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第十五章 変態光臨――夜会への誘い







                             《綾崎紫苑》






(何と言うことだ……!!)

 今の気分を例えるなら、折れたつまようじ片手にフランスの外人部隊と戦うようなものだ。とんでもない話だ。邪気暴虐大不況だ。失われた十年、就職氷河期だ! 自宅待機に内定取り消しは酷すぎるでござろう!?

 そもそもアメリカにいるこやつが何故この日本に来たのだ?

「アッハハハハハ! グレート・サンダー・ミラクル・ハニー・シオン元気だったかい? もうキミのダイヤに匹敵する涙で枕をぬらす必要はないよ。このアレエッークスが来たからには、ボクの高貴で……デェン~ジャラスな、舌でナメナメナメしてあげるからね♪」

(いかん。吐き気がしてきそうだ……)

 一言で言うなら、あの金髪白スーツ男、アレックス・バグネットは――――変態だ!

 言動はキモい、キショい、デンジャラスの腐敗しきって悪臭を放つ三本柱に支えられ、聴いていれば様々な身体障害を惹き起こすほどだ。

 そもそもセリフの下になぜあれほど意味のない単語をつけるのだ?

 まあ、あのアレアレックスにも良いところはある。

(…………)

 いや、ないな。(断言)

 しいていうなら…………うーん、そうだな金持ちだな。それから……まあ、そんなもんかな。

(と言うか……その程度だ)

 それよりもプラスがあってもマイナス面の方が地球規模的に大きいので、異性の一人として、アレ公にはあまりと言うか全然魅力を感じない。

 十点満点でマイナス十点だ。

 そもそも私はアレ公にアーンなことやコーンなことをされるくらいなら、武士として潔く死を選ぶ。

「フ……久しぶりに見るキミの顔は、思わずコサックダンスを踊ってしまうくらいキューティフルだよ! コサックコサック、コサアアーーック! そして、その美貌は美の女神をひれ伏せさせ、天空の城を羽ばたく天使の如く優美で繊細で小悪魔的で、その上! ダイナミックでセクシーなその水着はボクの気高く尊い欲望にガソリンを流し込む如くさ! 大丈夫、ドント、ウォーリィーを探せ! エンジンは燃え燃えバーニングファイアーさ! 全く困った子猫ちゃんだ♪ このアレエッークスをこ~んなにも、燃え上がらせるなんて……!」

 放っておけば一日中やってそうなクサイを通り越して、アブナイ台詞を一度切ると、

「だ・か・ら……そのクソッタレのビチ糞野郎プラスアルファふんバエ野郎から離れて、このアレエッークスの胸に勇気と愛を込めて飛び込んでおいで♪」

「嫌だ。単純に陸のほうが良い」

 私は陸の胸にグリグリと顔を押し付ける。

 すると、アレ公の顔が般若の如く歪む。

「お、おい……いいのか? か、彼……青筋顔面に走ってるぞ!?」

「陸……そんなのはな、どうでもいいんだぞ。どれくらいかと言えば今の日本の総理大臣くらいどうでもいいんだ」

 心配そうな表情の陸に、諭すように真実を教えてやる。

「それは肯定しちゃいけないところだけど……確かにどうでもいいけどさ……」

「何だとそこの愚民!? そういう政治的無関心がジャップの悪いところだろう!」

 陸の納得の声にアレ公は、怒声を砂浜に響かせる。

 が、思い直したようにアレ公は尊大な笑みを浮かべる。

「まぁよかろう! 無知なキミに、ボクとキミとの差について説くと語ってやろう」

 アレ公は胸元から宝石のはめ込まれたクシを取り出すと、その金髪にクシをキザったらしくあてる。成金かつナルシストめ。

「そこの品格ゼロ。腐ったどてカボチャ少年リクを雑種の汚らしい犬コロと言うならば、ボクは血統書つきの高貴で、ミラクルなゴォォォォールデェェェン・レトリバーさ!」

 アレ公は大空に両腕を広げて、イカれた演説を続ける。

 しっかし、そんなゴールデン・レトリバー、私なら秒決で保健所行き決定だ。

「そこの教養クソでダメの五乗の少年リクをばばっちい雑草とするなら、ボクは光が溢れんばかりのゴージャスでアグレッーシブな紅いバラさ!」

 アレ公は胸元から紅いバラを取り出すと、それを口元に咥え、私にウインクを送ってくるアレ公の顔ときたら……何というアホ面だ。創世記始まって以来の気狂いなのかもしれん。

