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007◆地中の町アングラン

「驚いたな……まさか山の中にこんな場所があるなんて」


 大きなトンネルを抜けると、さらに大きく開けた場所に出た。地面を楕円形にくりぬいた様な空間で、今はちょうどその中間あたりにいる。

 辺りを見渡すと、別の場所に繋がっていると思われるトンネルが多数あった。魔法で光源を確保しているのか反対側にあるトンネルもよく見えるのだが、いかんせん距離があるせいか米粒程度の大きさになってしまっている。


 そして驚く事に、緩やかな坂の下――楕円形の底面にちょっとした町があった。

 木造、石造り、地面をくり抜いたもの等、多種多様な家々が立ち並び、中央に大きな時計塔がある。


「――地中の町アングラン。それがこの町の名前でござる。ウィル殿、どうでござるか? 山の中の秘密基地でござる! 男心をくすぐるでござろう!」

「あぁ……なんというかこういうところを見ると冒険者の血が騒ぐな!」


 もともと珍しい物や場所が好きで、ひとつの場所に留まるより色んな場所を見て回りたくて冒険者になった。なのでこういった場所にくると、とても心が躍るしおそらくニヤケ面になっているだろう。


「ふふふ……。気に入って貰えたようで良かったでござる」


 ドライは俺の反応を見て、満足げに小さな胸を張る。


「色んな種族の奴らがいるんだな」


 遠目から見てもコボルトだけでなく、モグラやミミズの様な姿をしたものだったり、泥が人型になったものだったり、地中にいそうな魔族や魔物が町中にたくさんいた。


「そうでござるね! ここの住民はそれぞれ鉱石や食料をとってきたり、それで何かをつくったり。皆で協力して仲良く暮らしているでござるよ!」


 ドライの言う通り、町は活気に溢れていて明るい雰囲気を感じとった。


「そうか……良い町だな……」


 昔の自分なら積極的に戦わないにしても、魔族の姿を見たらどうしても身構えてしまっていた。だけど今ならこの光景を素直に受け入れる事ができた。


「今はゆっくりと案内できないのが残念でござるが、仕事を終えて帰ってきた時にでも良ければ案内するでござるよ!」

「……あぁ、そうだな。その時は頼む」


 そう、今はあまりゆっくりとはしていられない。俺にはやらねばならない事がある。

 本当なら今頃、魔王を退治した報酬で仲間達とゆっくりと世界を旅するはずだった。それを台無しにしてくれた奴らに落とし前をつけさせねばならない。


「……? 了解でござる! とりあえず今日の寝床に案内するでござるよ~!」


 俺の表情が急に暗くなったのを見て、一瞬きょとんとした顔をするドライだったが、その後はすぐに歩きはじめて俺は黙って後を追った。




 町を歩いていると人族の俺が珍しいのかあちこちから視線を感じる。魔族の町なので当然といえば当然なのだが、見られる側からしてみるとやはり少し気になる。

 敵意を向けられたりしないか心配だったが、その点はドライが一緒にいてくれたおかげか大丈夫だった。

 一方そのドライはというと、顔馴染みが多いのかよく挨拶されたり話しかけられたりしている。食べ物の露店が立ち並ぶ区画を歩いていると、色んな店の主人から売り物を景気良く渡されて、気がつくとあっという間に両腕いっぱいに美味しそうな食べ物を抱えていた。


「うぃ、ウィル殿~。少し持ってもらっても良いでござるか……?」

「あ、あぁ……。なんというか人気者だな」


 俺も勇者と呼ばれていただけあって王国ではそれなりに人気があったが、今のドライのような待遇は受けた事が無かったので少し羨ましかった。まぁ、大々的に人前に出たのが数える程しか無かったので、顔と名前が一致しなかったりで仕方ないのだろうが。


「この町にはシノビ組の詰め所や訓練所がある故、よく来るのでござるが気づいたらこんな感じになっていたでござる。みんな優しくしてくれてとてもありがたいでござる!」


 そういってしみじみと感慨に耽るドライ。

 町の住人が優しいというのはもちろんあるのだろうが、なによりドライの性格がそうさせているのだろう。まだまだ短い付き合いではあるが、なんとなく面倒をみてあげたくなる気持ちになってしまう。

