聖夜の茶番劇(西麻布のイタリアン編)
(舞台は西麻布の隠れ家イタリアン。照明は限界まで落とされ、テーブルには細いキャンドルが一本。「私」が、テーブルの下でスマホを高速連打している。)
「……ねえ、聞いて。今この瞬間、私の目の前で展開されてる『地獄のプレゼン大会』の進捗を。
お店は完璧。ナプキンは凶器みたいに硬いし、ワイングラスは消えてなくなりそうなほど薄い。
運ばれてきた『真鯛のカルパッチョ』はハーブの面積が広すぎて、もはや盆栽食べてる気分。
(スマホをテーブルの下で操作する)
【実況ログ】
『見て、この完璧な一皿。でも、目の前の男が語ってる「Web3.0による地方創生」っていう起業の夢、ぶっちゃけこの冷めたパスタより中身ないんだけど。「すごいね〜」ってBotモードで返信してる私、マジでアカデミー主演女優賞もんでしょ?』
(顔を上げ、彼に向かって甘い声で)
『……えっ、本当に? 〇〇くんの視点、マジで解像度高すぎて尊敬する……。』
(再びスマホに目を落とし、猛烈な勢いで毒を吐く)
『追加注文、白トリュフのリゾット。香りは最高だけど、この男の語彙力は最低。さっきから「シナジー」と「コミット」しか言ってない。あんたの脳内、ビジネス用語の福袋かよ。 写真は撮れた。キャンドルの光を反射させて、彼のエルメスのカフスを映り込ませる。はい、勝ち。これで明日の承認欲求は確保したわ。』
(大きく溜息をつき、客席に向かって)
目的は達成した。この空気をデジタルデータに変換して世間に放流した。私の仕事は終わり。 あーもぉー、早く帰りたい。帰りたい帰りたい帰りたい!
この窮屈なスカート脱ぎ捨てて、ヨレヨレのスウェットに着替えたい。 高級ワインじゃなくて、コンビニのレモンサワー飲みながら、ネトフリで殺人事件のドキュメンタリーが見たい。 この自称・起業家の熱い夢語りより、死体の方がよっぽど雄弁で、私の心を癒してくれるわ。
(再び彼に向かって、最高の笑顔で) 『……えー、もっと聞かせて? 次のフェーズの資金調達の話。』
(客席を振り返り、冷徹な瞳で)
……ねえ、これが「幸せのど真ん中」の正体だよ。 美味しいはずの料理が砂の味しかしないのは、私たちの会話がただの「虚栄心の等価交換」だから。




