魔術師も悪魔も力を得るのだが、昏睡者にするだけでは力を消耗するだけである。魂の無い肉体は体の全機能が停止し死んでしまうので、昏睡者には魂があり生きているってことになる。

「その事件に悪魔が関わっているのです。それも、高位悪魔が」

「高位悪魔が」

 思わず敬語忘れ、大声を出してしまう。だが、すぐに冷静になろうとする。

「すいません。話の続きを」

「資料を用意しましたので読んでください。今のあなたは話を聞く余裕がなさそうですので」

 冷静にならなければならないのだが、冷静になれない。なので、ファエル様の好意に甘え、机の上に置かれた資料を受け取る。

「それと、これを」

 そう言いながら、ファエル様は腕輪を机の上に置く。

「これは?」

 腕輪を手に取り、観察する。鈍く光る銀色で飾り気は無く、外側には文字が彫られている。文字はアルファベットで単語が一つに文章が一つ。文章は腕輪の用途や単語から守護のこと。単語はおそらく腕輪を加護する存在。

「Raphael……」

 呟いてから理解する。単語の意味はラファエル。四大天使の一人で神の薬を為す存在。

「それは、大天使ラファエルの加護を得た腕輪です。一度ぐらいならどのような攻撃からもあなたを守ってくれると思いますよ」

 そんな説明を聞きながらふと思ってしまう。

「ありがとうございます。後、ふと気になったのですが大司教様の名前はラファエルに由来するものですか?」

「私も、聞いたことがないから確信は持てませんが多分そうだと思いますよ。天使の名に由来する名前は神術師では珍しくないでしょう」

 確かに、珍しくないけどそういう名は高貴な家柄の出の人に付けられる傾向がある。だが、私は個人に興味を持っても家柄に興味を持つことは無いので話を終わらせ、部屋を出る。

 部屋を出る時には、任務を言い渡す時に送る恒例の言葉をファエル様は言う。


「さてと……」

 資料を読む前に腕輪を調べる。腕輪に加護の力があることは信頼できるのだが、この腕輪にはそれ以外の力もあるのではと心配してしまう。大天使ラファエルの力を得た加護の腕輪はさぞかし使い勝手がいいと思う。だが、あのファエル様がこんな時にくれると加護以外に拘束とかの力がありそうだと不安に駆られてしまう。

 カッシアを目覚めさせたら私は教会を抜け、二度と教会には関わらないと決めている。だが、あの人はそれを許さない。逃げてしまうのなら殺す。あの人はそういう人だ。

 結局、腕輪には他の力があるかどうかはわからないので、今後ファエル様に会う時には外しておくと結論付けて資料を読む。資料には悪魔の居場所と討伐の作戦が書かれている。


 教会から東北にある片田舎。そこが悪魔のいる場所だった。

 片田舎と言っても教会から電車でいける範囲と考えると教会や私の自宅がある地域も発展はしているかもしれないが田舎なのかもしれない。

 そんなことを考えながら駅から見える光景。ビルがなく、小さな木造建築の家がポツポツと建つ緑豊かな村の景色を堪能し、深呼吸をしてみる。そして、空気がおいしいとよくわかっていないくせに何となく呟いてしまう。景色は私にとっては珍しくて楽しめたのだが、それだけしか思えない私には雑誌とかの写真で十分だと思えてしまう。むしろ、雑誌に載る写真の方が私の見る景色よりも良い景色を写しだしているだろう。

 それを自覚しながら、装備品を詰め込んだリュックから今日のために買ったデジカメを取り出して、今だけ無人の駅を出る。

 最初はデジカメの操作の練習を兼ねて私にとって珍しいものをいろいろとったのだが、デジカメの操作に慣れたときには少し凝った、人に見せるための写真も撮りたくなってしまった。ここで撮った写真は全部カッシアに見せたいし。

 結局、私は自然に対して何も思わないのか、良い写真が撮れる事は無かったのだが……。

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