 だいたい、バラと言うよりもヘドロまみれの毒の花だろうに……

「そこの腰抜けの敵前逃亡は当たり前、の●太くんにも劣るだらしない汁100%少年リクを、敵の地雷原でウロウロしている非武装の三等兵とするなら、ボクは帝国陸軍士官学校をトップで合格し、トップで卒業した超エリート士官ナンバワ~ン軍人さ! いうならサ●ヤ人の王子だ」

 そう言うとアレ公はクルーザーの甲板で、クルクルと身体をスピンさせる。

 全くアレ公のような軍人がいて、その軍人の上官が私なら、世の中の平和と秩序、そして、私の個人的恋愛野望のために即、銃殺だな。あと私がフリーザなら惑星ベジータをベジータごと消す。

 だいたい、このアレ公のせいで、《海でドッキリ急接近》が台無しではないか!

 そうわざと溺れて――――実際に溺れたが――――人工呼吸を迫ると言う乙女の必恋技が、野望のときめきが、何よりもラヴがおじゃんではないか!?

(ぬぅうう、だんだんムカついてきたでござるな~)

 アレ公を呪う目つきで睨む。

「ハッハ~~ン♪ そんな熱視線を送るなんて……たまらなくなったのかい、シオ~ン?」

 気ッ色悪い嬌声を放ち、とんでもない、それこそ超電磁的・誤解をするアレ公。

「やかましい! 貴様は紫苑ちゃんの《心の内心点》マイナス千だッ!」

「サ、サウザント!? Ohッ、why!?」

 名画《ムンクの叫び》そっくりの表情のアレ公に、私はさらにコンボを叩き込む! 乙女とは躊躇しないものなのだ。

「ええい、オマケだ! マイナス万だッ! 持ってけ、泥棒ー!」

「アウチッ!? NOね、マイナスNO thank youね!」

 アレ公は散弾銃を至近距離でくらったかのような衝撃を心に受け、激しく首を横に振る。

(今こそ、勝機!)

「だいたいお主は駄目だ! 嫌がる女子に無理矢理迫る時点で、漢として最低最悪最嫌!」

「ハウアッ!?」

 胸をかきむしるアレ公に構わず続ける。その姿は心臓に杭を打ち込まれたドラキュラのようだ。

「日米絶交宣言! 超ネガティブ外人! 二〇〇%超絶駄目男! 暴漢! ヤンキー! 歩く危険人物! 蠢く変態!」

「NOOOOOOOOOoooooooooooooooooooooOOOOOッ!?」

 アレ公は両手で頭を抱えて、馬殿のように一際高く声を上げる。フフフ……勝った!

「どうだ! 少しは懲りたで、ござるか?」

 精神病患者のように虚無を宿したどこか鬼気迫る表情でブツブツと呟くアレ公に詰問する。

「せ、精神が壊れるまで攻撃するのか……?」

 ゴクリと慄きに喉を鳴らし陸はそう言うが、されど……

「ハッハハハッハハハハハ!」

 ちっ、つんざく笑い声は、アレ公のものだ。

「なるほど、OK。分かったよ、シオン。キミはこのアレエーックスに照れているんだね?」

(何をどう解釈すればそうなるんでござるかーーーッ!?)

 これにはさすがの私も不意打ちでボディブローをくらったアウトボクサーの表情で顔を歪める!

「大丈夫さ、心配はない! ボクの心のキャンバスに、好きなだけ愛と言う名のキミの絵の具で絵を描くがいいさ! ボクの心の扉は何時でも開いているよ! そう、証拠を見せてあげる♪」

 そう言ってアレ公は変に穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと……ゆっくりとズボンのチャックを下げる!?

 意図がわからぬ! 皆目見当がつかぬ! 誰か二文字で説明せよ!


 ジジジジジジ…………!!


(むわぁ!? へ、変態でござる~! 本物の、正真正銘の、生粋の、ナマの変態だ!?)

「そこの扉開けてどないするねん!」

 怯える私にかしずく騎士のように、陸はつっこみソードで、アレ公を切る!

