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こちら、<対魔族魔法精霊学園>  作者: 海鼠なまこ
1 精霊の天敵
9/15

Ep.8 謝罪と食事と襲撃と捜査 後編

 8-1


「さすが要塞都市だな。こんな時間でも、普通に商売してるとは」

 ライトアップによって彩られた商店街を歩きながら、真來(しんらい)は明るく言った。

 時刻はすでに午後六時を回っているというのに、通りは活気に満ちている。人通りも途切れる素振りを見せず、商店もレストランも、客で大いに賑わっていた。靴屋や洋服、宝石商に混じって、空の魂端末(ソウルガジェット)や科学魔具、反転石(リバーストン)のアクセサリーを販売している店もある。

「ねぇ、そこの学生さん。寄ってかないかい?」「せっかくの学生さんだ、安くしとくよ」

 といった声が、左右から掛かる。真來は笑いながら、

「おまけに、俺みたいな東洋人にも優しいみたいだからな」

「それは貴方が学園の制服を着ているからですよ」

 先ほどから不機嫌なイヴは、刺すように言った。

 不満そうにはしているが、一切文句を言わないところを見ると、この外出を捜査と割り切ったらしい。……時々、わざとらしいため息が聞こえてくるが。

「留学生はお金をたくさん持っていますから。商人の方々にとってはとてもいいお客さんなんですよ」

「そういうのは嫌いじゃないな。慈悲や博愛なんかより、よっぽど信用できる」

「……これはまた、随分と殺伐としてますね」

()()()()環境で過ごして来たからさ」

 すると、突然、イヴが首を縮め、こそこそと真來の陰に隠れた。

 通りの向こうからすれ違うように歩いてくるのは、早くも酒が回った赤ら顔の男たち。

 酔ってはいるが、別に泥酔しているわけでもないし、真來たちにぶつかるといったようなこともしなかった。

 男たちはイヴの横を素通りし、イヴはほっとため息をついた。

 直後、背後で談笑していた商人たちがどっと笑い、イヴはびくっと仰け反った。

 真來は立ち止まり、イヴの余所余所しさと街の喧騒を見比べて、にやりとした。

「……なるほどな。そういうことか」

「……何ですか。貴方にわかったような顔をされるとは心外です」

 イヴが半眼になって、こちらを睨む。

「お前、オーディーンがいないと、心細いのか」

 図星だった。だが、それを悟られまいと、イヴは冷静を装い、

「……そんなわけないでしょう。私たちには魂端末があります。正当防衛であれば、クエスト以外の市街地での魂端末の使用が認められていますので。いざとなれば、すぐにでも呼び出せますよ」

「へえ。そいつは便利だな。おい、イヴ。どこか飯でも食っていこうぜ」

「……はぁ……全く、貴方という人は」

 イヴはまたわざとらしくため息を漏らし、運河沿いにある一つの料理店に入っていった。


 8-2


 店に入り、なんとなく料理を注文する。

 そして、イヴは真來に質問した。

「いくつか、訊きたいことがあります。いいですか?」

「どうぞ、お嬢様」

「……昨日のクエストで、疑問に思ったことがあるんです。貴方の戦闘スタイル、()()は何ですか?一瞬にして敵を瞬殺する、といった魔術だとしても、聞いたことがありません」

白夜(しろや)のことか?あいつは力を司る精霊で、一瞬──かどうかは知らねえが、能力の応用でできる……らしいぞ」

「……貴方自身も、よくわからないんですか?」

「ああ。ただ、白夜が言うには、どうやら限界まで魔力を高めて、あらゆる『力』を止めているらしい」

 そこまで話したところで、給仕が料理を持ってきた。皿の上に、子羊の肉が乗っている。

 給仕が去るのを待ってから、イヴは再び口を開いた。

「もう一つ、いいですか?貴方はなぜ、戦争に参加するのですか?」

 肉を食べようとした真來の手が止まる。一瞬後、真來は笑って、

「おっと、こいつは言えねえな。ま、所謂訳アリってとこだ」

 イヴは若干怪訝そうにしたが、深く追求はしなかった。

「まあ、いいでしょう。貴方も何か、質問したいことがあるのでしょう?」

 そのとき、真來はイヴに違和感を覚えた。

 どうして、俺の考えていることがわかった?

「……よし、俺のターンだな。一つ目に、お前がクエストで一目人鬼(オーク)を倒したあの技──あれは何だ?あれは物質を消滅させるのか?」

 イヴが一目人鬼を撃破した際、一目人鬼の心臓部は、滑らかに消滅していた。

「あれは、触れたものを電気に変換する閃光(ライトニング)という魔術です。一目人鬼の心臓部を電気に置き換え、それを地面に放電したんです」

 真來は感心した。これほど器用に魔術──それも複雑なもの──を扱うのは、簡単なことではない。おそらく、相当な量の訓練を積んできたことだろう。

「二つ目だ。お前はどうして、戦争に参加する?」

「……私には、夢があるんです。この手を血に染めても、この命に換えても、叶えたい夢が」

「へえ、お前も大変なんだな」

 それから、特に会話もなく、時間だけが過ぎていった。

「では、戻りましょうか」

「ああ。俺も、白夜に心配かけたくはないからな」

 料理を食べ終えた二人は、支払いを済ませて料理店を出た。

 学園への帰り道──先ほど歩いた商店街を歩く。

 学園の門が見えてくると、真來は異変に気がついた。

「──おい、あれ、何だ?」

 門の向こう側が、何やら騒がしい。

「何かあった──って、シンライさん!?」

 既に真來は駆け出している。

 制止の声を振り切って、真來は門に向かって走った。


 8-3


 真來たちが街へ出かける数時間前、イヴは風紀委員室の執務室にいた。

「それで?<精霊の天敵(アンノウン)>は見つかりそうかい?」

「いえ……ですが、私の推測が正しければ、おそらく今夜、出現するのではないでしょうか」

 会話の相手は風紀委員長のファルシア・ポールニアだ。

「……なぜ、今夜だと君は考えた?今までの襲撃において、<精霊の天敵>は二日続けて出現していない」

「確かに、今まで二日続けて<精霊の天敵>は出現していません。ですが、その固定観念に囚われて、警備や私たち風紀委員は成果を出せていません。一刻も早く犯人を捕らえなければ、学園生の中で暴動を起こす生徒も出る可能性もあります」

「ふむ……。まぁ、どちらにせよ、毎日の警備を強化したほうが良さそうだね」

「はい。学園生が安心して学園生活を送れるように──」

「安心して戦争が行えるよう、<精霊の天敵>は何としても排除しなければならない。僕たち風紀委員が奴を捕らえるんだ。どんな卑劣な手段を講じても、ね」

 彼の見つめる先には、学園生で賑わっているメインストリートがあった。

 今宵もそこに、恐るべき獣が現れる。

予定を変更して、この後にEp.8 afterを追加します。

これで「謝罪と食事と襲撃と捜査」は完結します。

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