 俺には兄弟や姉妹はいないが、妹がいたらきっとこんな感じなのだろうなと思う。いちおう年上らしいけど……。


 そこでふと、道の反対側からドライによく似た姿の少女が歩いてきている事に気がついた。少女はドライの姿を見ると笑顔になってこちらに駆け寄ってくる。


「ドライお姉様! やっぱりドライお姉様です!」

「およ? おぉ! フィーアではござらんか! こんなところで会うとは奇遇でござるな!」


 おそらく姉妹なのだろう。フィーアと呼ばれた少女は、耳や尻尾といった外見といい服装といいドライと本当によく似ていた。

 強いて違いを挙げるとすれば、フィーアはドライより少し小さく、癖っ毛気味のドライよりストレートな髪質をしている事くらいだろうか。


「ほんとに凄い偶然です! 私はさっき訓練が終わって、ユディさんとお出かけしてたんですよ~」


「なんじゃフィーア、急に走り出して。……おぉ、何事かと思えばドライがおったのか」


 フィーアの後ろから、ユディと呼ばれた女性が現れた。

 ドライやフィーアと比べると少し身長が高く、この2人よりは年上なのだろうが、それでも少女といって差し支えない容姿をしている。


 赤い長い髪を後ろで結びあげ、首元にゴーブルをひっさげて厚手のエプロンを着たその姿を見て、おそらく何かしらの職人なのだろうなと感じた。


「おぉ! ユディ殿、お久しぶりですな! 妹の面倒見て下さってるようで感謝するでござる!」

「なーに、お前と比べればフィーアは手がかからん。それどころか儂の方が何かと世話になってしまっとるのう」

「あはは、拙者の事を引き合いにだされると弱ってしまうでござるな。……フィーア、お手伝いしてて偉いでござるよ!」


 おそらく旧知の仲なのだろう。会話に華が咲いている。


「そ、そんな大した事してないですよ? ……それよりお姉様、先ほどから気になっているのですが……」


 2人から褒められてたじたじになっているフィーアだったが、ドライと一緒にいる俺の事が気になるのか先ほどからチラチラと視線を感じる。


「そちらの男性は……? あっ、ま、まさかお姉様の恋人さんですか!? アインお姉様やツヴァイお姉様より先に男性を射止めるとは。……ドライお姉様凄いです!」

「ち、違うでござるよ! うぃ、ウィル殿は……その、えぇっと……。そう! 拙者の新しい同僚で弟分でござる!」


 いや、そんなものになった覚えはないが……まぁ妹の前で格好つけたいのだろう。ここは空気を読んで黙っておくことにしよう。


「まさかここで儂以外の人族と出会うとはのう……珍しい事もあったもんじゃ」

「あぁ、やっぱりあんたは人族だったのか。俺の名前はウィルフレドだ。今は訳あってノエルの指示に従い、ドライと行動を共にしている。俺の方こそ魔族だらけのこの町で人族に会うとは思わなかったよ」


 かなり人族に近い姿をしていたのでもしかしたらと思っていたが、ユディは魔族ではなく人族だったらしい。もっとも人族と言ってもおそらく俺とは別の種族なのだろうが……。


「儂はドワーフのユディじゃ。ふらりふらりと旅していたらノエルに拾われての。今はここで鍛冶師をしておるよ」


 人族には大きく分けて4種類の種族がいると言われている。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ハーフリング。

 ユディはやはりヒューマンの俺とは違う種のドワーフだったようだ。ドワーフの女性は少女に近い姿で成人を迎え、それ以降はほぼそのままの外見で生涯を終えると聞く。ヒューマンと比べて他の3種族は長命なので、実際のところユディは俺よりかなり年上なのかもしれない。


「私はフィーアです! まだまだ未熟者ですが、お姉様達を目標にシノビの腕を磨いています!」


 俺とユディが自己紹介をしているのを見て、フィーアもそれに続いた。なかなか礼儀正しい子なのかもしれない。


「拙者はドライでござるよ~! みんな、よろしく頼むでござるよ~!」


「知ってる」

「知っておる」

「知ってます」


「お、おぉぅ……3人とも息ぴったりござる。……そ、そういえば2人はどこに向かっていたでござるか?」


 そしてお調子者の姉が総ツッコミを受け、いたたまれなくなったのか話題を変える。


「……つい先ほど珍しい鉱石を掘り当てたと連絡があっての、素材としてきちんと使えるか確認しに行こうとしておった」

「私もせっかくなので見学させて貰おうと思い、ついてきてます!」

「今回のが使えそうなら、そろそろドライ用の刀を打ってやれるかもしれんのう」


 外見的にそうなのだろうなとは思っていたが、会話を聞いた感じやはりユディは鍛冶師らしい。


「ほ、本当でござるか!? 姉上達が持ってる様な業物が、拙者も頂けるかと思うと凄く楽しみでござる!」


 自分の刀が貰えると聞いて目を輝かせるドライ。ドワーフは鍛冶に長けていると聞くし、ドライの様子からしてもユディはきっとかなり腕の立つ職人なのだろう。


「ふむ、ウィルといったか。見たところお主もそれなりの剣を背にしておるようじゃのう。……どうじゃ? 機会があればお主の武器も儂が作ってやるぞ?」

「それは魅力的な提案だな。その時は是非お願いするよ」

「うむ。何か良い素材を手にしたら持ってくるがよい。お代は酒でよいからの~♪」


 今俺が持っている剣も王国内では名の知れた職人に作ってもらった一品ものなのだが、ドワーフが作るものに比べたらやはり劣ってしまうだろう。

 もし今後、なにか武器の素材になるようなものを見つけたらユディの元に持ってくるとしよう。

 

「それでは儂らはそろそろ行くとしようかの。今は任務中のようじゃが、時間ができたらゆっくりしていくとよい」


 そういって立ち去っていくユディだったが、少し歩いたところでフィーアが留まっているのに気づき立ち止まる。


「あのウィルお兄様! これから何かの任務をドライお姉様と一緒にされるのですよね? ……ドライお姉様の事よろしくお願いします! 色々と危なっかしいところがあるので、フォローして頂けると嬉しいです」

「お、お兄様って……まぁそれに関しては任せてくれ」

「大丈夫でござるよウィル殿。フィーアはウィル殿より年下でござるからお兄様でも問題ござらん」


 いや、別に俺がツッコミたいのはそういうことではなくてだな……。


「あ、あのドライお姉様の弟分と聞いたので……ご迷惑だったでしょうか?」

「あー……いや、うん。別に構わないよ」

「ありがとうございます! それではドライお姉様、ウィルお兄様、任務頑張ってきてください! ……ご武運を!」


 そう言い残すと、フィーアはユディの元へ駆けて行き、二人はそのまま町の雑踏へ姿を消したのだった。


そういえばツイッターやってます。https://twitter.com/komoriinu0128

昔描いた4コマとか少しあるので興味があればどうぞ。

残念ながらオリジナルではありませんが(;'∀')

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