 しかしアレ公は余裕の笑みを見せ、

「フ……早合点するな愚民Boy…………これを見ろ!」

 アレ公はズボンのチャックの中から一枚のカードを取り出す。指先でそれを掴むと、ピンと弾くように投げてきた。

「な、何だ?」

 手の中へと落ちてきたカードへと視線を落とす陸。

 おのれ、後でちゃんと陸に手を洗わせないと……

 そして、私は陸の手元にあるカードに視線を走らせる。

「む……これは……」

 それは招待状。

 アレ公の所有する日本の別荘で開く宴の招待状だ。

 なぜに変態が主役の宴に出席しないといけないのか、理解に苦しむ。

 当然断ろうと口を開くが……

「キミのご家族の方も当然大出席さ!」

 口から言葉を紡ごうとした瞬間、それは止まる。

「ご家族……だと?」

「フ、その通さ。キミのご両親も当然、大出席さ!」

 バラを胸元から幾本も取り出し、アレ公はそれを四方八方に散らす。

「………………………………お爺様はいらっしゃるのか?」

 探るような私の問いかけに、アレ公はペラペラと喋り始める。

「ん? もちろんさ。シオンのことが気になるとおっしゃっていたからね。きっと、ボクたちの関係がどこまでいっているか、気になっておられるんだと思うよ。フフ~ン!」

 それは違う。

 そもそもアレ公と私の関係は無関係だ。

 決して、私と陸のような《未来は必ず》恋人関係ではない。

(私のことが気になるとおっしゃっていただと……)

 すでに私のことがバレている。

 しかし、それならばなぜすぐに連れ戻さない?

 お爺様ならそれが可能なはずだ。

 どうする? お婆様もいらっしゃるとなると……いや、これはチャンスかもしれない。

 キッと鋭い視線で陸の顔を見上げる。

 ちなみに、今もまだ私は陸にお姫様抱っこをしてもらっている。……至福でござる。

 とと。顔を緩めている場合ではない。きりっとした表情を作る。

「きりっ」

「な、何だ紫苑?」

 私の視線に戸惑う陸。

 フ、なんと胸が締めつけられるような仕種だ、ジュルリ。

 変態アレ公の宴には、私の家族が出席する。その場にはおそらく私の親族も出席するに違いない。とすれば必然、お爺様も……。

 お爺様からアレ公の婚約を言い渡された時の言葉が思い出される。


『紫苑、バグネット家の嫡男であるアレックス・バグネットと婚約を結べ』

『な、そんな突然すぎます! 私には……!』

『これは綾崎グループの総帥としての言葉だ。異論は認めん』

『くっ……』


 こんな決定。突然押しつけられた運命――――納得できぬ!

 ピンチはチャンス!

 そう、これは願ってもないチャンスだ。

 アレ公の披く宴の場で、陸と私が恋人という関係を見せれば、きっとお爺様も考え直してくれるに違いない。

「よし! その宴に出席しよう」

「ヒャッホーーーー!」

 アレ公はアホのように、クルーザーの甲板の上で、足を激しく踏み鳴らし、踊り狂う。

「ハアッハハハハハハ! ざまぁみやがれ、ジャップ! これぞラヴの成せる技! そう、シオンはこのアレエッークス主催のナイトパーティーに出席するのさ! 庶民であるキミには想像もできないほど、豪華で、高貴で、スペシャルなパーティーにね! 出席したいかい? ダメダメ、絶対ダメ! 出席なんてさせてあげないよ!

せいぜいキミは近所のケーキショップで、卑しい庶民の財布の中身と相談でもしながらケーキでも買い、年の数だけロウソクを立て、独り寂しく、侘しく、悲しく、切なく、やりきれなくロウソクの火を吹き消してるがいいさ、ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 加虐的で歪んだ黒い笑みを顔に刻みながらアレ公は哄笑する。

 そんな歪んだ幸福絶頂にあるアレ公に気が進まないが話しかける。

「ただし、条件がある」

「ん、何だいシオン? 何でも言ってごらん」

「陸をその宴へ出席させてくれ」


 ビシリッ!


 破滅的な異音をたてて、アレ公の顔が破綻するが知ったことではない。

 目は極限まで見開き、鼻から出る息は酷く荒い。口はギリギリと歯ぎしりをしていて、髪は逆立っている。両肩は怒りのためかブルブルと寒さに震えるかのように、戦慄いていた。

 その様子を見てはてなと首を傾げる。

「ん??……駄目か?」

「ダメ! 嫌よ嫌よは、嫌って意味だ! must notッ!! そんな愚民はボクのパーティーに相応しくないを、ぶっちぎりで一番さ! しいて言うなら、金の中に一つだけ汚らしい銅が入っているようなもんさ!」

 唾を飛ばす勢いで、アレ公は私の条件を却下する。

 むう……なんたることだ! どんな手を使っても、陸を宴に出席させねば!

