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三秒殺しの日常  作者: 縁碕 りんご
CASE2:KANADE
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静かな嗚咽

 息を整え、金属製の扉を押しあける。

 

 落ちつきなくあたりを見回して。


 私は、白髪の男が屋上の転落防止フェンスをちょうど乗り越え、その向こうの、ぎりぎりの安全地帯に降りたつ光景を見た。コンクリートを乗り越えてしまったら…



 「このバカ…!!」

 走り寄り、思いっきりフェンスを殴りつけた。金属がぐにゃりと歪み…しれっとした顔で、そいつは振り返り…両目を見開いて顔を背ける。

 「私にフェンスを乗り越えてそっちへ行かせたくなかったら自分から戻ってきて。…じゃないとこっちから乗り越えていきます」

 

 ここでお決まりの台詞、「来るな!」という怒鳴り声が返ってきた。つまり、私がフェンスを乗り越えて下手に接近しようとしたら自分は死んでやる、ってこと。

 

 …ちゃちな脅しね。

 

 「ねえねえ友永くん」

 「……」

 「ねえねえ超ネガティブアルビノボーイくん!」

 「…(イラッ)」

 

 「やあっと、こっちを見たね」私は深く息を吐いて言った。

 「よかったね、私みたいなお節介なのに止めてもらえて…あんたはミステリアスでも、性悪でも、何でもなかった。…私は、すでに本当のあんたを見てる。

 いろいろ思いつめて飛び降り自殺しようとするぐらいの、普通の人だったんだね」

 「……」

 「やあ、皆知らないだろうね。何にも悩みごとがなさそうな、外見をむしろイメージアップに生かしていそうな友永奏が、ずーっと何かについて悩んでいたなんて。

 …私に何か相談したいことがあったんじゃないの?だから、関東大会予選に誘ってくれたんじゃないの?あんたは結局、私に話をしないで勝手に落ちていくのか。今さらぼくに関わるなとか言うなよ、頼んできたのはあんたなんだから」

 私は、彼の腕にはまったままのギプスをフェンス越しに静かに見つめて話し続けた。


 「不幸の死を遂げようなんて思うな。悲劇の主人公になるなよ。…今ここで喋るといい。あんたが私に相談したかったことについて。…そうしないと今から乗り越えていって力ずくでもお前をこっちに引きずり戻す」

 「…沢原さんて、図々しいしあつかましいよね」

 「私はお前よりも底辺にいた奴を何人も見てきたんだ。どうせ私は人を放っておくことができない英雄ヒーロー気取りだよ」

 バカにされても構わない。むかっとくるけど。でも今ここで、こいつを屋上から落としちゃいけない。


 「話せば…」

 ぽつりと言葉が漏れる。

 「はなせば、らくになれるの…?」

 発せられた声は酷く歪んでいた。

 「話したところで…沢原さん…君に、何ができるっていうの…?」

 「何もできないよ」


 粋がっていたバカどもの言葉が甦る。

 

 

 ――――『てめえに何がわかるってんだよ!』


 

 どいつもこいつも、同じ答えを言わせやがって。私は何でも解決できるスーパーヒーローじゃない。


 「ただ私にできるのは、生きることだけは諦めないように説得して、泣いてもらうことだけ」

 「ないてもらう…?」

 「生きることだけは諦めないでよ」と私はこれで何百回口にしたかわからない台詞を言った。

 「人は死ぬほどつらい時、泣けば楽になれる。なんならそっちに行って母親みたく抱きしめてあげようか」私は半ば本気でフェンスに足をかけた。

 「やめてよ」と彼は苦笑して言う。

 

 直後。フェンスの向こうから、小さな嗚咽が聴こえてきた。


 

 風が強くなっていた。




 私も静かに待ち続けた。待ちながら、学校が今日何時まで開いているかについて考えた。フェンスにもたれて、暗くなっていく空を眺めた。そうだ、野球部の部活で、最低夜8時ぐらいまでは開いてるはず。咲真や子規あたりが騒ぎだすだろうけど、赤メッシュのように殴りかかってきたりはしないだろう。


 

 やがて彼は、重い口を開いて語り始める。

 「父さんがね、俺にバスケやめろっていうんだ」から始まり、怪我について嘘をついた顛末とか、家であったこととか、すらすらと白状していく。まるでいじめられた子供が涙ながらに何があったかについて語っているみたいだった。

 「どうして僕が、怪我をしてないってわかったの?」

 「運動神経がいい人は反射神経もいい。何かが飛んできたらとっさに手をあげて回避しようとする。でも、本当にけが人なら、怪我をした腕なんて…ギプスは相当重傷だよね?痛くて動かせないはずなのに、どうしてあんたは顔色一つ変えず反射的に怪我した手の方を持ち上げたんだ?ってこと」

 「なんだあ…全部、バレてたのか」

 


 「ざまあないよね…俺」

 「おや、こっちに戻ってきてくれるの?」

 「うん、邪魔だし落ちそうだから、そこをどい…っ!」

 

 思いっきり風が吹きぬけていく。


 ぐらりと友永くんの体が嫌な方向へ傾いだ。

 

 ダメだ、それだけはダメだ。


 「奏!」

 とっさにフェンスに器用に足をかけて、体を持ち上げ手を伸ばしてアルビノの手を掴んだはいいが、逆に私が引っ張られた。私もバカみたいに嫌な方向へ体が傾き、もとの角度に戻れなくなる。

 

 六階だての屋上から、下の大型プールへまっさかさまじゃん!!…固い地面だったら即死でしょ。プールでも生きているかどうか…ああぁああああああああああ…!!!

 悲鳴もでてこないけど頭の中では確かに叫んでいる。


 うら…むぞ…お節介焼いたことに後悔してないけど、あの世で恨むよ友永奏!!

  


                    ――――――――――――暗転。

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