 何かアレ公を説得できるものがないかどうか、周りを見回し、それを見つける!

「空音殿ッ、そのウサギ殿のぬいぐるみをかしてくれぬかッ!?」

 海殿と一緒に砂の城を作っている空音殿の手の中にあるウサギ殿のぬいぐるみを指差して、尋ねる。

「え、ウサぴょんを? いいわよ」

 空音殿は笑顔で快く了承してくれると、幼児くらいの頭の大きさがあるウサぴょん殿の首をガシッとワイルドな仕種で掴むと、ブーメランよろしく放り投げてくる。

 ウサぴょん殿はきりもみしながら大空を舞い、私はオオワシが獲物を獲得する仕草で、ウサぴょん殿の首をジャキューンと掴む。

「お、おい紫苑。別に俺は……」

「ふ。この紫苑ちゃんとウサぴょん殿に任せておけ」

 何か言いつのる陸の言葉を遮り、アレ公の方を向く。

「ノン、ノン。そんなラビット如きに、ボクを説得できると……」

 構わずウサぴょん殿の首を掴み、地面に引きずるようにライオンの如く雄々しく砂場を闊歩。アレ公に近づく。

 ある程度近づくと足を止め、ウサぴょん殿を胸の辺りで《乙女チック》に抱き締め、《乙女チック》に首を右に四十五度傾けると、《乙女チック》に上目使いで、《乙女チック》に尋ねる。

「ねぇ、アレックスぅ…………ダメぇ?」

 これぞ《乙女チックチェーンコンボ》!

 紫苑ちゃんの乙女度を最大限に高め、その大輪の花が咲くが如く乙女っぷりを、乙女言語にのせ、膨れ上がった乙女パゥワーを敵に放ち、敵を撃沈する紫苑ちゃん七つの大技の一つだ!

 ちなみにこの乙女パワーの本質は、敵を欺くための偽者である。

「ろ、露骨すぎるんじゃああぁぁぁぁぁぁぁああーーーーッ!!」

 陸は半ば裏切られると確信しながらも、相手を信じていたのに、やっぱり裏切られてしまった者の悲鳴に酷似した叫びを上げる。

「さすが陸! この嘘乙女っぷりを暴くとは……!」

 戦慄の表情を見せ、口から流した架空の血を右の甲で拭う。

「アホかッ! あんな原始人でも分かる……いや脳の容量が少ない下等生物にも気がつかれそうな明確な策略の意図をもった色仕掛けが通じると思ってるのかよ!?」

「むう……ウサぴょんじゃなく、カエル殿にすれば陸すらも騙せただろうか?」

「そう言う問題じゃないないだろ、だいたいそんな演技で彼を騙せると……」


 ブバーーーーッ!


 陸がアレ公の方を振り向く。

 瞬間、アレ公が盛大に両方の鼻孔から、ナイアガラの滝の勢いで鼻血を噴出していた。

「Very pretty―――ッ!(マジ 可愛い)」

 目から感激の涙。

 鼻からは興奮の血。

 口からは歓喜のよだれ。

 喜悦に歪んだ表情。

 今のアレ公は正常な感性を持つ者ならば、体ごと一歩後に引きかねないものだった。

「な……下等生物以下なのか!?」

 今度は陸が戦慄の表情を見せる。

 私は陸の問いかけにしたり顔で、頷いてやる。

 あやつはアメーバ以下……いや、ありとあらゆる生命体以下だ。

「もう~、仕方ないな~。よし、そこの愚民Boyも出席させてあげよう!」

 流血を続けるアレ公の鼻へ、隣に控えていた老執事が嫌な顔一つせず、ティッシュを詰め込むというプロの仕事ぶりを見せ付けてくれる。

「いや、でも俺は……」

 再度、言いつのる陸だが、

「ノンノン、No! キミの意見は口から出る前に超絶サンダーボルティックファイア却下なのさ! ま、パーティーで庶民とボクとの格の差でも知るがいいさ!」

 思わず石でも投げたくなる暴言で、アレ公は陸の言葉を遮る。

「パーティーは二日後! ドレスとかはこちらで用意するから待っていたまえ! では二日後、よりグレイトで華麗で優美になっているアレエッークスと会おう!」

 ほざくとアレ公は、うひゃひゃという例の気色の悪い哄笑を放ちながら船内へと戻って行き、やがてクルーザーは私の視界から遠ざかって行く。

 見えなくなるクルーザーを見て、沈んだら良いなと思っていたのは、乙女の秘密でござる。






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